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24 神楽一刀流

 

滝つぼの奥にある秘密の洞窟にはインスタンスダンジョンがある。それがここ、滝つぼダンジョンだった。奥にはボスがいて戦闘になる。


 湿度の高くじめじめした暗い洞窟のなかを静かに進んでいく。

 ぽたり、ぽたりと水滴が垂れる音がする。水場からあがってきたモンスター、ギルマンがいた。二足歩行の魚は魚の骨でできた槍を持っている。


「一体だけだ。俺が動きを押さえる。攻撃は任せた。美空のバフがあるから、攻撃を当てるだけで十分だ」


 ふたりに合図して俺は駆けだした。

 足音の振動がすぐに反響するほどの狭い洞窟。接近するといやでも気づかれる。

 にごった魚の目と目が合い、すぐに槍を突き出してきた。尖って飛び出た骨棘に注意しながら避ける。すぐさまギルマンの腕を目がけ刀を振り下ろした。大した抵抗もなく、腕を斬り落とす。手と槍を落としたギルマンは固まっていた。俺はモンスターの中心に刀を差し動きを止める。


「やれ」


「はあーっ!」


「せいっ!」


 ふたつの光が交差する。刃の銀光はギルマンを捉えていた。

 刀から重みが消える。さあっと魔力となり儚く消えていくモンスター。生きた痕跡を残すかのように魔石と骨の槍だけが地面に落ちていた。


「ふたりともナイスだ!」


「うまくできてたかな!? 体が羽のように軽いよ!」


「ああ、ばっちりだった」


 美空のバフはだれでもわかりやすく体感できるほどに強力だった。


「ふむ。なるほど。ふたりで斬りかかろうとすると、左右に分かれなければいけない。こちらの振りの精度が悪いか。これは学びだな」


 戦闘らしい戦闘ははじめてだったのだろう。すっかり気が緩んでしまっている。


「あらよっと」


 飛んでくるソードフィッシュ。白く凶悪な剣の姿をした魚が空中を遊泳し、狙いを定めて突撃してきていた。

 それを難なく斬り落とす。魔石や料理の素材になるアイテムである白身魚を得た。課金アイテムのおかげで自動でインベントリに収集される。


「いま、モンスターが飛んできていたのか!? 音もしなかったよ!?」


「……間違いなく、いまのは食らっていただろう」


「いや、マティルダさんも気づいてたから、そうはならないさ」


 静かに見守ってくれている頼もしい姿があった。問題なく動けているうちは口出しもされず指示もない。任せてくれていた。


 つぎに接敵したのはソードフィッシュとアクアスライム。そしてギルマンだった。


「スライムと魚は俺が担当する。ギルマンをふたりに任せてもいいか?」


「承知した」


「やってみるよ!」


 返事を聞いてから俺は音を出しながらモンスターに襲いかかる。はじめに気づいたのはソードフィッシュで距離を取るために一度下がっていく。つぎにスライムが体を震わせ、リング状のバブルを吐き出した。これを食らうとデバフをくらい動きが鈍る。リングを右手にもった刀で切断し左手の「名刀スライム」で角度をつけスライムを叩いた。


――ボコンッ


 刀で叩いたとは思えない音を立てスライムが飛んでいく。飛んで行った先には旋回したばかりのソードフィッシュがいた。ボンッと音を立てて空中でぶつかると魔力になって消えていった。


 後方の邪魔にならないように二歩横にずれる。咲耶とアルヴィが邁進する。さきにアルヴィがモンスターにあたるようだ。

 アルヴィは槍を持った半魚人を相手に待つか攻めるかの二択を一瞬迷い、攻める選択をした。槍を持ったギルマンの左に回り込む。咲耶が攻撃するためのスペースを確保しながら、モンスターのヘイトを釣り攻めようとする。


 ギルマンがアルヴィに槍を突き出そうとした途端、咲耶の鋭い刀がモンスターの胴をふたつに分かつ。

 小さな音をたてて魔石が落ちた。


「アルベルタ様、二対一の場合は無理に攻める必要はありません。いまのは、オーバーラップをして、にらみ合うだけでいいです。もう一人の味方の上がりを待ってください。攻めて反撃を食らうと有利がなくなってしまいます」


「そうだよね。わかった! ありがとう!」


 厳しい指導の言葉が飛ぶ。さすがプロチーム。お互いに意見を言い合える関係らしい。


「ふむ。大和, なにか私へのアドバイスはないだろうか?」


「え? 俺が? 見たところ、神楽一刀流だよな」


「うむ。我が家に伝わる流派だ。「剣聖」が創立した流派でもある」


「んーっ……俺が教えることなんてあるか? むしろ神楽一刀流を教わりたいぐらいだ」


 自分の型を持って強さを発揮できるタイプに対して、へたにアドバイスなんてしようものなら邪魔になってしまいかねない。気づくることはあるものの口に出すまではできなかった。


「……ふむ。そうか。神楽一刀流を習いたいのであれば、いつでも大歓迎だ。道場でやっている教室にも招待しよう」


 咲耶は口に手をあてながらなにやら悩んでいるようだった。「……もしや、同じ流派かと思ったのだが」というつぶやきは音を立てずに消えていった。


「次のエリアにはモンスターが五体いるんだよなあ。釣りだすのが安全策かつ定石だ。よく覚えておけ」


「そう言っておきながら、お前が突っ込むのか!?」


「おわあーっ!? 大丈夫かい?」


「まず、奇襲ができると思うのはやめましょう。モンスターは一体が気づくと、ほかのやつらも大抵気づきます。なので、結局は正面からいくことになります。せいっ! ひとーつ!」


 スライム目がけて名刀スライムをあてた。ビリヤードボールのように、スライムとスライムはぶつかり吹き飛んだ。さすが特攻武器だぜ。


「ふたつ。ひとりで多数のモンスターを相手取るのはやめましょう。自分の倍の武器が襲ってきます。っほ!」


 二本の槍に貫かれようとする。右手の刀で穂先を流し、もう一本の槍へと当てる。骨で作られた槍は互いに押し引きしようとする力に邪魔され動かせないようだった。

 槍が重なっているところ目がけて足を踏み下ろす。

 槍を握りしめたままの二匹の魚はまな板の上に乗った。

 重心が前にずれた魚は二体とも首を突き出すような恰好になっている。


――シャッ


 のどを簡単に切断し、えらをも切断できた手ごたえがあった。持ちあがった魚人のアゴをそれぞれに手を添えて押し込むとバキっと首が折れる。サバの首を折るぐらい簡単に倒すことができた。


「みっつ。ダンジョンを出るまでは気を抜かないこと。予想外は何度でも起こりえる。ほら、戻ってくるときには、モンスターが増えてるとかな」


 向かってくるソードフィッシュは応援を呼び三匹に増えていた。

 空中を一目散に泳ぎ、俺を目がけて突撃して来る。右肩と左足と腰を狙っているようだった。


――ジジイ。ジジイの剣は神をも殺し得たよ

――教わった剣は俺の中で生きている

――もらったものだ。すこしぐらい返したっていいよな。利子つきだ。喜んで受けとれ


「神楽一刀流「椿」が流れ「逆波」合わせ」

 迫りくる狂刃はみっつ。嬉々として飛び込む狂人がひとり。


「落花流水」


 三つの刃を、ただの一刀をもって迎え撃つ。

 丸みを帯びた卵のような剣閃をふたつ宙に輝きが残るほどの速度で振るう。剣先が下に向いた刃を親指の移動と重心の移動をもってふたたび敵へと向けると同時に、斬り上げる。

 相手の突き技よりもはやく放つ三連撃。

 空中で静止したモンスターに背を向け安全を確かめたうえで納刀する。

 モンスターが落とした魔石を地面に落ちるまでにキャッチし、仲間のもとへと戻った。


「よっつ。勝てたなら、ただ運がよかったと思え。剣がたまたま冴えたぜ」


「……ありえない」


「いまのは、なんだい。信じられない技巧。いまのは「侍」のスキルじゃないの?」


「三連撃のジョブスキルはあります。彼のは違う。あれはただの技術で成しえる、彼だけのスキルです」


「いまのは神楽一刀流で間違いない。……見たことのない組み合わせ。型や技を自分のものにして昇華することができるだなんて剣聖クラス……おじい様やお兄様の領域ではないか」


「俺は神楽一刀流を名乗れない。正式に習ったわけじゃないんだ。ただ、少しだけ教わったことがある。きっと別物になってるだろうよ」


「大和、恥を忍んで頼む。いまの技を教えていただけないだろうか」


「もちろんいいぞ。型ができる。型を実践で使える。型を繋げられる。型を実践で繋げられるまでの難易度は高い。まずは外に出たら形から教える。一か月もあればできるようになるさ。俺から盗めるものがあるなら盗めばいい。協力は惜しまない」


「ぜひとも、よろしく頼む」


 俺の剣には、どうしても言えない秘密があるのも事実だった。


「さあ、折り返しだ。ボスまで突っ走るぞ!」


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