5 聖地ドンライ!! 爆速バフ撒き無詠唱ウィザード「あいつ知り合いじゃね?」
『ディア・カルディア』と現実の狭間にいた俺は、ここが現実であるとようやく実感した。
ダンジョンの一階「はじまりの丘」とも呼ばれる、稜線のなだらかな平原。
ゲーム内でのマップ表記では「ドンライズ平原」とされており、通称『ドンライ』と呼ばれていた場所だ。
『ドンライ広場でバフ撒いてます』
『白石・赤石買います! ドンライ入り口』
『滝つぼパーティー募集@3』
草木を通り過ぎる風の音。
どこか懐かしく、思い出の残響に入り浸る。
過去がよかった、などと言うつもりはない。
いまも目の前には、素晴らしい光景が広がっている。
草木のうえにビニルシートを広げた露店が並ぶ。
シートのうえにはポーションや薬草、お弁当まで売っている。
「武器研ぎまーす。三千で!」
「お水・お茶、アイスもあるよーっ」
「ビアガーデンはじめましたーっ!」
「こわれた装備、買います!」
看板を掲げ旗をなびかせ、メインストリートから広場までところ狭しと店が並ぶ。
ダンジョン一階に生えているブナを伐って自作したようなテーブルとイスが並べられた飲食店や、キッチンカートまで存在している。
「お祭りだな」
広がる美しい景色。頬を撫でる風が気持ち良い。
ダンジョンの一階は常に晴れており、モンスターのいない区域になっている。
空は高く、ここがダンジョンのなかであることを忘れてしまいそうだった。
「アカデミーだ」
「あ、アカデミージャージだ」
通りかかる冒険者の先輩方は、俺の格好を見てアカデミー生だとわかるらしい。
名前の書かれたジャージで堂々とダンジョンに入ってくる学生も、めずらしいのかもしれない。
ドンライ広場と呼ばれる一階のシンボルのような空間には、多くの冒険者が集まっている。
二階に繋がるポータルも近く、待ち合わせスポットや憩いの場になっているようだ。
ソードマンやランサー。魔法系のメイジやウィザード。
レンジャー系統のスカウトやアーチャー。ローグ系統のシーフやアサシン。
レベルとジョブ経験値を上げて転職している上級者たちが集っている。
対して、俺はと言えばレベルは1。
ジョブも初心者たるノービスのレベル1だ。
かっこいい武器や杖を装備した冒険者への憧れを持ちながら周りを見回すと、十レベルや十五レベル前後の装備をよく見かけていた。
他人の装備を鑑賞する――いやがられる楽しみ方かもしれないな。
広場を出ようとすると、道の外れにテントが張ってあり、魔法職のひとたちが集まっていた。
「バフもらってから、三階でゴブリン狩りだ!」
同じ世代の冒険者パーティーが走って向かう先には、三人の魔法使いが七色の魔法をかけ続けている。
「ブレス」
「エンハンス・パワー」
「ファイアーエンチャント」
「プロテクト」
「ヘイスト」
武器に光をまとい、軽くなった足取りでダンジョンの奥に向かっていく冒険者たち。
「……すげえ!」
はじめて触れる、生身での魔法と魔力の光。
幻想的で美しく、使い手によって輝きや光の温もりがまったく違う。
魔法使いは三人。万能なウィザードがひとり、支援特化のプリーストがふたり。
支援系が入り口にいてくれるのはありがたいが、彼女たちが使用しているのは、二次転職をしなければ就けない上級職のスキルだった。
「……あのひとだけ、レベル三十五を超えてるか?」
ウィザード特有の『メディエーション』という自己バフをかけながら、ヘイストと炎属性付与を回しているのは、俺と歳の変わらない女の子だった。
プリーストがふたりがかりで支援魔法を使っているというのに、ひとりのウィザードがかけるバフのほうが早く行き渡っている。
彼女は、装備を細かく切り替えていた。
属性ごとに最適な魔法具(オプション付き装備)に持ち替え、スキル効果を極限まで高めている。
ブーツやベルト、首飾りは三十レベル以上のボスドロップ品『ルイン装備』。
全身のオプションは詠唱速度短縮で固められている。
――無詠唱ウィザード。
「……ヘイスト」
思い出したようにスキル名をつぶやく。
対人特化とよばれるウィザードの無詠唱ビルド。
俺の知る最強の魔法プレイヤーと、まったく同じ構成だった。
しぐさや面影が、あまりに似ている。
――突然、心臓が跳ねた。
すこし外れたところで見ていた俺と、そのウィザードの目が合った。
アカデミーのジャージが目に留まったらしい。
もしかして、伝わるか?
俺は、プレイヤー間で使われていたバフ要求のサインを送る。指を向け、ヘイストの合図。
『ヘイストくれ』
反応したウィザードの少女は、反射的に移動スキル『テレポート』を使ってきた。
――フォンッ!
魔力光を放ちながら、真横に現れた青色のロングコートの少女。
俺にヘイストをかけながら、じっと目を見つめて首をかしげる。
「……たまたま?」
『エンチャントくれ』
さらにサインで返す。
「あなた……もしかして、プレイヤー?」
「みんながプレイヤーじゃないのか?」
「ふーん。もしかして、こっちに来て日が浅かったりする?」
サングラスにマスク。表情は見えない。
だが、その声を聞いた瞬間、確信に近いものが。
「プレイヤーネームは?」
「yamato46」
「……え、言うんだ? 疑ってごめん。本当にプレイヤーなのね」
その時、彼女の端末から「ピロン♪」と通知音が鳴った。
画面を見た彼女は血相を変え、仲間に向かって叫ぶ。
「ごめんっ! パーティーと合流するから抜けるわね! ヤバッ……怒ってる。えっと、そうだ。プレイヤーくん、話したいことあるのよ」
追い立てるように鳴り響く通知音。
「ひとつだけ聞かせてもらえるかしら。あなた、強かった?」
「ずーっと負けてたよ」
――とくに、お前には一回も勝てたことがない。
「じゃあ、強いじゃない。挑み続けたんでしょう、ずーっと」
再び鳴る通知。「妹との予定をキャンセルしてダンジョン潜ってたのバレたーっ!」と彼女は頭を抱えている。
なんて自業自得なんだ。
「ねえ、あのさ」
彼女は髪を後ろに流す仕草をしてから、自信なさげに聞いてくる。
「わたしたち、はじめましてよね?」
「はじめまして」
俺がそう答えると、彼女は安堵したように胸をなでおろした。
「また会いましょう。えーっと……山本五十六? じゃあね!」
「なんて聞き間違え……おい!?」
テレポートを繰り返し、慌てて走り去るウィザード。
やりとりを思い出して、自然と笑みがこぼれる。
「……なつかしいな」
沸いてくる喜びで心が爆発しそうだ。
運命なんて、信じてみるもんだ。
「美空」
つい、口から名前が零れ落ちる。
また名前を呼べる関係になれるだろうか。
もらった移動速度バフが切れないうちに、俺は神社へと走り出した。
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