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3 「5レベまでダンジョン入れないから」「はあ――!?」


「柳楽くん?」


 剣聖である祖父に失礼な口をきいたとして咲耶に怒られている最中、知らない男性から声がかかる。

 助かった。


「はい。柳楽です」


 清潔感のあるさわやかな青年だった。

 整った顔立ちで、笑うと白い歯が光っている。


「……出直したほうがいいかな。取り込み中だったかい?」


「用件はもう済んだ。大和、わかったな?」


「はーいっ」


「子供みたいな返事だな。まったく……ではな。週明けにまた会おう」


 咲耶は最後まで礼儀正しくあいさつをしながら離れていった。


「いまのは神楽さん?」


「知ってるんだな」


「ご家族が冒険者協会のお偉い先生だからね」


「へえ、そうなんだ」


 神楽の爺さんが冒険者協会の会長とか紹介されてたってことは、もしかして咲耶も偉い人なのでは? ようやく、それに気がついた。


「はじめまして。藤森 北斗です。寮でルームメイトなんだよ。よろしくお願いします」


「柳楽 大和だ。もしかして、新入生代表の挨拶してたひと?」


「そうだよ。直接言われると恥ずかしいね」


 照れてはにかんで見せる姿も様になっている。


「藤森くん、またねーっ」

「かっこよかったー!」


 女子の黄色い声に、笑顔で手を振るイケメンの姿。


「寮を案内したいんだ。時間は大丈夫かい?」


 人気者なルームメイトに案内をお願いすることにした。


 学園に併設されている寮はいくつかあって、それぞれに寮長もいるらしい。

 全寮制の学園なため、学園に通う全員が寮に入っている。


 寮でのトラブルも多く、各階やフロア単位で取り仕切るリーダーもいるそう。


 多目的室やランドリー、談話室を兼ねた食堂。

 トレーニングルームや、大浴場など生活に必要な設備は整っていた。


 一部屋の人数は部屋ごとに異なるらしく、一番多いところで六人部屋まであるらしい。


「僕たちの部屋はここなんだ」


 最上階の角部屋で、日当たりのよさそうな位置にある。

 学生証をかざすことで扉のロックが開く。


 玄関を見ただけで驚いた。


「……十人部屋か?」


「そう思うよね。ふたり部屋さ」


「ふたり部屋!? ここが学生寮? アパートどころか高級マンションの一室だろ!」


 広々とした玄関にはシューズボックスと姿見がある。

 なんと、トイレと洗面所が別に備え付けてある。


 玄関を抜けると広々としたキッチンのあるリビング。

 木製テーブルには、椅子が六脚も置かれている。


 大きなテレビを囲むように、十人は座れそうなふかふかのソファがあり、洗濯機やバスルームも備わっている。寝室はそれぞれ別に存在していた。


「寝室を片方使ってしまっているんだ。どっちがいいか希望はあるかい」


「希望なんてとんでもない。ただ、なんというか……俺がここに住んでもいいのか?」


「もちろんだよ」


 まぶしい。あまりにまぶしすぎる。


「日用品は用意してあるし、食器や電化製品は先輩たちが置いていってくれているみたいなんだ」


 置いていったにしては、やけにきれいで新品に近い。


「あらためて柳楽くん。卒業までよろしくお願いします」


「こちらこそ。よろしく頼む」


「そうだ。君あての荷物が届いてたんだよ」


 ボストンバッグがひとつ、テーブルのうえに置かれていた。

 俺のらしい。


 差出人にも心当たりがなければ中身にも心当たりがない。

 開けてみると財布や携帯電話。


 数日分の着替えに、タブレット端末とノートパソコン。

 体育用具や筆記用具なんかも入っていた。

 財布のなかには新札の万札も入っている。


 千円札を何枚か手に取ってルームメイトに差し出した。


「日用品代だ。払わせてくれ」


「いらないよ」


「それはよくない。これから一緒に住むうえで、遠慮はなしだ。俺が藤森と対等でいたいんだ。受け取ってくれないなら、俺はトイレでケツを拭けなくなる。あるいは、千円札で拭くぞ?」


「はははっ! それは困る。わかったよ、きっちり半分だ」


 数枚返されたお金は自分の財布に戻しておいた。


「柳楽くんはしっかりしてるね」


「藤森ほどじゃないさ。共同生活のうえで、ルールはあるか? たとえば、就寝時間や休日の朝の起床時間。友人を連れ込んでいいか。掃除はだれがやるか、とかな」


「いいね! 柳楽くんは話がはやい。決めていこう」


 共有スペースの掃除当番やお互いの寝室は入らないこと。

 友人を呼んでもいいこと。

 週末なら、共有スペースに泊まらせてもいいことなんかを決めていく。


「いちおう聞いてもいいかな? 彼女はいるのかい?」


「いないな。藤森は?」


「同じさ。共有スペースに女性が入るのはイヤかい?」


「かまわんぞ。お互いのチャンスをつぶさないためにも」


「ルームメイトがきみでよかったよ、大和くん」


「立て込んでいるときは連絡くれれば帰りを遅くできる」


「……ん? ち、ちがうよ。そういう意味じゃないんだ」


「そうなのか。すまん」


 いくつか雑談をしてから荷物の整理をしていたところ、気になるものが目に付いた。

 郵便の送り状だ。住所や郵便番号が無茶苦茶だ。


 だが、叢雲むらくも神社という地名に心当たりがあった。

 ダンジョンの一階にある神社の名前が、叢雲神社という。


 行ってみるか。


「藤森、教えてくれ。ダンジョンにはどうやって行くんだ?」


「学園の入り口からバスか電車に乗ってすぐだよ。Fクラスだったよね。……ということはレベル1か。ダンジョンは初めてだろう。一緒にいこうか?」


「たぶん大丈夫だ。ありがとう」


「そうかい? そうだ、言っておかなきゃ。ダンジョンは1階までしか入っちゃだめだ。校則でレベルが5になるまでは、モンスターのいる階層に自分では入れないんだ」


「なんだって!?」


「強いパーティーと一緒じゃないと2階以降には行けないんだよ。はじめのうちだけさ」


 低レベルでモンスターに挑むのは危険であり、安全のためモンスターと戦わずにレベル上げをしろってことか。


 地道なトレーニングで入る経験値は、それこそ地道なものだった。


「レベル上げの手段はどうやってるんだ?」


「部活に入って練習したり基礎トレを繰り返したり、ダンジョンの一階で採集を行ったり地道に経験値を稼ぐんだよ。半年はかかるかもしれない。早い人でも三か月は入れないよ」


「はあ――――!?!?!?!?!?!?!?」


 俺の喉から今日一番大きな声が飛び出した。



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