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エレメント・フォース  作者: 雨空花火/サプリメント
七幕『交わる決戦の地』
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『悲しみの始動』



 天宮島一基『神殿の柱』最上階。

 集まったのは四人の超能力者――烈典斬獅獄、龍染寺青天、紅桜朱雀、鬼亀杜白蛇。

 “五人からなる天宮島最高決定機関”『宮殿』の面々だ。

 集まったのは四。――そう、一人足りない。

 ネコ――猫守音虎(ねこもりねこ)という裏切者だけが、この場に存在していなかった。


「白蛇、これはどういう事だ。言い訳をしてみろ」


 獅獄の重圧的な声が響く。白蛇は答えられない。

 ――灰爽由罪の裏切り。木葉詠真捕獲に向かわせた彼は任務に失敗。更にその上で島には戻ってこず消息を絶ったのだ。

 相次ぐ裏切りに『宮殿』は黙っていられる範囲を超えつつあった。

 なんとしても木葉詠真を――中枢システム『エレメント・フォース』のスペアを取り戻さなくてはならない。これは何を退かしても行わねばならない最優先事項なのだから。


「言葉もありません。完全に不測の事態とは言え、責任は全て僕が――」

「そんな余裕はないだろう。目を向けるべきは反省などという無意味なことではない」

「……申し訳ありません青天」


 白蛇は眼鏡を押し上げ、皆を一瞥し、


「失態を犯した僕にもう一度任せてもらえるのであれば、もう一つ有用な駒が」

「ほお? それはなんじゃ? 聞かせてみよ」

「ええ、木葉詠真捕獲に現状最も有効な駒とは――――」


 続けられた白蛇の言葉に、三人が表情を一変させた。

 それは驚愕――そして歪み。侵してはならない領域に踏み出した白蛇への、畏怖だった。

 よもやそれほどに狂った考えに行き着くとは――。


「どうでしょうか? 製造中のモノの試験運用も兼ね、最良の判断かと自負しておりますが」

「……そう、だのォ……」


 獅獄は僅かに首を捻る。

 『宮殿』は島の超能力者を守る存在。

 それが、このような方法を取ってもいいのだろうか――と。

 しかし、悩んでいる暇はなかった。

 想起されるのは英国より世界的に宣布された木葉詠真に対する招待状。

 12月24日。クリスマス・イヴ。木葉詠真はソロモン諸島に現れるだろう。

 そこを狙い、確実に木葉詠真を回収する。

 時間は無い。そう、悩んでいる――迷っている暇など無いのだ。

 獅獄は告げる。


「白蛇、今すぐにでも準備に取り掛かれ。青天、主は行動部隊を厳選しろ」

「了解致しました」

「前回の戦争参加者が妥当だろう」

「妾は不測の事態に備えて暇をもらっておこうかのお」


 『宮殿』が動き出す。

 島の安息の為、超能力者の安息の為に、一人の少年を――その命を回収する。


 ☆ ☆ ☆


 龍染寺青天は、主のいない木葉家を訪ねていた。


「サフィール・プランタン、だな」

「……あなたは?」


 木葉詠真、そして舞川鈴奈が姿を消してからもずっと、彼らの帰りをこの家で待っている彼女の存在を青天は知っていた。

 そして彼らと居たということは、


「君は『宮殿』という存在を知っているな」

「!?」

「図星か。ならば話は早い。木葉詠真と舞川鈴奈の消息を知りたくはないか?」


 ☆ ☆ ☆


 白蛇はとある病室を訪れていた。

 ここに入院している人物こそが、白蛇が思う最良の駒。

 その人物に了承を得に来たのだ。


「木葉詠真を助けたくはありませんか」


 ――返事は無い。その人物は眠っていた。


「ええ、助けたいでしょう。君の命が彼を、ひいては島を救うのです」


 白蛇は嗤う。返事をしない『彼』を、何も言えない『彼』を、手術室に運び込み、


「さあ、お昼寝は終わりですよ――我らが『雷神』の少年よ」


 施した手術は――『彼』の脳をいじる、非人道的なモノだった。


 ☆ ☆ ☆


 港から地平線を望むのは、ロゼッタ・リリエル。

 その背後には、龍染寺青天とサフィール・プランタンの姿があった。


「君は、声をかけずとも動くつもりだったのだろう」

「……よくお分かりで。そして初めまして――『宮殿』様」

「よくお分かりで――元英国王室秘匿の王女ロゼッタ殿下」


 その言葉にロゼッタは露骨に顔を歪めたが、一瞬で表情を消し、青天を見据える。


「詠真様、そして灰爽くんが消えた件と、何も関わりが無いとは言わせませんわよ」

「無論、大いにある。彼らは島を裏切った――そう言えば信じれるか? 君は」

「ええ、彼らにそれだけの何があれば、あり得ない話ではないでしょうね」

「ならば単刀直入にいこうか。君には――君達には、木葉詠真を島に連れ戻す任務を与えようと思う。――拒否は認めない。これは政府命令だ。それだけ事態は窮迫していてね」

「…………、」


 ロゼッタは青天の後ろに立つ物言わぬ少女を見る。

 彼女は確か、と思いだす。ならばここにいる理由も頷ける。

 

「……まあ、願ってもないチャンスですもの」


 一歩、踏み出す。瞬間、ロゼッタの視線の先にある倉庫が木端微塵に砕け散った。

 その様子に青天は一切臆する気配は無い。


「私の機嫌次第では貴方がこうなりますわ。それでも私を利用しますの?」

「無論だ」

「……はあ。そうですか。――いいでしょう。私は私の私怨で、その任務を受けさせてもらいます」

「ああ、それで構わん」

「で、メンバーは?」

「君と彼女、そして――」


 青天が顎をしゃくって示した場所へ、ロゼッタとサフィールは視線を運ぶ。

 そこにいたのは――


「「――――」」

「彼がリーダーだ――木葉詠真奪還部隊『秘密警察』のな」


 刹那、港に轟いたのは――無感情にも荒々しい、開戦を告げるが如く閃いた黄金の雷だった。

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