8 叢雲神社の女神様
叢雲神社の巫女である雨竜さんに連れられて、参道を通り二の鳥居をくぐる。
さあっと視界が開けた。そのあまりに綺麗な光景は、水面だけでなく俺の心をも激しく揺さぶってくる。
黄昏の光を映す、果てのない水面。
湖の上に浮かぶ拝殿と本殿は、雄大な自然に囲まれながらも、凛とした存在感を放っていた。海と見まがうかのような湖に夕陽が差し込み、まるで燃える炎のように光が立ち昇り、揺れている。
波がはじく光の粒を、全身で吸い込みたいと思えるほどに美しい。
「あーーっ……生きててよかったー!!」
「あらあら。やっちゃんが生きていること、私もうれしいですよ」
また雨竜さんと笑い合える。奇跡のような時間が、そこには流れていた。
石畳が途切れ、湖の上に敷かれた参道を歩く。水龍の像が建てられた付近は、不思議と水の上を歩くことができた。
木を組み合わせて建てられた拝殿に入ると、ひんやりとした空気が肌を刺す。
神聖な空気が満ちながらも、同時に逃げ出したくなるほどの重圧感が押し寄せてきた。
――空気が澄み切りすぎていて、息ができない。
人にとって致死量の神聖さを持つ者は、人を想い、慈しみながらも、その呼吸を止めてしまうだろう。
人にとって致死量の狂気を持つ者は、人を狂わせ、惑わせながらも、やはりその呼吸を止めてしまう。
ときに災厄をもたらし、ときに幸運をもたらす、絶対的な存在。
――神が、そこに顕現していた。
拝殿の奥、御簾が降ろされている。
青い炎と赤い炎が灯されると、線の細い女性のシルエットが御簾に映し出された。
重苦しい沈黙を破り、鶴の一声が放たれる。
「生まれてくる命が無垢であるように。こぼれ落ち、迷い込んだ命があれば、また純真であろうか。……いいや。身に流れる血が、魂に刻まれた記憶が、過去との邂逅がそれを許さないでしょう。なにより、あなた自身が許さないのではないかしら?」
魂が揺れるほどの、言葉の響き。
耳から入ったその音は、俺の秘めた芯の部分にまで届いてしまう。
「ひさしぶりね。柳楽大和……いいえ、yamato46。私の世界を駆け抜けてくれた、ひとりの子」
自然と、体が動いた。
そうあるべきだという本能に従い、床に膝をつき、身体を丸めて頭を下げる。
「まずは歓迎しましょう。叢雲神社に来たことよりも、こちらの世界にたどり着いたことを祝福します。……同時にそれは、あなたの『死』であることを理解していますか?」
神が言わんとすることを察し、俺は頭を下げたまま深く頷く。
「よろしい。記憶はたしかに引き継がれているようね」
この世界に来てしまった衝撃と、憧れのゲームの世界に入れた喜び。
それらを享受する前に、自分の中の記憶を整理しなければならない。
もやがかかっていた記憶がいま、劇的にクリアになっていく。
――どうして俺は、ゲームの世界に入り込んでしまったのか。
答えを得るために、俺の意識は遡る。
あの日。俺が、神を殺したところまで。
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