「風車の噺」
えー、読者の皆様、ごきげんよう。Kyontyuです。この絶望的に文章力の無い作者の話を読んでくださって本当ありがたいです。コメントなどをくれると、もっとやる気が出ます。
では、始まります。
「風車の噺」
僕は下宿の窓から見える大きな風車を眺めていた。空は雲一つない晴天で、ゆっくり回転する風車の白い羽根がよく映えていた。
門番さんに聞いた話によれば、今僕が見ている風車がこのポリス最大のものらしい。このポリスは海沿いに位置するので風車が安定して回転するのだという。この街の電力はあの風車によって賄われているようだ。
「ふぁ~あ……」
カトレアが大きな欠伸をしながら起き上がった。特徴的なアホ毛が更に跳ねている。
「あ、おはよう」
「ん、おはよう」
僕達は朝の挨拶を交わした。
「ん~、ちっとお腹がすいたな~」
「ああ」と僕はベッドの隣にあるテーブルを指差す。
「あそこに朝食を置いてあるから、自由に食べてくれ。ちなみに僕はもう食べた」
「ん」
カトレアは小さな声を出してテーブルの上に手を伸ばすも、距離が足りず、派手にベッドから落下した。
「いや~、いいポリスだよな。ここ」空を仰ぎながら僕は呟く。
時折吹く風が心地よい。
僕達は街の中を散策していた。売れるものと、買わなければならない物は全て買ってあるので、今日はゆっくりこのポリスを堪能しようと思う。
「そう? 私はちょっとつまらないな」
カトレアはボソッと言った。彼女が歩くと両腰にある刀がカチャカチャと音をたてて揺れる。茶色いヨレヨレのコートにところどころ擦り切れたジーンズ、背中には一対のシャベルがクロスするように重なっている。オールシーズンこの恰好で、彼女の正装である。
カトレアが現在バイク(サイドカー付)を押している。
「そうか……じゃあ『海』に行ってみるか」
「おお……! 『海』か!?」
昨日質屋のおじさんが海の場所を教えてくれた。だが、『海』とはどんな場所なのか、行ってみないと分からない。なぜなら僕は本でしかその存在を知らないからなのだ。
恐らくカトレアも知らないだろう。
「よし! それじゃあ行くぞ!」
カトレアはバイクに跨ってゴーグルを嵌めた。僕も後ろに跨る。それと同時にエンジンに火が入り、土煙を巻き上げてバイクが走り始めた。
首を傾げ続けながらバイクで走ること数時間、依然として辺りの風景は広い畑と白い風車が連なっているだけで変化が見られない。日は少し傾き始めていた。
「ねぇー、これホントに進んでるの?」
「……多分、合ってるはずなんだけどな」
「んー……」
すると、塩のようなにおいが鼻孔をくすぐった。
「ん? なんだ……」
すると遠くに湖のように広い水たまりが見えた。この匂いの発生源はおそらくあの大きな水たまりだろう。
「ケルム! もしかしてあれ!?」
カトレアがうれしそうにこちらを向いて叫んだ。
「ああ! 多分!」
僕達は砂浜にバイクを停めた。ここが『海』だろう。砂浜には白い風車の残骸らしきものが埋もれていた。風に乗って運ばれる潮の匂いが風と相まって心地よい。今回のポリスは当りだったな、と心の中で呟いた。
「おーい! オメェら、ここで何やってる!?」
すると変な訛りがある老人がこちらに駆け寄って来た。
「あ、こんにちは」僕は挨拶する。
「もしかしてあんたら、旅人さんかい?」
駆け寄った老人は息を絶えさせながら言った。
「あ、はい」
「悪い事はいわねぇがら、今すぐここから離れなさい」
「一体何故?」
「ここには『サメ』っちゅう生き物が住んでおってな。五年前にもこの辺りで若者が食われたんよ。それからここは禁断の地となり、ワシが管理しているのだ」
「そんなことが……」
『サメ』とは何か分からないが、きっと恐ろしい動物なのだろう。
「ああ、だから早く離れなさい」
老人と別れたあと、僕達はずっと砂浜を走り続けていた。もう日は完全に傾き、黄昏時を迎えていた。
すると何やら大きな物を運んでいる女性を見つけた。結構重たいようで苦労している様子がうかがえる。
僕はバイクを降りた。
「あの……手伝いましょうか?」
僕は手を差し出した。
「あ、出来ればお願いします……」
白い羊飼いの服をまとった女性は顔を上げた。その顔はまだ幼く見える。どうやらこれは手作り風車の部品だったようである。それはちょうど翼の部位で、僕が翼を持ち上げ、女性がそれをボルトとナットで留めた。僕の下ではカトレアは大きな欠伸をしてヒマそうにしていた。
「あ、ありがとうございます」女性は大きく礼をする。
「いえいえ、それほどでもありませんよ。それにしても――」
僕は風車を見上げて指差す。
「――これは?」
「ああ、これは、私がいる事を示すサインなんです。ですが、少し前に壊れちゃって」
すると風車が回転を始め、風車のてっぺんのランプが赤く灯った。
「へぇ……誰かを待っているんですか?」
「え……ええ」と彼女は少し照れくさそうに笑う。
「恥ずかしい話なんですが……私の彼氏を。彼は漁師なんです」
「そうですか……なら僕も一緒に待ってもいいですか? 彼の話を聞いてみたいんです。実は海に来るのは初めてでして」
「ああ! そうなんですか! ぜひ彼の話を聞いて下さい! いろんな話を聞かせてくれるんですよ!」
彼女は満面の笑みで笑った。
そして待つこと数時間、海はすっかり夜の帷が訪れていた。カトレアはもうとっくに眠りについていた。
「来ませんね……」
「ええ」
彼女は水平線を凝視しながら言った。
「そういえば、彼はいつから帰って来ないんですか?」
「五年前、『すぐ帰って来る』と言ったきりです」
僕は「そうですか」と立ち上がった。
「では、僕はもう明日の準備をしないといけませんので、ここらで失礼しますね」
「ええ」彼女はぶっきらぼうに答える。
僕はカトレアを抱き上げた。そしてバイクの元に向かう。僕は振り向きざまに口を開く。
「彼、帰って来るといいですね」
「必ず、帰ってきます」
その後彼女がどうなったのか分からない。壁の外に出てしまえば僕はもうこのポリスの人間ではないから、よほどの運が無ければ聞く事は無いだろう。
しかし、一つだけ言えるのは、あの後、僕が勝手にバイクを運転したことに激怒したカトレアは丸一日口をきいてくれなかったことだ。