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四季姫Biography~陰陽師少女転生譚~  作者: 幹谷セイ(せい。)
第一部 四季姫覚醒の巻
1/331

序章 伝記開放

せい と申します。

こちらのサイトでは初投稿です。よろしくお願いします。

変身モノ、昔から意外と好きですので、書いてみました。


読みが難しい漢字や固有名詞にはルビを振っていますが、読めないものがありましたら、気軽にコメントして下さい。


関西が舞台のお話ですので、方言が多々、出てきます。

標準語への変換表など作ろうかと思っていますが、意味が分からない表現などありましたら、指摘してください。



挿絵(By みてみん)

序章


 西暦10XX年。年の瀬の、平安京。

 (みやこ)の夜は、不気味な暗雲に包まれていた。

 足元を照らす月明かりもない、漆黒の闇。静まり返った真夜中の大通りに、足音が響く。

 ざしり、ざしり。

 砂利を擦る、草履の音。

 こんな闇の濃い夜に、外を歩き回る者は、たれか。

 とある平民が好奇心に駆られ、松明を手に通りへ出た。

 人気のない、通りの様子を伺う。突然、平民の眼前に、恐ろしい姿が立ち塞がった。

 みすぼらしい着物を纏った人の骸骨が、列を成して歩いてくる。

 ぼんやりと青白い光を放つその姿は、とてもこの世のものとは思えない。

 餓えで死んだ下人が、悪霊となって迷い続けているのだろうか。

 行列が前進する度に、からり、からりと骨がぶつかりあう音が聞こえた。

 その音が、まるで「苦しい、ひもじい」と訴えかけている気がした。

 平民は恐怖に足がすくみ、動けなくなった。

 膝が、がくがくと震える。寒さも相俟って、気付かぬ間に失禁していた。

 立ち尽くす平民の姿を、骸骨たちが捉えた。

 ざしり、ざしり。

 足音が揃って、歩み寄る。

 骸骨たちは、歯をガチガチと鳴らした。笑い声を上げているのかと思えた。

「食べ物を見つけた、餓えから救われる」と、喜んでいるみたいだった。

 骨を軋ませ、音を立てながら、腕を伸ばしてくる。

 殺される。

 必然的に、最期を悟った。

 その時。耳元で、人の囁く声がした。

「死にたくなければ、動いてはいけないよ」

 直後、平民の視界に広がったものは、色鮮やかな着物の乱舞。

 一生掛かっても、お目にかかれないだろう、豪華な貴族の装束が、松明の明かりにひるがえった。

 目の前に現れたその人は、美しき姫君だった。

 頭上で結い上げられた長い黒髪が腰まで伸びて、馬の尾の如く、しなやかに揺れ動いた。

 姫君の手には、白銀の剣が握りしめられている。剣のまっすぐな刃は、松明の炎に照らされながらも冷ややかで、ゆらめく水面にも似た激しさを漂わせた。

 剣の輝きに恐れおののいたか、骸骨たちは怯んだ。

 一気に、周囲の空気が変化した。

 姫君は、華麗に地面を蹴った。まるで舞でも踊るかの如く、軽快で清楚な動きだ。

 くるぶしまで見える、丈の短い袴から、白い素足がのぞく。

 姫君が一回転すると、激しい旋風が周囲を取り巻いた。

 風は上空高くに昇り、京を覆う厚い雲を散らした。

 空には、美しい満月。月の白い光に照らされて、姫君の美しい姿が、さらに露となった。

 その横顔は、笑っていた。

 姫君は、妖怪を前にして、実に楽しそうだった。

空蝉うつせみの如く散れ。〝竹水ちくすい斬撃ざんげき〟」

 剣から、清らかな水の滴が飛び散った。

 剣は閃光を放ちながら、骸骨たちを一掃した。

 骸骨たちは、ばらばらに砕け散り、光の粒と化して姿を消した。

 一瞬の出来事であったはずだが、下人には時間が止まっていたのではと感じるくらい、長い時間だった。

「闇夜は、人であらざるものをさからせる。夜歩きは、ゆめゆめ気をつけられよ」

 露を払って剣を鞘に収め、姫君はきびすを返した。

 そよ風を髣髴ほうふつとさせる、軽やかな歩みだ。

 平民は呆然と、姫君の背中を目で追った。華奢ながらも、逞しいと思える背中だった。

 姫君が歩いていった先には、三つの人影が待ち構えていた。

 青や橙、桃色と、色鮮やかな十二単じゅうにひとえを身に纏った、三人の姫君たちだった。

 月の逆光で、顔は窺い知れない。

「我らの出番は、なかったか。退屈じゃ」

「つまらぬ。せっかく遊べると思うたのに」

「夏姫だけで、充分であったな。夜風は冷える。はよう、帰ろうぞ」

 小鳥みたいに、高い声でさざめきあう。

 四人の姫君たちは、物音ひとつ立てず、並んで静かに去っていった。

 夏姫――。

 その名と、終始、顔に浮かんでいた姫君の微笑が、取り残された平民の頭の中に、こびりついて離れなかった。


 * * * 


 人間と同じ世界に住まい、人間に危害を加える異形の者たちに、人々は恐れを抱いていた。

 異形の者たちがいつ頃から存在しているかは、誰も知らない。

 二百年も昔、天皇がこの地に京を御造りになったときには、悪霊や鬼と呼ばれる存在が、既にいた。

 誰が言い始めたのか、その者たちはいつしか、妖怪と呼ばれるようになっていた。

 妖怪は、動物や人の姿を歪めた風貌(ふうぼう)を持つ、奇妙な存在だった。

 多くの人間には理解さえできない、怪しい術を使って悪さをした。

 天候を操って、災害を起こした。家を焼き、家畜を襲い、人も殺して食った。

 天皇は、妖怪の脅威から逃れるために、守護力の強いこの土地に、京を築いた。

 だが、(みかど)の平穏への願いは虚しく、妖怪たちは夜な夜な、平安の京に姿を現し、人々に危害を加えた。

 人々は夜が明けるまで、己に災いが降りかかってこないようにと祈りながら、家に隠れて脅えているしかなかった。

 荒んだ時代だったが、黙って妖怪の脅威に晒されているだけの人間でもなかった。

 人間の中にも、妖怪に匹敵する退魔の力を持つ者が存在し、人に危害を与える妖怪を退治した。

 決して表沙汰にはならなかったが、噂はひとりでに京中に広がり、誰もが存在を知るところとなっていた。

 人々は妖怪から京の治安を守ってくれる者たちを、〝陰陽師(おんようじ)〟と呼んだ。


  * * *


 陰陽月麿(いんのようのつきまろ)は、京に数多と存在する弱小貴族の一人に過ぎなかった。

 よわい二十四にもなるのに、背が童子なみに小さく、悩みの種だ。体つきは大人たちにひけをとらないほど、でっぷりして、存在感だけは堂々たる貫禄だった。

 陰陽家は代々、権力ある陰陽師の一族の下で仕える使命を帯びていた。

 月麿も例外なく、成人と同時に、とある陰陽師一族のおさを護衛する役目を与えられていた。

 陰陽師にも多くの家系、派閥が存在する。

 (おおやけ)に勢力がある有名な家柄は、賀茂(かも)家や安倍(あべの)家だったが、月麿の仕える伝師(つたえし)家も、かなりの勢力を誇った、強大な陰陽師の一族だった。

 主に男がお役目につく陰陽師の職だが、伝師一族の男たちは、退魔の力をあまり発揮しなかった。

 そのため、女性が中心となって力を振るい、中でも特別、強い力を持って生まれた若き姫君たちが、勢力の渦の中心に君臨していた。

 姫君は四人。それぞれ、季節に応じた自然の力を行使して妖怪を倒した。

 妖怪と戦う姿を見た者たちは、姫君たちを各々、春姫(はるひめ)夏姫(なつひめ)秋姫(あきひめ)冬姫(ふゆひめ)と呼んだ。四人は〝四季姫(しきひめ)〟と総称され、敬われた。

 さらにもう一人、伝師の頂点に君臨する、絶対的な力を持った姫君が存在した。

 姫君の名は、紬姫(つむぎひめ)。伝師の長だ。

 月麿は、紬姫の元に仕えていた。


  * * *


 年の瀬が終わりゆく、新月の夜。

 今宵、伝師に仇なす者たちを駆逐する為、一族の陰陽師と妖怪が入り乱れての、激しい戦いがあった。

 月麿は、真っ暗な京の大通りで立ち尽くし、足を震わせていた。

 手に持った松明の明かりが照らしていたものは、通りを埋め尽くす、たくさんのしかばね

 妖怪、人間がうずたかく積み上がり、血を流し横たわり、動かない。

 まさに地獄の光景そのものだった。

 その場で生きて動いている者は、月麿ともう一人。紬姫だけだった。

 紬姫は小柄で、お世辞にも美しいとはいえない、痩せぎすの姫君だ。

 体重ほどもある、重い五衣唐衣裳(十二単)を身に(まと)いながらも、軽やかな足取りで屍の山を踏みつけて、辺りを闊歩していた。

 色白で肉付きの悪い顔は生気がなく、何を考えているのか、全く読み取れない。

 時折、我に返って、ぎょろりとした大きな瞳に、怒りの色を(あらわ)にしていた。

「なんたる非業じゃ。此度が最後と、伝師の持ちうる全ての力を使って戦いに挑んだというのに、〝奴ら〟を完全に滅ぼす使命、果たせなかった……」

 声は鈴の如く、美しい。紬姫は呟き、歯を食いしばった。

 月麿は唖然として、紬姫の背中を見た。

「何を仰っておいでか、紬姫。もはや伝師も妖怪も、全て死に絶えてしもうたでおじゃる。だのに、奴らを滅ぼせなかったとは、いったいなぜ?」

「肉体が死に、滅んだとて、魂は易々とは死なぬ。わらわには見えた。奴らの魂が、この地より逃げ仰せる姿が。やがて、奴らは千年の時を超えて再び蘇り、我らが一族の前に立ちはだかるであろう」

 真に倒すべき存在を、仕留め損なった。

 遠くを見つめ、紬姫は悲痛な表情を浮かべた。

 月麿は幻滅した。目の前に広がる屍の山――命を投げ打って戦った、多くの陰陽師たちの犠牲――は、すべて無駄だったのか。

 圧倒的な力を持っている紬姫にも、どうにもならなかったのか。

 紬姫の絶望も、色濃く伝わってきた。

「魂は、この世を巡る。転生の輪を断ち切ってしまわぬ限り、永遠に。今この時に、切ってしまわねばならなかったのに、できなかった。力が及ばなかった」

「紬姫の仰るとおりであれば、今の世では麿たちには、何もできないでおじゃる。忌まわしき妖怪も、四季姫たちも、既にこの世にはおらぬのですから」

 倒すべき対象は、既に死んだ。

 次に敵が復活する千年後まで、何の干渉もできない。

 失敗とはいえ、月麿の、紬姫の使命は終わったのだと思っていた。

 だが、紬姫の瞳の輝きは、まだ消えてはいなかった。

「月麿。お主に新たなる(めい)を与える。今から千年の時を超え、我らの敵が復活を遂げる時代へと飛べ。千年後に、再びこの世に生まれ変わっておる四季姫を見つけ出し、覚醒させるのだ。以前、教えた術を使えば、行ける」

 紬姫の淡々とした指示に、月麿の全身から汗が噴き出した。

「なんと!? 麿に〝時渡(ときわた)り〟をせよ、と仰るか! 時渡りは、危険な術だと聞き及んでおじゃる。成功するかも分からぬし、一度(ひとたび)、時を超えてしまえば、二度と今の時代へは戻ってこられぬとか」

 時渡りとは、陰陽師の使用する術のずいを凝らして編み出された禁術だった。

 術を使用したものは、遥か後の時代にまで、今の姿のまま、一瞬で飛べると言われていた。

 実際に、術を成功させた者がいるかどうかは、不明だ。

 なんせ、一度別の時代へ飛べば、二度と戻っては来られない。未来へ飛んだ者とは、一生会えない。

 ただ、術を使って行方の分からなくなった者は、確かに存在した。

 その者が本当に時を越えて後の時代へ向かったかは、今も分からないままだった。

 失敗すればどうなるのかさえ、謎のまま。非常に危険な術でもあった。

 怖がる月麿を、紬姫が睨みつけた。

「何か、問題があるのかえ? この瞬間、陰陽師としての伝師は、滅びた。伝師に仕えるだけが生きる術であるお主が、この時代で生き続けて、何を成すと申すのじゃ」

 紬姫の鋭い眼光が、月麿を突き刺した。月麿は、喉元で言葉を詰まらせた。

 陰陽家もまた、この激しい戦いに伝師と共に赴き、命を散らした。

 ただ一人、月麿だけがこの時代に生き永らえたところで、御家の再興など叶わない。

 そもそも、主である伝師の長に、逆らえるはずもない。

 逆らったところで、もはや月麿がこの時代で生きる意味は、とっくに(つい)えていた。

「……かしこまり(そうろう)。陰陽月麿、紬姫様の最後の命、全てを()して、遂行してみせまする」

 決心はついた。つけさせられた。

「お前だけが、伝師の悲願を果たせる唯一の存在じゃ。必ずや、四季姫たちの力を復活させ、全ての準備を整えて、憎き敵を倒してくれ――」

紬姫は力なく膝を折り、屍の山の頂上に崩れた。

 新たな屍が、平安の京に積みあがった。

 もはや、この場所で息づく者は、月麿のみ。

 紬姫の最後の願い。生まれ変わった四季姫たちに、何としても会わなくてはならない。力を、解放しなくてはならない。

 確認はした。決意も固めた。あとは、実行するのみだった。

 大きく息を吸い込み、月麿は紬姫より(たまわ)った、時渡りの術を唱えた。

 緊張のあまり、月麿は体中のあらゆる穴から水を垂れ流した。

 体を震わせながら、世を(しの)び、平安の世に別れを告げた。

 激しい嵐に巻き込まれたかと思うと、体があらゆる方向へ引っ張られた。

 徐々に、意識が遠退()いていく。

 次に覚醒したときには、既に千年の時が経っているはずだ。

 月麿は静かに、強烈な波に飲まれる感覚に、魂を(ゆだ)ねた。

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