表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
109/331

第八章 秋姫対峙 14

十四

「委員長が、秋姫……? どうなって……」

 唖然としながら、榎は二人の秋姫を交互に見つめていた。

 頭が理解できず、ついていけない。いろんな謎が脳内で膨らみ、破裂しそうだった。

「お話は後で。ええ加減、偽者は退治せな、私も気が済みまへんさかい」

 榎の困惑を抑え込み、あまねは萩を睨みつけた。

「加勢するで、佐々木っちゃん!」

 柊が勢いよく飛び込み、周の隣に並ぶ。目の前の事実を、柊はすんなりと受け入れられたのだろうか。榎は動けないままだった。

 周が、柊に何かを耳打ちしていた。柊は大きく頷き、笑って薙刀を構える。

 二人の敵意を受けた萩は逆上し、折れた鎌を手に踊りかかった。周は素早くかわし、柊が薙刀で弾いて、軽く受け流す。瞬間に生じた隙を狙い、周が素早く射た矢が、萩の背中に刺さった。萩はおぞましい悲鳴をあげる。

 冷静かつ、流麗な戦いだ。動揺しているだけの榎とは違い、柊は完全に周と息を合わせ、連携を完成させていた。

「どいつもこいつも、目障りだ! 秋姫はアタシだ! 全ての妖怪どもを、邪魔する奴を根絶やしにしてやるんだ!」

 苛立った萩は己の存在を主張して、激しく喚く。

 そんな姿を、周は冷静に見つめていた。

「妖怪を全滅させて、動物を怨霊に変え、悪鬼オニの楽園でも創るつもりどすか?」

 周の言葉に、萩は妖艶な笑みを浮かべた。

「悪鬼なんて、知るか。アタシ一人の楽園だ。この世のあらゆる生き物を、怨霊に取り込ませて、妖怪の狩場を作ってやる。お前らが生きるも死ぬも、アタシの気分次第ってわけだ」

 萩が低く笑うと、周囲の空気に圧力が掛かった。体が重く、息苦しさを感じる。

「アホぬかせ! お前みたいな化けもんに、好き勝手されてたまるかい!」

 澱んだ空気を振り払い、柊が攻撃に転じる。

 だが、武器を壊されても、萩の攻撃力に衰えはない。柊の薙刀は、軽々と弾き返された。

「やっぱり強いな……。どないして、ケリをつけたらええんやろうか」

 柊が一人で掛かって行っても、すぐに防戦一方になる。

 いつまでも、腰を抜かしている場合ではない。榎も、戦いに加わらなくては。

 体に力を入れなおし、体勢を整えた。

「榎はん、まだ戦えますな? 柊はんに悪鬼の動きを止めてもらっておる間に、私は、あの悪鬼の弱点を探ります。狙って攻撃してください」

 榎の側にやってきた周が早口に指示を送ってくる。榎は驚いて、周を見た。

「弱点なんて、探れるのか!?」

「私は、戦うよりも、そういった補佐に向いた陰陽師らしいどすな」

 周はいつもと同じ、落ち着いた笑みを、榎に向けてきた。

 背を押され、榎は立ち上がらされた。

 前方では、柊が萩の動きを止めるために、奮闘している。

 以前までとは、明らかに武器の捌き方が違う。武器が壊され、萩の攻撃方法が変わったという原因もあるが、柊が使う薙刀術特有の、流れの活きる動きが最大限に生かされ、少ない労力で萩の攻撃を受け流していた。

 さっき、周が柊に耳打ちしていた内容に秘密があるのだろうか。

 加えて、柊と萩がぶつかり合っている場所から榎の目の前まで、まっすぐに見えない道が生まれていた。今、榎が立っている場所は、二人の戦いを客観的に把握するために、絶好の位置取りだと気付いた。

 萩に隙が生まれれば、すぐに見つけて、切り込んでいけた。

 榎は悟る。周が即座に、榎たちが戦いやすい方法や場所を把握して、さり気なく誘導してくれたのではないか。

 榎と柊の性質を細部まで理解し、最大限に生かした戦法が、導き出されていた。

 四季姫としてではなくても、周はいつも、榎たちが戦っている場所にいた。榎たちの戦い方、動き、何もかもを誰よりも間近で見て、知っている。

 バックに周がついていると思うだけで、戦いに余裕が生まれた。

 不思議と、力が湧いてきた。初めて一緒に戦うのに、初めてな気がしない。

「頼むよ、委員長! 弱点を教えてくれ!」

 気合を入れて、榎は身構える。周は頷いて、萩に視線を向けた。

 矢を持たず、弓の弦だけを引き、萩めがけて的を絞った。

 萩の体を覆う形で、光の輪が出現する。梵字が繋がった形状の輪は、激しく回転して萩の全身を、隅々まで調べはじめた。

「――〝千里せんりまと〟。……見えました。榎はん、右肩を狙ってください、古傷の痕があります。奴の弱点どす!」

 光が飛散すると共に、周が結果を知らせてきた。榎は重くなった剣を握り締め、萩の右肩に狙いを定める。

 だが、突然、膝が折れた。気持ちは前向きだが、体が悲鳴をあげている。体の中に際限なく取り込まれていく、自然の力の負荷に耐え切れなくなってきていた。

「あと一撃だけ、ってくれ! あたしの体!」

 体に喝を入れるが、なかなかいうことをきいてくれない。

「榎はん、無理はいけまへん。私が、狙います」

 周が変わって、矢を萩に向ける。だが、矢での攻撃では、致命傷を与えるには難しい。

 こんな場所で、足を引っ張るのか。悔しさに、榎は歯を食いしばった。

 ふと、どこからともなく、笛の音が聞こえてきた。徐々に、体の疲労が取れて、体が楽に動き始める。

「遅くなってごめんね! えのちゃんに、ありったけの力を送るわ!」

 細い山道から、変身した椿が駆けつけてきた。汗を流し、息を切らしながらも、続けて笛を吹き続ける。

 いける。榎は周と頷き合った。周は道を譲り、榎は渾身の力を込めて、駆け出した。

 榎に場を譲り、流れる動作で柊が萩の攻撃をかわし、身を引く。動きのテンポを崩された萩は、一瞬、動揺して体の動きを止める。

 榎は、見逃さなかった。

「手加減すんなや、榎! 一気にいけー!」

 掛け声にあわせて、剣を振りかざす。

 瞬間、萩の人間だった頃の姿が、榎の脳裏にフラッシュバックした。

 萩を仲間だと信じて、何とか更生させようと尽力してきた日々が、蘇る。

 萩が、人間ではないなんて、考えたくない。

 悪鬼である現実を突きつけられた今でも、どうにかならないかと考えている。たとえ、四季姫でなくても。

 ただ、倒すだけの行為に、榎は少し、抵抗を覚えていた。

 その躊躇いが、榎の剣を鈍らせた。

 急所の右肩めがけて、剣が切り裂く。間違いなく命中した。萩は甲高い悲鳴をあげて、武器を落として体を震わせる。

 だが、倒れるには至らず、榎がよろめいた一瞬を突いて、素早い速さで、目の前から姿を消した。

「逃げられてしもうたか……」

 柊が舌を打つ。気持ちだけならば、すぐにでも探しに追いかけたいところだが、既に体は満身創痍だ。剣で体を支え、地面に膝を突いた。

「えのちゃんの、あの凄い攻撃でも、倒せなかったの?」

「少し、手加減しはりましたな?」

 ばっちり指摘され、榎は俯いた。

 せっかく、周が作ってくれた最大のチャンスを、棒に振ってしまった。

「ごめん、無意識に、躊躇った……」

「あの傷やったら、しばらくは大人しくしているでしょう。よう、頑張らはりましたな」

 周は項垂れる榎に、心からの賛辞を贈ってくれた。

 達成感と罪悪感が、同時に襲ってくる。妙に心が乱れ、榎は泣きそうになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングに参加しています。よろしかったらクリックお願い致します。
小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルも参加中。
目次ページ下部のバナーをクリックしていただけると嬉しいのですよ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ