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エレメント・フォース  作者: 雨空花火/サプリメント
一幕『叛逆の異端者』
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終章『平穏。これからの目的』



 夕焼けが始まり、空が朱と金に染まり出した頃、木葉詠真は数人のクラスメイトと談笑しながら下校の路についていた。

 他愛ない話で笑い合う中、詠真は別の事に思考を半分割いていた。


 ──あの事件から一ヶ月が過ぎた。


 表向きには、検査中だった生徒の超能力が何かしらの原因で暴走。

 それにより『一定空間内の全物質の消失』という事象が発生し、如月中学校校舎を含む敷地一帯が消滅。約二百人あまりの犠牲者を出した大事故となった。

 しかしその実は、アーロン・サナトエルという一人の魔法使いによって意図的に引き起こされた凄惨な事件だった。

 真実を突き止めたのは、ただの高校二年生の木葉詠真。そして"ここには居ない"少女、魔法使いの舞川鈴奈の二人だ。

『別位相空間転移魔法』によって飛ばされた『位相の狭間』とでも言うべき場所で、二人はアーロン・サナトエルと命をかけた死闘を繰り広げた。

 負ければ死、勝てば元の世界への帰還。

 結果は、今こうして生きているということは、恐らく勝ったんだと詠真は思っている。

 ……というのも、詠真は戦闘の途中から記憶がばっさり途切れていた。

 厳密に言うと『四大元素』の力全ての同時発動を試みた辺りからだ。力の反動なのかもしれないが自分でもよく分からない。

 詠真の意識が目を覚ました時には、病院のベッドで人工呼吸器に繋がれた痛々しい状態になっていた。

 医師の話を聞く限りでは、匿名からの救急通報を受け、指定された現場に向かうと詠真達が倒れていたと言う。

 大火傷に骨折多数で、施されていた応急処置がなければ命が危なかったほどの重傷だったらしく、至急政府区の大病院に運ばれ治療を受けた。

 詠真が目を覚ましたのはそれから一週間が過ぎた頃だった。

 鈴奈はその三日前に目を覚まし、医師の制止を振り切って勝手に退院。

 詠真が傷を完治させ退院したのは、そこから更に二週間後となった。

 匿名で救急を呼び、自分たちに応急処置を施した人物。それはもしかしたら、アーロン・サナトエルなのかもしれない。もしそうなら、あいつにも想う心があったのかもしれないな。

 詠真はそんな事を考えながら、およそ三週間ぶりに自宅へ戻った。

 そこで、リビングのテーブルに置かれた一枚の置き手紙を見つけた。

 手紙には綺麗な字でこう綴られていた。


『退院おめでとう。

 今回は本当に君の力に助けられたわ。

 私一人じゃこの結果は決して訪れることはなかったと思う。


 ありがとう。


 私は任務が終わったので、聖皇国ルーンへ帰国します。

 アーロン・サナトエルは取り逃がしちゃって任務失敗なんだけどね。

 奴の狂気を止めることができたのかは分からないけど、少なくともこの島からは出て行ったとは思うわ』


 そこから不自然に数行空白が続き、滲んだ文字が綴られていた。




 私と君はもうこの先会うことはないと思う。

 そもそも超能力者と魔法使いは相容れない者同士、仕方ないことよ。


 でもね、本当に感謝してる。


 楽しかったわ、学校生活。

 君と色々なことを話せて楽しかった。

 スポーツテスト、私は君に負けちゃったけど、とても楽しかった。

 君もそう思ってくれていたら、とっても嬉しい。


 数日の短い間だったけど、君の友達になれた気がして、って私は何を言ってるのかしら……今の無し。


 うん、だからね、


 さよなら、詠真。


       舞川鈴奈より。



 PS

 アーロン・サナトエルに操られて亡くなった二人の能力者だけど、きちんとお墓に埋葬してくれたみたい。今度、顔を出してあげてね』


 これを読み終わった時、詠真はとめどなく溢れる涙の雨を、どう頑張ってもせき止めることができなかった。


「超能力者と魔法使いとか……関係ねぇ……俺とお前は……もう友達だっつーの……だから会えねぇとか……言うんじゃねぇよ……」


 詠真はまた一人、心から大切に想う人を失ったような喪失感に、嗚咽をもらし大粒の涙で手紙を濡らしていた。


「……ま」


 思い出すだけで今も泣きそうになる。

 なぜこんなにも悲しいのか、分からない──分からないけど悲しい。


「詠真! おい、詠真!」


「おぉう!? な、なに?」


「なに? じゃねぇよ……」


 未剣輝はやれやれと肩を落とす。

 詠真は周りの声が聞こえなくなるほど考え込んでいたことに気付いた。

 一緒に下校している二人のクラスメイトの少女も心配そうな面持ちで詠真の顔を覗き込んでいる。


「詠真最近どうしたんだよ? 退院してから……いや、舞川さんがいなくなってから様子が変だぜ?」


「や、別に……」


 詠真が学校に復帰した時には、教室のどこにも鈴奈の姿はなかった。

 学校に退学届けを出し、何も言わずに忽然と学校を去っていた。国へ帰ると手紙に書いてあったんだ、分かっていたことだった。何も言わなかったのも、何も言えなかったからだということも。

 詠真は夕空を見上げて呟く。


「……別に、落ち込んじゃいねぇよ。舞川のことも……関係ねぇよ」


 輝はその言葉だけで親友の気持ちを汲み取り、肩を軽くポンッと叩く。


「……そっか、そうならいいや。そうそうでさでさ! 十四区にめっちゃ上手い大盛りの店ができてよ──」


 でも──詠真は決して諦めない。

 確かに超能力者と魔法使いは相容れない存在なのかもしれない。

 超能力者がここまで世界に忌み嫌われている理由の一つが、魔法使いや陰陽師にあるとも言えるからだ。

 もしその二勢力が千年前から存在を公にしていれば、世界は異能の力に免疫を持っていたかもしれない。

 しかし、免疫がなかったからこそ、突如発生した超能力という力に世界は底知れぬ恐れを抱き、忌み嫌った。

 あくまでそれは可能性の一つだ。

 そもそも超能力がいつから存在するものなのか不明な以上、千年前がどうこう言っても仕方のないことだ。

 あらゆる視点から調べれば分かるはずの簡単な事が、不自然極まりないほどに知ることができない。

 そんな超能力という異能の起源、その不自然不明瞭な霧に包まれた真実を、正直な所……詠真は知りたいと思っている。

 故に、真実を求め異世界に求めるアーロンの気持ちが分からなくはない。

奴の狂気に満ちた思考を理解できるわけではないが、真実を求めるという根本的な部分だけは詠真も理解できる。

 ……だからこそ、詠真はもう一度、アーロン・サナトエルという異端者に出逢わなければならないと思っていた。

 真実を知るために。

 そして異世界で生きているやも知れぬ、木葉英奈を取り戻すために。

 詠真は魔法使いと縁を切るつもりなど、毛頭ない。アーロンを追うには、必ず魔法使いの力が必要になってくるはずだから。

 魔法使いへの窓口を持っているわけではないが、それでもだ。

 そしてそうすれば、彼女にもいつか会えるはずだと信じている。

 舞川鈴奈。

 彼女にもう一度会えることを信じているから、詠真は落ち込むことをしない。

 前向きに、ただ前向きに。

 輝が詠真の隣でボソッと呟く。


「なんか知んねぇけど、お前すげェ良い顔してるよ」


「……あぁ」


 舞川も同じ空を見上げているだろうか。

 暖かな夕暮れの朱空は、今も残る彼女の華奢で優しい手の暖かさにとても似ていて、つい目頭が熱くなる。

 涙もろくなってしまったな、なんて苦笑をもらしながら詠真は首を振る。

 前向きに、ただ前向きに。

 そうだろ? 木葉詠真。

 自分自身に言い聞かせ、詠真はもう一度だけ夕空を見上げた。


 第四区の中央駅へと続く長い坂。

 つい一ヶ月前まで、ここに差し掛かる度に輝が『妹ちゃん紹介して!』と泣きついてきていた事を思い出す。

 全てはここで聞いた緊急避難警報とニュースを見たことで始まった。


「そういや輝、もう吸ってねぇだろうな?」


「ホワッツ?? ナンノコトカワカリマセンネ! ハハハハ」


 急にカタコトで焦り出した輝に手加減なしのヘッドロックを決める詠真。


「あわわわ」


 艶のある黒髪をサイドテールに束ねた童顔の少女がオロオロと慌て出す。

 その隣で、軽くウェーブのかかった長い紫紺の髪におっとりした顔立ちの胸の大きい少女が、口元に手を当ててクスクスと笑っている。


「花織に美沙音も見てないで助けででででで‼︎」


「み、未剣君、顔が真っ青だよ!?」


「大丈夫ですよ花織。これは自業自得だと思います。フフフ」


「美沙音ちゃん……そうだよね、未剣君が悪いんだもんね……」


「ごめんごめんて! だから俺を見捨てないで!?」


「フンッ!!」


「あだだだ!!」


 最後にきつく締め上げた詠真は、これぐらいで勘弁してやると言って輝を解放した。落ちる寸前だった輝は酸素を求めてぜえぜえはあはあと荒呼吸。

 その場にへたり込んでしまう。


「これに懲りたらやめろよな、タバコ」


「す、すんませんでした……」


 本当に辞める気あんのかねぇ、と肩を落とした詠真は輝を放って一人でトボトボと坂を下り始めた。


 ──詠真はふと足を止めた。


 まるであり得ない物を見てしまったかのように、体が、思考がフリーズした。

 見開かれた目の視線の先には、長い青髪を風に揺らし、手を後ろで組んで夕空を見上げる一人の少女がいた。

 白いセーラー服を着たその少女は、まるで大切な人が来るのを今か今かと待ち侘びているような表情を浮かべ、楽しそうに鼻唄を歌っている。

 詠真はやっと思いで絞り出した震える声で、その名前を口にした。


「舞、川……なのか……」


 少女の身体が一瞬ビクッと跳ね、ゆっくりと此方へ振り向いた。

 見紛うはずもない。

 共に命を預けあい、別れ、もう一度会いたいと願ったその少女の可憐な笑顔。

 少女は髪を手で軽く払い、夕焼けに輝く一番星のような笑顔で頷いた。


「うん……また来ちゃった」


 詠真は噴火寸前のマグマのようにこみ上げてくる熱い思いを抑え込み、あの時のように、心からの笑顔を交わした。


「おかえり、舞川」



《叛逆の異端者編 完》




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