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エレメント・フォース  作者: 雨空花火/サプリメント
七幕『交わる決戦の地』
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『修行は順調に』

「っは~~~、いやあ、せやなせやな! お前には夏夜は釣り合わん!」


 ファミレスの店内に響くすごい訛り口調。声の主である長い金髪を垂らした青年はポテトを摘まみながら、詠真の背中を強めに何度も叩いている。


「油まみれの手で触らないでもらえませんか……」

「おうおう、お前なんか油まみれになってしまえ! ほれほれ!」

「いやだからやめろって」


 思わず吹き飛ばしてやろうかと能力を発動しかけた詠真は何とか気持ちを抑える。

 この煩い男の名は、倉橋冬和。十二神将の一角・帝釈天の位『神鳴』の異名を持つ陰陽師で徒架の実弟だ。彼女の実妹である羅刹――友美とは双子にあたる。

 二人のやり取りを向かいの位置で眺めていた徒架は嘆息しながらポテトを摘まむ。


「夏夜が振られたと聞いた瞬間からこのザマなのよ。ごめんなさいね、詠真君」

「まあ、仲良いようで拙者としては微笑ましい限りじゃがな」


 そう口を挟んだのは、徒架の隣に座る初老の男性。赤い着流しに身を包む彼もまた天廊院が誇る十二神将の一角だ。名を閻魔天の位『閻獄』土御門清陽。最年長の陰陽師である。

 彼らの言葉に、冬和はむっとした顔でポテトで二人をびしっと指し示す。


「このザマってのは酷いで姉ちゃん。おっさんも変な誤解してんちゃうぞ」

「ああ、実弟の愚かな姿を客人に見られて姉として恥ずかしい限りだよ」

「誤解くらいしてもいいであろう? ボケが始まったおっさんだもの」


 冬和、清陽、夏夜の三人は、詠真が一年ほど前に天宮島で出会った陰陽師。彼らが詠真が初めて超能力以外の異能を認識するに起因した人物である。当時はそれほど変な人物だと思わなかったが、詠真はここでその認識を改めることにした。

 変だ、この人達。


「すまないね、詠真君。この二人は天廊院でも特に変わった性格をしていてな」

「まあ、別に気にしないですが……」


 正直なところ、こんなことをしている間があれば修行に専念したい。

 そんな思いを、どうやら徒架は既に察していたようで。


「心配しないで。次の修行相手はこの二人になるだろうからね」

「あ、そうそう! 俺がお前程度じゃ夏夜に釣り合わん言うのを教えたるからな!」


 冬和の場合、夏夜が詠真に釣り合わないという意味ではなく、詠真には夏夜ほどの素敵な女性は釣り合わないという意味が込められている。要は冬和は夏夜を一人の女性として見ているということだ。それを理解している詠真は、どこかの誰かに似ているなと思う。

 そもそも、十二神将達の雰囲気は八眷属と似たものを感じる。

 ……変人の集まりというか、それぞれが濃いというか。

 

「木葉殿は、例の招待に備えて強くなりたいのだな?」

「はい。奴らにはそれなりの因縁がありますから、負けるわけにも逃げるわけにもいきません。俺の悲願を成就させるに必須な要因も握られてますしね」

「なるほど、相分かった。が、しかしである」


 清陽はメロンソーダを一口含んでから、


「拙者らと戦うだけで強くなれる、なんてことは思っておらんよな」

「……はい、当然です」


 確かに、そうは思っていない。しかし、実のところ、具体的にどうすれば今より更に強くなれるのかは分からないでいた。造子と真冬と行っていた修行方法も、あくまで超能力が使えない状態で生き延びる、その極限状態からどう自身が変化するのかというもの。何かを明確に鍛え強くなる修行かと問われれば、違うと言わざるを得なかった。


「自覚はしているが、方法は思いつかないと言ったところか」

「……はい」

「一つ言わせてもらうなら、君は自分の力に溺れすぎている。なぜ明確な攻略法の無い相手に対して、通じない力ばかりを鍛えようと思っているのだ? 拙者らは現在は拠点に滞在しているが、少しすれば日本各地の魔獣討伐に赴くであろう。君らの強い申し出により、一先ずの組織に手は出さないと約束をした。だがそれは君らが失敗すれば当然覆される約束に過ぎない。そうまで申した口は、ただの勢い任せだとは思いたくないが」


 辛辣に浴びせられた言葉。だが言い返せない。何も間違ったことは言われてないから。だからと言ってどうすればいいかを思いつくわけでもない。


「冬和よ、拙者らがもし呪術を封じられたら、どう戦う?」

「おっさん、それ答えになっちまうけどええんか?」

「仕方あるまい。溺れている彼を引き上げるには正解を提示してやる他、道は無い」

「へいへい」


 言って、冬和は詠真のこめかみに、立てた人差し指を突き立てた。その手の形は何かを握りこむような、否、それそのものを示すように形作られていた。


「呪術が封じられた。そうなればこれしかないやろ――銃や、銃」


 直後、詠真の脳裏に蘇るあの記憶。神郷天使が手にしていた鋼の武器。

 それは、確かにそれだった。どんな人間でも手にすれば命を奪うことのできる武器だ。


「使えんもんをいくら磨いてもしゃあない。なら別の力を身に付けろっちゅうこと」

「銃を……」

「せやから俺と戦う時は、銃だけで戦ってみろ。いくらでも貸したるから」


 そん代わり俺も呪術は使わず生身で戦ったる、と冬和は笑い、ポテトを平らげた。


 ☆ ☆ ☆


「さて、準備はええか?」


 防衛省本庁地下の訓練場。倉橋徒架と土御門清陽が見守る中、詠真は倉橋冬和と向かい合って、その手に握った鋼の感触を全身へと染みつかせていた。

 一時間ほど銃の扱い方をレクチャーしてもらい、とりあえず使えるようにはなった。

 これから行うのは、異能無しの訓練。銃を使う詠真に対し、生身の冬和。

 じとり、と。詠真の額に嫌な汗が滴る。

 これは――銃は、神郷天使が輝を苦しめたものに他ならない。

 同じ領域に足を踏み入れるのか? あの男と同じ物をこの手に握って……。

 いいや、否だ。同じものであって、そうではない。

 これは屈辱を、雪辱を、憎悪を、仇を、晴らす為に振るう『力』でしかない。

 あくまであの男を、あの男だけを打倒する為の、一時的な『力』に過ぎない。


『弱い、弱いなぁ。超能力ばかりに頼っているから、こうなるんだよ。まぁいつまでもこんな島に引き籠もって、温々生きてりゃ当然か』


 ――黙れ。かつて神郷天使に言われた言葉が脳裏を過り、切り捨てる。

 超能力ばかりに? ふざけるな。俺には、俺たちにはそれしかないんだ。

 それを否定させない。お前だけには二度と負けられない。

 輝を苦しめたお前に。超能力を否定するお前に。

 負けられない。だから俺は強くなった。否定するだけの力しか持たないお前に、これからの俺を止めることなんてできない。それを、きっちりと証明してやる。

 ――お前を、殺すという結果で。


「……はい、大丈夫です」


 握りしめた銃を、その照準を冬和へ、引き絞る。

 戦闘は、詠真の銃声によって開かれる。つまり、この一発は外せない。外さない。

 汗が目に入る。しかし無視して、こちらを薄く笑って見つめる冬和を、確と定めた。

 超能力は使わない。相手は神郷天使だと思え。思え。奴は憎悪すべき悪であると。

 ――思えッ!

 見開いた目。同時に、腕を伝う反動、衝撃。一発の、銃弾が冬和へ放たれた。

 火薬の臭い。脳を揺さぶる、憎悪の臭い。疼くかつての銃創。ああ、どうでもいい。

 スローモーションのように、流れていく景色。視界。音速の銃弾は、一寸の狂いも見せず冬和の胸元へ吸い込まれていく。もはや避けようの無い、先制の必中の一撃。

 その、はずだった。


「悪かないが、遅いな」


 冬和の手が僅かに動く。その僅かな動きで、彼は銃弾を叩き落としたのだ。

 銃弾は勢いをそのままに、床に突き刺さる。

 生身で受けることのできる攻撃じゃない。有り得ない光景に詠真の足は一瞬竦む。

 その隙は、致命的だった。


「命一つ無くなったで、今」


 気付けば、冬和の姿は目の前にあった。初動も、過程も、目視できなかった。

 脳内を埋めるのは警報。ただの生身では――ただの、普通の人間の動きではない。

 瞬きの刹那、手にしていた銃はするりと奪われ、詠真の額に銃口があてがわれた。


「……なに、を」

「教えたろ教えたろ」


 冬和はわははと笑い、銃を下す。


「まず銃弾。あそこまで遅い鉛玉程度、即座に柔い個所を割り出すことができる。そこを軽く叩いたっただけや。で次に移動。あれは日本武術の『縮地』言うてな、相手の死角に入り込むことで一瞬で距離を詰められたかのように錯覚させられる技や。お前は何よりも見せちゃいかん、心の隙を見せたからな。そこに入り込むことは容易も容易やった」

「……人間技、なんですかそれは」

「おいおい、俺は呪術は使わん言うたが、普通の人間とは一度も言うてないで?」


 銃を返し、あらぬ方向へ掌を翳して、軽く振るう。

 そこへ発生したのは、電気――否、雷だ。

 詠真は思い出す。彼の名は土御門冬和――《神鳴》の名を取る十二神将であることを。

 光速の雷を自在に操る彼にとって、音速など緩やかな速度に過ぎなかったのだ。

 加えて、日本武術なる技術。ああ、そういうことかと。

 既に彼は、いいや彼らは、己が異能頼りの存在ではなかったのだ。異能を鍛え、その上で異能を繰る己自身の強化も怠らない。それが、死地の戦と共に生きてきた存在。


「木葉詠真、改めて自覚せえよ。お前の殺しには、お前に対する殺しも同時に存在してることを。いつ何時も、お前の傍に八眷属や十二神将がおるわけやないことをな」


 子ども扱いをするように、冬和は詠真の頭をくしゃくしゃと撫でる。言葉通り、冬和にとっては詠真は子供でしかない。力を持った、ただの子供でしかないのだ。


「……はい。あの、まだ付き合ってもらってもいいですか?」

「おう。気が済むまで付きおーたる。まずは何か、掴んでみろ」

「はい……っ!」


 ☆ ☆ ☆


 時は少し遡り。

 聖皇国で詠真らと別れ、クロワと共に北極へ向かった鈴奈の状況は苛烈を極めていた。

 先代氷帝・舞川鈴羽が築いた氷城都市『オリュンポス』で、閃光が爆発する。


「これで鈴奈ちゃんの死亡回数は四三回。まだ修行を始めて二日目よ?」


 響くクロワの、余裕の声。文字通り彼女は、余裕の笑みを弟子へと投げていた。

 その弟子は地に伏せ、全身に無視できぬ大火傷。間違いなく死の重傷だ。

 しかしそれも、師匠であるクロワの回復魔法によって瞬く間に全快。疲労だけは蓄積している体を持ち上げ、弟子は――舞川鈴奈は、よろりと二対の剣を手に立ち上がった。

 改めて、光帝の実力の高さが身に沁みる。

 超魔法である神殿を抜きにしても彼女の魔法は桁が違う。空から無限に降り注ぐ光の矢を耐え抜くことはまず不可能。回避など以ての外だ。先ほどの閃光爆発にしてもそう、何よりも常軌を逸しているのは魔法の範囲である。北極の四分の一を占める氷都市を余裕で埋め尽くし、それを数十回発動してもなお尽きぬ魔力量も尋常の域ではない。それほどの魔力を惜しみなく込められた攻撃力もまた、想像が及びつかない領域に達していた。

 八眷属最強。そして現在、最も次代聖皇に近い魔法使い。

 師――クロワ・ポラリス。聖皇が母なら、鈴奈にとって彼女は姉のような存在だ。


「ねえ、クロワ……私が全ての封印を外したら、魔力量は貴女の何割程度なの?」

「うーん……分からないかなあ。鈴奈ちゃんが赤ちゃんの時に感じた魔力は、ちょうど今ぐらいの量だったし、封印した魔力も封印されながらその量を増幅させていると思う。何より封印は段階を踏む毎に強力になってるから……んー、確実に私よりは多いかも」

「……現実味がないのだけど」

「そう? そもそも私が一〇代の頃は、鈴奈ちゃんの三分の一くらいだったよ」

「年の功ってことね」

「しばくわよ」

「うん、しばき倒して私をもっと鍛えて」

「……もう」


 弟子のストイックさには頭が上がらない。思わず笑みがこぼれるほどに。

 返答として、クロワはその手に己が誓いの魔聖剣を出現させた。それが示すのは、彼女がこの二日間、魔聖剣を使用していなかったということ。魔法のパフォーマンス力を飛躍的に上昇させるそれを未使用だった――ならば、使用すれば……最早想像したくもない。


「お望み通りに、我が愛弟子」


 純白。白すぎる程に白い輝きを纏うそれは、椿の意匠を放つ彼女の誓いそのもの。西洋における白椿の花言葉は、愛慕と崇拝。彼女は全てを愛し、愛した全てに崇拝される存在でありたい――孤独を嫌う彼女の想いが極端なまでに尖った誓いの魔の剣。


 ――魔聖剣『白椿姫之剣(ヴァルクスカメリア)


「やっと手を抜くのをやめてくれるみたいね」


 恐怖が湧き出す。味方で師である彼女に、底知れぬ恐怖が沸き起こる。

 だが、恐怖など凍らせてしまおう。溶かし尽くしてしまおう。微塵も残さず、全て。

 剣を切り払う。恐怖を振り払う。迷いを断ち切る。殺す気で、剣を握る。

 ……待っててね、詠真。すぐに、戻るから。

 心で、彼氏への想いを告げると同時に、戦闘は開始される。

 鈴奈の周囲に、彼女を模した氷の人形が一〇体出現。それら全てが一〇秒先を読む思考を宿し、それぞれが氷弓と氷剣を携えている。鈴奈の最も使用頻度が高く得意としている剣弓の魔法はあらゆる点に於いてパフォーマンス力が高い。が、当然それを熟知しているクロワは中でも厄介な氷弓を抱く氷人形を殲滅しに動き出した。

 椿の白剣を天に掲げる。一点の光が空を貫き、降り注ぐは光の槍。数えるのも嫌になるほどのそれは周囲一帯を襲うが、対して氷弓から放たれる無数の矢が撃ち落としていく。

 これによって氷弓兵の動きは光槍に手一杯になる。

 空のせめぎ合いが行われている中、地上では氷剣兵が活動を開始。指揮官の如く魔聖剣を振りかざして号令を飛ばす鈴奈に従い、氷剣兵はクロワを全方向から攻め立てた。

 鈴奈にとってそれはブラフでしかない。北極――氷の地であるここに於いて、鈴奈が取れる戦法はクロワすらを凌ぐといっても過言ではない。氷弓兵と氷剣兵の行動に合わせて彼女が進行させているのは、氷地に魔力を流して地帯そのものを己が魔法に変換するという荒業だ。これが成功すれば無限とも言える数の氷人形を即座に生成可能になり、更に戦場の地形を自在に変化させることだって容易い。この二日間、それを行うために『オリュンポス』を把握することに手間取ったせいで負けが嵩んだが、今度はそうはいかせない。


「なんてこと、師匠にはバレバレだろうけどね」


 斬りかかる氷剣兵へ、舞踏するかのように対処を行うクロワの口端が僅かに上がる。白椿が煌めき、剣はその姿を変容させた。鋼の音を奏でていた白剣は強い発光体へ、触れる氷の剣をまるですり抜けるように、そして兵の体を真っ二つに断ち切った。断面はオレンジ色の熱を帯びており、一瞬で広がって全てを溶解させる。その現象はわざわざ考え込むほどのものではない――『白椿姫之剣』の固有能力・光体化である。発動時の彼女の剣は一種の光の刃と化し、触れたものへ熱エネルギーを放出して溶断する無敵の剣となる。魔力が込められた熱エネルギーは魔方陣などの異能防壁すら溶断する防御不可の一撃だ。


「ただ一振り……たったそれだけが、最強の矛……伊達じゃないわね、まったく」


 その昔、かつての光帝が扱っていた最強の魔聖剣があった。しかしそれ以降、誰も扱うことができず美術館の地下に保管されていたのだが、ついにそれを振るえる者が現れた。

 クロワ・ポロリス。かつての光帝が抱いていた『崇拝される欲求』と共鳴を起こし、聖皇ソフィアがそれを素材に打ち直した、蘇りし最強の矛。それが『白椿姫之剣』なのだ。

 防御は捨てる。一対一で彼女を打倒するには、捌き切れない数で押すしかない。

 攻撃は最大の防御。それを徹底しなければ、彼女に一太刀いれることは叶わない。


「少し借りるね、お母さん」


 氷剣兵を殲滅、続けて氷弓兵を潰しに意識を向けたクロワは、地面に振動を感じた。

 胎動している。鈴羽が築いた『オリュンポス』が鼓動をするかのように。

 明確に感じられるのは鈴奈の魔力。残留する母の魔力と混ざり合い、一帯を支配する。

 無論、彼女の思惑には気付いていた。それを成すのを待ってすら居た。

 しかし、たった二日で、母の超魔法を支配下に置くなど――予想を超えている。


 ――逞しいよ、貴女の娘は。クロワは感嘆の想いと共に、光槍の魔法を霧散させた。


 直後、氷の地面から無数に生える頭があった。体があった。それらは鈴奈にも似た体格の氷の彫像。そう、彼女の魔法『氷人形アイスドール』だ。しかし先刻までの氷兵とは異なり、堅牢であり身軽な鎧を纏っていた。両肩には薔薇の意匠、左胸に刻まれる氷結晶模様、氷でありながら風に揺れる薄いマント。剣を正中線に、あるいは弓を両手に、千の兵士が一糸乱れず、彼女の前に並び立つ。その様はさながら騎士団のそれだった。

 名付けるならば――


「『神帝騎士団(オリュンポス・ナイツ)』ってとこかしら」

「……これは鈴羽もびっくりだよ。ほんと」


 母の超魔法。術者が死してなお、維持し続けられる永遠の氷城。それほどまでにこの土地に固定化された魔法に干渉し、変容させ、己が支配下に置いてみせた。その上、自身の魔力と母の魔力を寸分の狂いなく融合させ、思考を千に分けるにも等しい遠隔分身操作魔法をリハーサル無しの一発勝負で成功させるその御業。ああ、確かにこれはそう呼べる。


 ――超魔法、と。


 決して一人で成した魔法ではないが、時を経て母子で成した奇跡の魔法と言える。

 計り知れない。彼女の才能は、八眷属最強の光帝からしても、計り知れない。

 それもそうだ、なんたって舞川鈴奈は――


「ううん、そんなこと関係ない。これは、鈴奈ちゃんの才能と努力の結果だよ」


 自分自身に言い聞かせて、クロワ・ポロリスは礼儀を以って、弟子を愛でる。


「『光姫神殿(ヴィーンゴールヴ)――汝らと奏でる(グラズヘイム・)喜びの世界アンファンク・コンチェルト』」


 容赦無く、躊躇無く、ここへ――神殿を落とした。千の氷兵全てを刹那の内に光帝戦姫の魔の手で絡め捕り、誘い、騎士団長へ裏切りの刃を突きつける。ここまで大人げないとは思っていなかった鈴奈だが、口角は吊り上がり、両手の剣にぐっと力を込めた。

 鈴奈が四四度目の死を迎えたのは、それから三時間後のことだった。


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