28 神楽一刀流 奥義 鳴神・千本桜
「残る秋刀魚はひと塊の魚群。動きもはやい。孤立すると、なりふりかまわず襲ってくるぞ。こちらが仕掛けると全員で避けて、まとまって反撃までする。連携して追い込むんだ!」
「自分が後ろに回って追い立てるよ!」
「俺が咲耶のところへ誘導する。うまくやれよ」
「……ああ、任せろ。心遣いに感謝する」
――俺たちは良いチームになれる
カモシカのように跳ねたアルヴィが魚群の正面に立ち、即座に切り返し後ろに回る。魚は驚いてアルヴィを避けてまとまって動く。急激な加速と細かいカットを入れ魚を完璧に誘導してみせるアルヴィ。いくつか襲ってくる個体を軽く避けている。すっかり狩猟者の目つきになっていた。
アルヴィの動きから調整し、魚群を誘導するために立ち回る。アルヴィと交互にフェイントをかけながら魚群を調整する。
へたに突っ込むと魚群がふたつに分かれてしまい、余計に大変になってしまう。できるなら数が多いうちに削っておきたい。
アルヴィと何度も目を合わせ、咲耶とも目を合わせる。
アイコンタクト。ひとつの強敵を前にして、目だけで意思疎通を図る。人によって、できるできないの問題もある。さらにできたとしても意図をくみ取れるか、戦術感を共有できているかなど互いを知らないとできないテクニックだった。
出会ったばかりの俺たちだけど、ひとつになることができている。
仕掛けたのは俺だった。まっさきに切り込み魚群の尻尾を斬りつける。
ざっと十五匹は斬った。後ろでアルヴィがクロスステップを踏み、急な切り返しを行っている。これがフェイントになっていた。
アルヴィは高次元のボディコントロールと天性のバネを合わせ持つ近接戦闘職だった。加速から最高速度までの到達がはやすぎる。二歩で接近する捕食者の速度を、高い危機察知能力を持つ魚群でさえも察知することはできなかった。
アルヴィが魚群の腹を食い破る。数十匹のモンスターが赤黒い光のエフェクトとなって消えていく。
「おかわりだっ!」
咲耶のもとへ魚群を誘導させるために、わずかに停滞した魚群の尻尾をさらに斬りにいく。魚群が逃げた先に咲耶がいる。
魚群の後ろを囲む形で俺とアルヴィが陣取り、前に追いやっていた。回避行動を起こす魚が混乱し、円を描いて周りはじめた。
「神楽一刀流 奥義」
ひときわ力強い踏み込みより始まる居合の型。
―ドンッ
蹴り足の振動がにぶい音を立てて腹の底に響いた。金属が擦れる音が響きながら魚群のなかを咲耶が通り過ぎる。交わる影は一瞬。振り返り、刀を鞘から抜きうつ形で咲耶は着地した。
「鳴神・千本桜」
――ザンッ
次元斬を思い出させる斬撃の重複音。
サンマは動きを止め力なく腹を上に向けていた。
すべてのモンスターが一太刀の元、ただの一匹の例外もなく切り伏せられていた。
「……なるほど。一体だけ刀となっていないサンマがいるのだな? やけに肉質が柔らかい個体がいた。つねに集団の中央で守られている魚だろう」
完全に攻略された滝つぼダンジョンのボス「ソーリアン・アビス」は光となって消えてゆく。
まさか千に近いモンスターを一太刀で斬り伏せるとは想像もしなかった。
――なにを育てている、ジジイ
身の毛がよだつほどのすさまじい才能を前に鳥肌が止まらない。
すさまじい才能がひとつならず、ふたつ。
――これは、楽しみだな
「なーにをニヤニヤしておるか。大和、傷は大丈夫か?」
「男の子はね、傷ついて強くなるのよ。ありがとう」
「気色悪い声をだすのはやめろ。……むう、無事でなによりだ。守ってくれたことに感謝する」
軽く手を振って応えた。ポーションで体力が回復して元通りさ。
「サクヤ! 最後の一撃はなんだい!?」
「神楽一刀流に伝わる奥義のひとつだ。鳴神という突進技と居合切りの合わせ技なのだが……はて、どうしてあんなに切れたのだろうな?」
「わからんのかい!?」
「ファンタスティックな技だー! ヤマトとサクヤの剣術を習ってるひとたちは、みんなこんなに強いのかい!?」
「いーやっ! 咲耶が特別おかしい」
「それにねっ。頭の上でぐるぐるやるやつ。あれで攻撃を完璧に防げるのは衝撃だったよ。すさまじい練度の技だ。美しかった」
「ありがとう。アルヴィも、すべて避けることができていた。目と身体能力の高さには感服する」
マティルダが静かに近寄ってきて周りを警戒していた。俺は頷き返した。
ボスを倒したのに宝箱がポップしない。慣れた冒険者なら違和感に気づけるし、もっと慣れたプレイヤーなら喜ぶか逃げるかのどちらかを選んでいた。
「だれか運のいいやつがいるな」
「説明しなさい。これは終わってないということか?」
「その通りです。ごくごくまれに起こるんだよ。ボスを倒すと違うボスが呼ばれて飛び出てくることがな! そら、お出ましだ!」
ソーリアン・アビスがいた場所の奥には小さな滝の流れ込む池があった。
地響きを立てながら長い首をもった巨大な体が飛び出してくる。赤黒い魔力に包まれたボスモンスターがあらわれた。
「に、二体目!?」
「なんだってーっ!?」
「マティルダさん、前へ! よりによってウナギかよ。近接は効かない! 打撃を中心に戦えるか」
「無論。パイにしてやる」
「うなぎは丼だろ! 体力が半分以下になったら捌いてやるぜえーっ!」
「了解。ふるまいなさい」
「串打ち3年、裂き8年、焼き一生。裂きまでは今日中にマスターしてやるぜ!」
アルヴィが思わず「あ、あのふたりは恐ろしいものがないのかい?」とつぶやき「ダンジョンに慣れすぎだろう、大和は」と呆れていた。
知ってるかい? きみたちも毒されてきてるのだよ。




