表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
105/331

第八章 秋姫対峙 10

 宵月夜に部屋から追い出された榎たちは、そろそろ家に帰ろうと、佐々木家の廊下を玄関に向かって歩いていた。

「さっちゃんの家に来てよかったね、えのちゃん。みんな、えのちゃんに味方して、期待してくれているわ」

 椿が嬉しそうに語る。榎は複雑な心境で、頬を掻いた。

「プレッシャーがすごいけど……。でもやっと、きちんとけじめがつけられそうだ」

「さっちゃんの意外な一面も知れて、楽しかったしね」

 先刻のやり取りを回想して、椿は思い出し笑いを浮かべていた。榎の顔も、つられて綻ぶ。

「確かに。見事なまでに妖怪を飼い慣らしたな。流石は委員長」

 きっと、周も、あんなにも宵月夜が心を開いてくれるとは、想像もしていなかったのではないか。最悪、片思いでもいい、と思っていた結果だから、余計に動揺も大きかったのかもしれない。

「でも、仲良くなればなるだけ、何だか切なくなるわね。ずっと一緒にいられないって、分かっているから、尚更」

 周と宵月夜の行く末を考えると、いつまでも幸せボケしている気分ではいられない。

 世の平和のために、宵月夜は封印しなければならない妖怪だ。

 周だって、ちゃんと分かっていた。分かった上で、少しでも宵月夜と距離を縮めようと、理解しようと努力していた。

 宵月夜も、気持ちは同じだろう。封印される運命ならば、せめて、遺された僅かな時間で、周との思い出をたくさん作ろうと、躍起になっている。

 結果だけ考えれば、切ない話だ。でも、あの二人だったら、何らかの納得のいく答を導き出せそうな気がする。

「……人と妖怪って、どうやっても相容れないものなのかしら。椿の想いも、やっぱり叶わないのかな……」

 憂鬱そうに、椿が呟く。

「椿の想いって、何の話?」

「ううん、なんでもないよ! 気にしないで」

 意味深な言葉が気になって尋ねるが、勢いよくはぐらかされた。

 延々と続く、長い廊下を歩いていると、途中の部屋から何やら怪しい物音が聞こえた。

 こっそりと覗き込むと、和室に置かれた和箪笥の中身を漁りまくる、八咫の姿が。

「……八咫、お前、何をしているんだ?」

 背後から声を掛けると、八咫は驚いて体を飛び上がらせた。

 その拍子に、バサバサと大きな冊子が畳の上に落ちる。

 重厚な装丁の、立派なアルバムだった。表紙には、「四季が丘幼稚園」と書かれていた。

「懐かしいー! 幼稚園のときの卒園アルバム!」

 椿がアルバムを拾い上げ、楽しそうに捲り始めた。

 だが、なぜ八咫は、周の昔のアルバムなんて漁っていたのか。

「我は、宵月夜さまに頼まれて、周どのに関する情報を集めておる。決して、泥棒行為で戸棚を物色などしておらぬゆえ!」

 不審な目を向けると、八咫は必死かつ、堂々とした言い訳を嘴から放った。

「泥棒じゃなくたって、勝手に家捜しする奴があるか! 猫探しはどうしたんだよ!?」

「鳥が猫に敵うと思うか、捕まったら食われてしまうわ!」

 ご尤もだ。偉そうにふんぞり返って放つ台詞ではないが。

「心配めされるな。猫は他の妖怪たちが総力を挙げて探しておるし、我も動かしたものは、きちんと元の場所に直しておいた!」

「そういう問題か!?」

 どうも、泥棒の屁理屈にしか聞こえず、疑問が残る。

「別に、こそこそと探らなくたって、さっちゃんから直接、訊けばいいでしょ?」

 椿の指摘に、八咫は複雑な表情で唸りだした。

「むむ、周どのは、自身の過去についてはあまり触れたがらず、聞きだそうと頑張っておる宵月夜さまも、難儀しておられるのだ」

 単純に宵月夜がしつこくて閉口してるだけではないのか。でも周のことだから、もしかすると、本当に話したくないのかもしれない。

「人にはさ、知られたくない過去だってあるんだよ。あんまりしつこく詮索していると、委員長に嫌われるぞ」

 釘を刺すと、八咫は少し焦って見せた。

「嫌われては困る。致し方ない、宵月夜さまには、もう少し距離を置いて、お付き合いをしていただかねば。宵月夜さまは、突っ走ると見境がなくなる性格が困ったもので」

「ああ、そんな感じだな。見ていて分かった」

 手下にまで把握されているくらいだから、宵月夜のしつこさは折り紙つきだ。

 周にとっても、奴の性格だけは大誤算だったのではないだろうか。

「さっちゃんって、小学校の低学年の頃、一時だけよそへ転校していった時期があったのよね。その間に何か、話したくない出来事でもあったのかもしれないわ。幼稚園はね、椿と一緒だったの!」

 懐かしそうに、卒園アルバムを見て、椿が過去の思い出を語る。

「椿と委員長も、意外と付き合い長いんだね」

 やっぱり、地元が同じだと、みんな古い共通した記憶をたくさん持っている。相変わらず接点のない榎は、少し寂しさを感じた。

「あら、この写真、なんだか少し……」

 勢いよくページを捲っていた椿が、ふと手を止めた。訝しげな顔で、一枚の写真を凝視していた。榎も気になって、覗き込む。園児全員が写った、集合写真だ。

 三段の階段に、たくさんの子供が並んで立っている。二段目の、左端にいる、髪の長い女の子が、恐らく椿だ。右隣に立っている大人しそうな子には、眼鏡は掛けていないが、周の面影がある。

 写真の下部が少し、切り取られているのか、短くなっていた。

 だが、基本的に何の変哲もない、ただの写真だ。椿は何が気になるのだろうか。

「この写真が、どうかしたの? 椿」

「ううん、何でもないよ! そろそろ夕方だし、帰りましょ、えのちゃん!」

 尋ねると、またしても、強引に話を打ち切られた。椿はアルバムを八咫に返して、そそくさと玄関へ走って行く。

「椿って、隠し事が多いのかな……?」

 以前はもっと、色々と私情について話してくれたのに。最近はよく、いろんな場面で、はぐらかされる。

 反抗期か? そんなお年頃、なのだろうか。

 椿の慌てる背中を見つめ、榎はちょっぴり、切なく感じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ランキングに参加しています。よろしかったらクリックお願い致します。
小説家になろう 勝手にランキング

ツギクルも参加中。
目次ページ下部のバナーをクリックしていただけると嬉しいのですよ。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ