ずっと誰かに見つけてほしかった ~魔道具に込めた思い~ *以前前編後編で投稿したものを少し直して短編で再投稿したものです
読んでいただきありがとうございます。
あらすじ字も書きましたが、修正し短編にしたものです。
「リュナ、おはよう、今日もいい天気ね」
「バウア先輩、おはようございます」
寮から、職場のリペア室までは、庭園と、騎士団訓練所の間を通るのが、一番近い。
今日も、バウア先輩と、一緒にその道を歩く。
私は、ラジール子爵家の次女。
次女とはいうが、兄が5人に姉一人の、7人兄妹だ。
子爵家はもともと、代々魔道具作りにたけていて、魔道具の販売や修繕を、中心とした商会は、なかなかの利潤を得ており裕福な方だ。
7人目で、末娘の私も、幼いころから魔道具を、分解しては組みなおす、分解しては組みなおすを、繰り返し、いつしか魔道具の修繕に魅了されていた。
より安全に、使用しやすい形に、直せた時の、晴れやかな気持ちときたら。
そして難関を突破し、狭き門で有名な、王宮リペア室に、入る事が出来た時は、すごく嬉しかった。
入室時の私は、希望とやる気に、メラメラと燃えていた。
王宮すべての!強いては、王都いやこの国全体の、魔道具を安全に使用しやすく!
私の、この手で、変えていくんだー。
そんな、燃え盛る私から、早2年……。
夢や希望や提案は、おとなしく静かに、いわれたことだけしていろ!と言う室長に、ギュウギュウと潰され、今では、爵位が上の後輩に、影でこき使われる始末。唯一の癒しは、バウア先輩がいてくれる事くらい。
「リュナ、今日のお昼なんだけど……」
「行ってきてください。私、一人でこっそり、ランチができうる、秘密基地を見つけたんです」
「ありがとう~。今日もかわいいリュナ♪」
バウア先輩は、先月、平民ではあるが、事務官のホープ。トマスさんと、お付き合いを始めた。
王宮務めは、まだまだ爵位が、幅を利かせる事が多いが、貴族でなくても、優秀な人の抜擢や、昇格も多くなってきている。
はあ~。
彼氏なんて、眼鏡で、地味な私には縁のない話だな~。
今日もお仕事がんばろー。
✿ ✿ ✿
「リュナせんぱ~い」
午後3時を過ぎると、必ずアンブル・モア伯爵令嬢がやってくる。
魔道具から、眼を離さない私の作業台に、アンブルは魔道具を、二つ投げてきた。
「これ、今日中に、直しておいてもらえます~」
「魔道具を雑に扱わないで、それに、あなたに割り当てられた仕事でしょ」
「もちろん、私の仕事ですけど。かわいい私は~。今日は、ある方と、大事なお約束があるんです。先輩は、特に予定がありませんよね~。それに、仕事だけは、ちゃちゃっとできるじゃないですか~」
アンブルは、こうして毎日必ず、私に仕事を押し付けて来る。
アンブルの、お父様であるモア伯爵は、うちの商会と取引をしているが、取引をやめますよと、軽く脅すようにしながら……。
実際は、モア伯爵家との取引がダメになっても、子爵家は困る事は無いのに、アンブルの仕事を受けるのは、コネで入り大した技術も無いくせに、魔道具を扱ってほしくないだけ。
んーもー。私の魔道具バカ!
「わかったから、さっさと帰りなさいよ」
「はーい。じゃあ先輩♪ よろしくお願いしま~す」
彼女は、ひらひらと手を振り、帰っていった。
「あーお腹すいた。もうこんな時間か、バウア先輩が、誘いに来ないとついつい、お昼が遅くなるのよね~」
私は、こっそり、一人でランチできる場所へと向かった。
新しく見つけた、秘密のランチ場所は、騎士団の所有する建物と、魔導士や魔道具作りを行う、我がリペア室がある建物とが、ちょうど重なり隣接するため、その壁には窓もなく、小さなベンチがぽつんとある小さな庭で、どちらの建物からも、裏手になるので全く人が来ない。
秘密基地のベンチに、たどり着いた私は、包みを開け、サンドイッチをひと口かじる。
少しすると、庭の相棒がすり寄ってきた。
「あらいらっしゃい。ちゃんとあなたの分もあるわよ」
私と同じ、ヘーゼルアイで、アッシュグレーの、きれいな毛並みの美人猫さん。
かわいい、花柄の青いリボンを、首に巻いてるからきっと誰かの飼い猫だと思う。
「ご主人様には内緒よ」
私は、別のパックに入れた、蒸した魚のほぐし肉を彼女の前に置いた。
「ニャー」
「どうぞ召し上がれ」
食べ終わると、美人猫さんは、三つ編みに編んで、片側に流した私の髪で、遊び始めた。
手で髪の先を揺らすと、両手を上げて、ちょんちょんと髪にパンチする。
「ご主人様は、あまり遊んでくれないの?ところで庭の相棒さんは、なんて言うお名前なのかしら」
私は少しの間、相棒に癒してもらい、仕事に戻った。
「ん~。まただ」
私は、魔道具を前に頭を抱える。
アンブルから、預かった魔道具の中に、筋力を強化する魔道具があった。
筋力強化は、使用する人への負荷が大きく、危険だから、使用をしない様に、何度も言っているのに。
今回の魔道具は、剣に付けることが出来る、アクセサリータイプで、使用する者の筋力を強化し、戦闘力を増す様に作られている。
一般的に、剣に着ける魔道具は、剣自体を軽くしたり、振り下ろす時だけ、加速がかかったりすることが多いのだが……そもそもちゃんとした、鍛錬の元にどの魔道具も使用されるべきだし、騎士道を重んじる人はあまり使用しないと聞く。
どうして、禁止にしないのか!
アクセサリー自体は、効果のあるなしに限らず、ほとんどの騎士が付けているし、ただのアクセサリーか、魔道具かどうかは、外見だけではわからない。
さらにそれが、どんな魔道具でどんな付与が付いているかは、技術のあるものが、魔道具を分解しないとわからない。
私は、抗議のため室長の室に乗り込んだ。
「室長! 何度も、筋力強化は、使用する人に、負荷がかかりすぎるため危険だと、お話しさせていただいたはずですが!」
私は、ハムザ室長の机に、ことりと魔道具を置いた。
「なんでこれを、お前が持っている。お前に直せと言った覚えはない!」
「アンブル様が、私に直してほしいと持ってこられました」
「これは、お前が直す必要はない」
「では、そのまま使用しては、危険であることを説明して、返却もしくは破棄していただけますね」
「ああ… … うるさい!わかったわかった」
「よろしくお願いします」
ハムザ室長をもう一度、じっと見て、私は作業室へ戻った。
はあ~。ひとつ仕事が減った~。次の魔道具を、仕上げなくちゃ。
修繕する時には、元の魔道具より使いやすく、女性が使用する物なら、かわいらしく美しく。男性が使用する物なら、スタイリッシュにカッコよく。
更に安全に、使用できるようにすることを、モットーにして、私は魔道具に向き合っている。
本日分の、作業を終えた頃には、外はもう真っ暗だった。
✿ ✿ ✿
ワイアット・ローベル侯爵令息 視点
「ローベル騎士団長。こちらのレストランで、先日のペリースの留め具を、修繕した女性がお待ちです」
「ああ、修繕を手掛けたのは、女性なのか。だからあんなに繊細な細工を……女性と、二人だけになるわけにはいかない。アルク、このまま同席してくれ」
「はい」
レストランの個室に案内されると、繊細とは無縁の、艶やかな女性が待っていた。
「お時間をいただき、ありがとうございます。私は、第一騎士団長のワイアット・ローベルです。私のペリースの留め具を、修繕をしていただいたのはあなたですか?」
あいさつすると、女性はおもむろに立ち上がり、私に腕を絡めて来た。
「まあ~ワイアット様。お会いできてうれしいです。私、モア伯爵家の、アンブルと申します。是非 アン♪とお呼びください~」
「モア伯爵令嬢、席にお戻りください、さあ団長もこちらの席に」
部下のアルクが、割ってはいってくれたが…………。本当に、彼女が修繕を?
「早速だが、モア伯爵令嬢、修繕いただいた留め具の事なのだが、どの様にすると、フックが掛けやすく外れにくい様にできるのだろうか」
「そんなことより、ワイアット様のことを、教えて下さいませ~。どんな料理が好きですか?嫌いなものなどは?このレストランは、父が手掛けていますので、どんなご希望に添えます。なんでも言ってくださいませ」
「すまない。モア伯爵令嬢、食事は結構だ、留め具の話を進めたいのだが」
「簡単に作って、返してきた留め具のことなんて、いつでもできますわ~。それよりも~ 」
私は、話をきり上げ、席を立つことにした。
「留め具の話が、できないのであれば、私はまだ仕事を残してきておりますので、これで失礼します。アルク後を頼む」
「あのあの、ワイアット様。 待ってください」
モア伯爵令嬢の、呼び止める声が聞こえたが、そのままレストランを後にした。
モア伯爵家は、あまりいい評判を聞かない。
娘が、一人リペア室に入っていたのか。
「留め具を修繕したのは、彼女ではないな……」
簡単に作って返してきた?
他の者に依頼したのか?
リペア室は確か……アンダーソン伯爵家のハムザ室長に、事務官が2名、技術職は男性3名、女性3名だったか……そんなことを考えながら、執務室のある棟へ向かっていると、言い争う声が聞こえた。
男性と女性が、道の真ん中で向かいあって揉めている。
あの女性は!
裏庭で、シルバーがお世話になっている。
!!
男性が女性の腕を掴む。
「仲裁に入るか」
私は、二人のもとに急いだ。
✿ ✿ ✿
「ロバートさん、手を離してください!」
「今日も、室長と揉めていただろ、仕事なんて早く辞めて、僕と結婚するほうがいい」
「仕事はやめないです。ロバートさんとも、結婚はしません」
「心配しなくても、きみ一人養うことなど、僕には簡単にできるよ」
もーーー。
何度、断われば、この人はわかってくれるのかしら。
勢いよく、ロバートさんの、手を振り払おうとするも、離してもらえない。
「がぁいたたた」
力を込めて、手を振り上げようとすると、ロバートさんの悲鳴が上がり、突然手が離れ、後ろによろめいた。
絶対に転ぶ!しりもちを突く!と、ギュッと眼をつぶり体を固くしたが、ふわりと体が一度浮いて、足が地面に着地した。
おそるおそる、眼を開けると、私は騎士団長様の腕に、すっぽりと収まっていた。
「君は、女性に対して暴力を振るうのか!どこの所属だ!」
騎士団長様が、ロバートさんの手を、ひねり上げている。
「痛いです。離してください。私は、リペア室で、事務官をしているロバート・スミスです。子爵家の者です。彼女とは、ちょっと行き違いがあっただけで、暴力など……か 帰りが遅くなったので、寮まで送ろうとしただけです」
「そうなのか?」
騎士団長様が、私を見下ろして、綺麗な青い瞳と眼があった。
「ひとりで帰れます」
「リュナ!そんなこと言わないで、一緒に帰ろう」
ロバート様が、また私に手を伸ばす。
「今日は、私が彼女を送る。スミス子爵令息、君はこのまま一人で帰りなさい」
騎士団長に促され、ロバートさんは、しぶしぶ帰っていった。
「助けていただき、ありがとうございました」
騎士団長様に向き直り、深々と頭を下げた。
「余計なことだったろうか?彼とは親しいの?」
「いえいえ。親しくありません。職場が一緒なだけです!なんども、お断りしているのに、しつこくて!
あーヤダ。こんな話を騎士団長様に、すみません」
「助けになったのなら、よかった。君、名前は?」
「ラジール子爵家が娘、リュナと申します」
ワンピースの裾を、少し持ち上げ挨拶をした。
「ああ。あの、魔道具作りで有名な」
「父や兄たちをご存じですか?嬉しいです。私は、リペア室で修繕を、担当させていただいています。その……先ほどから、気になっていたのですが、団長様の付けている、ペリースの留め具、使い心地はいかがでしょうか?少し前に、私が修繕させていただいたのですが……」
「君がこの留め具を!」
団長様に、両手で手を握られ、その手はぶんぶんと上下に振られる。
「やー。すごく掛けやすいし、動いても外れにくくなった。デザインも、洗練された物になり、その上!ついていた付与も、強化されている。君は、付与師でもあるのかい?」
「はい、もともとある付与を、強化できるだけですけど」
「あの掛ける部分は、どのような工夫を?」
「電磁石を使用しました。そうすると、見なくても掛けやすくなりますし、外れにくくなります。団長様がお使いになるものと、知っていれば、もっと似合うでデザインを、考えられましたのに♪」
私と団長様は、時間を忘れて、魔道具や修繕、安全に使用するための案など話し合い、気が付くと、すっかり真夜中になっていた。
「すまない。女性を、こんな時間まで引き留めてしまって。今度こそ、寮まで送ろう」
「一人で帰れますから、団長様も早く休んでください」
「騎士として、こんな夜中に、女性を一人で帰らせるわけにはいかない。それと、私のことは、団長では無くワイアットと呼んでくれ、私も君を、リュナと呼んでもいいだろうか」
「あの、本当にいいのですか?私などが、お名前をお呼びしても」
「ああ」
「あの…… では、ワイアット様」
なんだか恥ずかしいし、気が付けばこんな夜中に、外だけど男性と二人きりなんて!
「さあ帰ろう。そして、シルバーに、いつもおやつをありがとう」
「シルバー? も もしかして、ワイアット様は、あの美猫ちゃんの飼い主ですか?かってに、おやつをあげてしまってすみません。どなたか、飼われている猫ちゃんだとは、思ったのですが、スリスリすり寄ってくるのが、かわいくて………つい」
「かまわない。シルバーは、もともと迷い猫で、巡視中に保護したんだが、飼い主も見つからないし、私以外に懐かなくてね。実家の侯爵家では、母が猫アレルギーで飼えないから、私の執務室で、面倒を見ているんだ。時々窓から、どこかに抜け出すから、どこに行くのか気になって、行く先を覗いてみたら……ふふ。リュナとシルバーが、ベンチで昼寝をしていた」
「あわわわ…… あの庭には、誰も来ないし、窓からも見えないと思っていたのに」
「私の執務室からは、少し覗けば見えるんだ」
「すみません。以後気を付けます」
「他には誰も使ってないし、シルバーもリュナと会えないと、寂しいだろうから、誰の許可もいらない。使っていいと思うぞ」
話しながら、ワイアット様はちゃんと、寮の入り口まで送ってくれた。
「また魔道具のことで、後日リペア室を訪ねるかもしれないが、よろしく頼む。では、ゆっくりおやすみ。リュナ」
「はい。ワイアット様。おやすみなさい」
次の日、出勤すると、ロバートさんはお休みで、さらに明日からは、他の部署で、急に辞職した方々がいるので、その穴埋めに、移動になる事になったと聞かされた。
そしてなんだか、アンブルの機嫌が、むちゃくちゃ悪い。
「ねえ。あの子、なんであんなに機嫌がわるいの?」
「ほんとですね…… バウア先輩。関わらない方がいいですよ~」
早々に先輩と、各々の作業場に逃げ込んだ。
その後、数日間はアンブルに、仕事を押し付けられることも無く、穏やかに時間が過ぎて行った。
その日、私が遅めの昼休みから戻ると、室長の部屋から、怒鳴り声が聞こえてきて、私はあわてて駆け込んだ。
「お前が修繕した、魔道具だろ!」
私が部屋に入ると、ハムザ室長が、バウア先輩に掴みかかって、どなり散らしていた。
「私が、修繕したものではありません」
「そんなこと無いです~。私が、この間バウア先輩に、うまくできないから、助けてくださいとお願いして、修繕してもらいました~」
「私は、モア伯爵令嬢から、仕事を頼まれたことはありません」
「魔道具がどうしたんですか?」そう言いながら、室長とバウア先輩の間に、グイっと割って入る。
「こいつが、修繕した魔道具が原因で、第一騎士団の団員が、一人倒れた!こいつに、責任を取ってもらう」
「魔道具は、どん魔道具ですか?まさか、筋力強化ではないですよね!」
室長は、私からサッと、眼をそらした。
「そうなんですね!問題の魔道具を、回収してきます」
私は、ドアへ向かう。
「おい待て、魔道具はもう粉々だ、確認しても意味はない」
「本当に、バウア先輩が修繕した魔道具なら、粉々になるはずがありません。先輩は、道具の強度を上げる、付与を持っています。そして、ご自身で修繕した道具には、必ず強化の付与をしています」
「生意気な事ばかり、言いやがって、いつも遅くまで、ちんたら働くうすのろのくせに、役立たずなお前らは、まとめてクビだ。それで騎士団には、許してもらう様に俺が計らう」
「問題の調査も行わないまま、下の者に責任を擦り付け、排除することが正しいことですか!問題が起きた魔道具は、粉々でも確認や聞き取りはできます。室長として、正し判断をしてください。お願いします」
「室長として正しく、問題を起こした者に、処罰を与えているだろう」
「私は、クビになっても構いません。問題の魔道具を、きちんと調査させてください。そうしないと、次にまた同じ事故が起こります」
「調査などしなくても、こいつが原因だとわかっているだろう」
あー。堂々巡りだ!
組織の上に立つ者が、正しく判断できなければ、そしてその過ちを、正すことができなければ、この組織はおしまいだ。
身分なんてなんだ! 身分があってもこの役立たず!
なんでわからないんだ!んんーーーーーーー。
みんなが豊かに、安全に過ごせる手助けをしたくて、仕事を始めたのに!
組織の中で、上に立つものがそのパワーを、ちゃんと使えないなんて!
抱えきらない、怒りや悲しみを、どうしていいかわからず、室長を睨んでいると、後ろから誰かに腕を掴まれた。
「クビになるのか。それは都合がいい、リュナはこのまま、スミス子爵家で引き取ろう」
「ロバートさん!離してください。クビになっても、ロバートさんのところにはいきません」
「うるさい。行くぞ」
ロバートさんに、腕を強く引かれ、痛みで顔がゆがむ。
コンコン!
ノック音に振り返ると、ブラウンのくせ毛と、きれいな青い瞳、すらっと背の高い青年が立っていた。
「ロバートさん、手を離した方がいいですよ。暴行罪も、追加しますか?」
「なんだお前」
「トマス!」
えーーー。バウア先輩の彼氏!
「私は、事務次官補佐のトマスと申します。今回、リペア室の調査で、事務的な確認を、担当させていただきました」
「平民の事務官ごときが、なんのつもりだ!ここは俺が管理しているんだぞ」
「リペア室の問題は、当然ハムザ室長に、取ってもらうつもりだ」
トマスさんの背後から、ワイアット様が現れた。
「ワイアット様~。みんなが怒鳴ってて、私、怖いです~」
アンブルが、ワイアット様めがけて突進するも、騎士の皆さんに阻まれた。
「ちょっと、私は伯爵令嬢よ!触るんじゃないわよ~。離しなさいよ!」
「うるさくて、話が進まないから別室に連れていけ」
ワイアット様の指示で、ギャーギャー叫ぶ、アンブル様は、連れていかれる。
「さて、静かになったところで、話を進めよう。まずは、筋肉増強魔道具の件だ、ハムザ室長、調べは既についているが、なにか申し開きがあるか!」
ハムザ室長が、ガタガタと震えだす。
「私は、悪くありません。モア伯爵に脅されていて、従わないわけには、いかなかったのです」
「関与していたことは認めるんだな、今回、リペア室で行われていた、様々な不正行為は騎士団と、事務次官で調査し、すべて裏を取っている。」
ワイアット様がみんなを見回す。
「モア伯爵と協力した不正魔道具の販売、リュナ達の超過勤務費の着服。更には、材料費の水増し請求、それらすべてを、ハムザ室長、モア伯爵令嬢、そしてそこにいる事務官、ロバート・スミス子爵令息とが、共犯し行っていた」
「俺は、悪くない、悪くないんです」
ハムザ室長が、膝から崩れ落ちた。
大きなため息をつき、トマスさんが手を上げた。
「さあ。続きは調査省の皆さんが、聞いてくれますから、同行をお願いしますよ」
騎士団の皆さんが、室長とロバート様を拘束する。
「バウア。あとで説明するからね」
トマスさんは、手を振って騎士団の皆さんと、2人を連れて去っていく。
「リュナ。頑張ったな」
ワイアット様が、私の頭にポンと大きな手を置いた。
「私が!……私がもっと早く、他の人に相談していれば、騎士の方も倒れなくて済んだはずです。私がもっと、力があれば、意見を聞き入れてもらえたはずです。なんども、なんども訴えたのに……聞いてもらえなかった。どうすればよかったの……うぅ」
私は、子供みたいに、わんわん泣いた。
次々あふれ出る涙を、止められなかった。
泣いている間、ワイアット様とバウア先輩は、私の肩をポンポン叩きながら、そばに居てくれた。
✿ ✿ ✿
残されたリペア室の面々は、三日間お休みを取っていいと言われ、ありがたくいただく事にした。
一日目は泣いたせで、顔がパンパンに張れていたので、本当にお部屋で休み。残り二日はバウア先輩と、町に繰り出した。
美味しいものをいっぱい食べて、欲しいものを買って♪溜まったストレスを発散した。
休みを終え出勤すると、リペア室のメンバーは、調査省に呼ばれた。
会議室には、事務次官のジェームス様、事務次官補佐のトマスさん、ワイアット騎士団長が待っていて。
現在の状況を、トマスさんが説明してくれた。
「不正を行っていた3人は、聞き取りを進め、処罰が下される。少なくとも、今後王宮に、努める事は出来なくなる。関わっていた、モア伯爵家も調査中だ、調査内容によっては、爵位を返上してもらうことになる。筋肉増強魔道具を、購入していた騎士達には、1年間の減給と2カ月の蟄居処分。ワイアット騎士団長は、管理不行き届きで1年間の減給処分。現在までの処分対応は以上、君たちには何のお咎めも無い」
私達は、ほっと息をつく。
「ここからの体制については、私が説明しよう」
そう言いながら、ジェームス事務次官が立ち上がった。
「王宮内で起きた、今回の不正を、王家は重く見ている。今後、そのような事が起きないよう、王宮職にセキュア部門を、設ける事となった」
「この部門は、王宮内の、安全を守るため、調査省と第一騎士団が協力し、安全を管理する。さらに部内に魔道具の制作と、修理保全を行う魔道具管理室と、仕事の環境や質の改善を行う、質管理室を配置する。リペア室の皆さんには、魔道具管理室で、引き続き仕事をしていただきたいと、考えているがどうだろう」
「「「「はい。よろしくお願いします」」」」
✿ ✿ ✿
それからの毎日は、新しい部門の立ち上げに、目の回る忙しさだけれど、充実していた。
私達は、魔道具の制作にも、かかわることができるようになり【みんなが使いやすい、安全な魔道具で、豊かな暮らしにする!】その夢に、一歩踏み出すことができた。
そして、私の秘密基地は、新しい部門で使用することになった、二つの建物をつなぐための、渡り廊下へと姿を変えた。
「ニャー」
「あら、いらっしゃいシルバー」
私の足に、シルバーがすり寄ってくる。
シルバーは、渡り廊下を挟んで、隣同士になったワイアット様の執務室と、私がいただいた、新しいお部屋を、悠々と廊下の真ん中を歩いて、行き来している。
コンコン!
「失礼するよ、リュナ技術リーダー殿」
「もーワイアット様、からかわないでください」
セキュリ部長を、兼務される事になった、事務次官のジェームズ様は「身分に関係なく、優秀な者が上に上がっていくべきだ!」と、私を、魔道具管理室で、室長を補佐し部屋をまとめる役割を学べる、ポジション。リペア係のリーダーに抜擢してくれた。
そしてここは、室長の執務室に隣接する、狭いが私の作業場兼執務室だ。
こんな素敵な組織を作り、私を抜擢してくれた。ジェームズ様の期待に応えたい。
「ほらこれ。ちゃんと食べろよ」
ワイアット様は、仕事に没頭しがちな私に、毎日お菓子や、軽食の差し入れをくれる。
「ワイアット様は、私を太らせるつもりですか?」
「リュナの顔が、見たいだけだ」
もー。完璧な笑顔で、見つめながらそんなこと、言わないでください~。
耳まで赤く染まり、膨らませた私の頬を、ワイアット様がつまむ!
心が一度、ボッキリ折れたけど。
私の仕事も恋も、輝き始めました~。
~ 終わり ~
仕事の頑張りはいつか報われると思って今まで働いてきたのですが、そうばかりでもないことを実感し、こうあって欲しいと願いを込めて書きました。
みんなのお仕事が正しく評価されますように!(^^)!




