29 ぬるぬるの騎士道
滝つぼダンジョンのボスを倒した後、エクストラステージが発生した。
稀に起きるボーナスステージ。ダンジョンの奥から気持ちだけ弱体化したボスが連続して出現することがある。思いがけず連戦となるせいで倒しきれなかったり、ボスを倒せていても撤退になる可能性まである。
今回出てきたのは「アビス・イール」。海底神殿に眠る青色のうなぎだった。全長は5メートルほどに及び、牙も備えた厄介な敵。空中を泳ぐことはないが、厄介なうなぎの性質を備えている。
「なんですか、こいつは!?」
「全身にぬるぬるスライムをまとってる。日本ではローションっていうんだが、まあ滑る。陸地で足も持たず高速で体当たりしてくるのは……うわああああ!?!? きたあああ!?!? やめてやめて、レベル差を考えて。死んじゃう、死んじゃうからーーーっ!? ぎゃああーーー!?!?」
立ち位置が悪く、左右によけようにもウナギの体が太くデカすぎてつぶされかけたとき、マティルダが俺を抱えて洞窟の壁を蹴ってきて助けてくれた。
「っく、サンマの刺さったピエロめ」
「マティルダさん。ありがとうー!」
片手に粘液まみれのウォーハンマーを持っている。ハンマーの後ろは鋭く尖っている仕様で、重装備ごと穿つこともできる。さすが高レベルの冒険者だ。対応範囲が広い。
自己バフを重ね掛けしたマティルダは、直線的にウナギへととびかかり頭を狙おうとする。
――ズルっ
「くっ!」
踏み込みの瞬間にウナギの粘液で足がすべり、跳躍が十分にいかなかった。アビス・イールの顔面めがけて自ら突っ込んでしまう。ウナギは凶悪な牙を携えたアゴを開き、飲み込もうとする。
「なめるなっ」
――ドンッ
遠心力で振り回したハンマーがウナギの横顔を吹き飛ばす。衝撃でウナギは壁に頭を打ちつけていた。
「まるで怪獣同士の戦いだな」
「や、大和。私たちは見ているだけでいいのだろうか」
「悔しいけど自分たちは足手まとい。あのレベルの足を引っ張らないように努めることもチームには必要だよ」
「ウナギの適正は20レベルちょいでな。ダメージは通りにくいし、動きは不規則だ。初見で挑むのは危ないボスではある。初めてでも戦えているマティルダさんは、やはりトップ冒険者だ。応用がすさまじい」
アビス・イールが魔法を唱える。体の中心に魔法陣が発生し詠唱をしだす。しかし、まわりはヌルヌルの粘液で満たされており近づけない。詠唱を許してしまう。
「ッチ、やっかいな」
「あの魔法陣は……バブル・ボムがくるぞ! こちらは俺がさばく。周りこめ!」
「やはりあの男、悪くない。肉壁になることはあなたの使命だ。栄誉ある行いをしろ! 死んだら労ってやる」
「かしこまりました!」
「ヤ、ヤマト!? 死んではだめだよ!?」
「さあ、みんな石を拾え! 投げるために石を拾うんだ!」
「わかった!」
「拾った! そ、その……大和、言いにくいんだが……おまえの頭に。な、なんだ。痛くはないのか?」
「頭? 大丈夫だ。俺の頭はいつもおかしい。魔法がくるぞー!」
アビス・イールが放つ魔法は扇状に大きな泡を発生させる魔法だった。サッカーボールほどの球体は空中を漂いながらフィールドを走る。ふよふよと迫りくる泡。これに当たると爆発し、ふっとばされたうえに体力が削られてしまう。
「くるぞ! 石を投げて防ぐんだ。なるべく固まっている泡に当てろ! 誘爆する!」
――ボボボボボンッ
泡がはじけ爆発する音が洞窟に響き渡る。
「くうっ!」
泡がどう誘爆するかは計算しにくい。マティルダが背後から爆発した泡を食らう。
「まずいな。ケアしてくるわ」
ウナギは待っていましたとばかりにアゴを広げていた。マティルダが泡にはじかれ地面をバウンドする。そこをすかさず滑りながら捕まえていた。
「クソがっ!」
「ティルダー!?」
「あれはまずいのではないか!?」
ウナギはぬめぬめした体でマティルダを捕まえ、からみつく。蛇のように巻き付くわけでなく、胴体をガッチリと拘束されていた。
「っぷ、気持ちの悪い粘液が口に……クッ! 殺してやる」
バツンと音が鳴る。軍服が引き絞られて破れてしまっていた。豊満な胸があふれ、インナーが露わになる。
「若いお嬢さんに恥をかかせるもんじゃない。反省しな、ウナギ」
ウナギローションのうえを颯爽と滑る俺を見たパーティーがざわめいた。
「あいつは一体なんなんだ!? なんであの上を滑れる!?」
「ヤマトはスピードスケートの選手なのかい!?」
「なにを隠そう俺はウナギローション相撲の選手だった。第一回、滝つぼで開かれた……」
「さっさと助けなさい!」
「はいーーーっ!!」
両手でローションをすくい、全身にローションを塗り込みながらバブル・ボムをキャッチする。
この泡は、ウナギの粘液をまとっていれば爆発せずにキャッチすることができる。これを、ウナギにぶつける。
――ボンッ!
「ギャオオオオオーーーっ!」
「確定でスタンが取れるってわけよ。やっちまえ、マティルダ!」
「でかした。後で首輪を買ってやろう」
「ワンワン!」
「……くはっ。かわいいやつめ」
マティルダが滑らないよう、ウナギとの間で五体投地し安全な足場となる俺。
背中を見せる姿でマティルダは察した。トンッと軽い振動が背中にのる。恐ろしく軽い足だった。
マティルダは跳躍している。獲物を狙うネコ科の動物のように、しなやかでやわらかい動き。
――ゴドンッ
ウナギが頭をハンマーに撃ち抜かれた。下は地面で衝撃の逃がしどころはない。直撃した衝撃にスタンが延長している。
――ドン、ドドン、ガツン
執拗に頭を狙って巨大なハンマーをぶん回すマティルダ。マティルダのハンマーに魔力を帯びた光が纏う。スキルの発動エフェクトだ。
「ハハッ! 脳漿をぶちまけなさい『ヘヴィー・インパクト』」
ソルジャーの自己バフものっているため強烈な一撃が決まった。




