21 踊れ、ピエロ(圧)
『小僧、さきほどはずいぶんと楽し気だったな』
『はい、ボス。そのとおりです』
ステージ3で美空と話していたことを咎められるのかと思った。
『ッフ。理解のできないヤツだ。新規のマップだというのに、慣れ親しんだかのように攻略をしている。おかしなやつ。もしや、意図的にレベルを下げているのか?』
『ベースレベルダウンはテクニックとしてある。しかし俺は正真正銘のレベル1です』
『ダンジョンに詳しいだけの人間が、ふたりも揃うとは考えません。なにか背景に組織か熟練の冒険者がいると考えたほうが自然です。その知識を利他的に使用している理由は想像の及ばぬところ。ああ、もしやキサマは……ウィザードのヒモですか?』
「……ぶっほ」
至極真面目な顔で聞いてくるマティルダ。
『違ったか。まあ、いい。順調にクリアするように。キサマがウィザードの知り合いでなければ、体にじっくり聞くというのに……そう思わないか?』
クローズドクエスチョンの後に肩を叩かれる。恐ろしさに身がすくみそうだ。
気を取り直してステージ4に挑みますか。
「よしっ、やるわよーっ」
「ここは俺と美空に任せてくれ」
「ヘマしたら高級寿司、奢らすからねーっ」
「たっけえな、おい!」
「もちろん全員分!」
「破産するわ!」
スライムの森の第四ステージはボーナスステージだった。
クリアできなくても問題なく、クリアできると経験値と報酬が豪華になるやりこみステージ。
内容はダンスゲーム。
足一つ分ぐらいしかないスライムのタイルがしきつめられたフロアがふたつあり、そこがステージだ。
「2分ぐらいかな。踊ってるから見ててくれ。うまく踊れたら経験値も増えるんだ」
「ほう。そういうステージなのか」
「ダンス? たのしそうだね! がんばれーっ」
『お嬢様のために死んでも取れ』
『かしこまりました、ボス』
「ティルダー! きみはなんでヤマトに厳しいんだい」
マティルダは答えず、白い歯を見せて笑っていた。
「指輪、指輪。スライムの指輪! 紫のやつ! 詠唱短縮効果のアクセ!」
始まる前に報酬の抽選を祈っている美空だった。
「気合いれるために着替えていい?」
「ウィザードコートは動きにくそうだしな」
「そうなのよね。じゃーんっ、ダンスマスター装備一式!」
システムを使用して一瞬で装備を換装させる美空。
女性用のダンマス装備はショート丈のタンクトップにショートパンツのセットアップ。
「天乃さん、とてもスタイルがいいな。顔も小さくて、腰も細い……うらやましい」
「スポーティー! 健康的だねっ!」
「おい、美空。腹でてんぞ。冷やすなよ」
「あんたは、お父さんかッ!?」
スライムのロゴが入ったキャップをかぶり、髪をまとめる美空。
俺と美空がフロアの中心に立つと、カウントダウンと共に曲が流れ始めた。
「マスター・スライム流れるの!?」
「スーパーハード曲やめろって。くっそっ!! 外れひいた!」
軽快なイントロ。美空はすでに腕の振りをはじめ踊っている。
「大和ー! おまえも踊らんか!」
『踊れ、ピエロ』
マティルダのつぶやきを耳にしてビクっと体が硬直し、勝手に体が踊りだす。美空と一緒に両手を上にあげながらジャンプした。
「ははっ、踊れるじゃないか!」
地面に触れた瞬間に俺の足元の床が一列光りだす。そこを踏むと。
「ピギャッ」
音に合わせてスライムが倒されていく。
ピタ、ピタピタとスライムが三体。
「ピッ、ピッ、ピギャ!」
どこか儚いスライムの断末魔も、音に合わせて歌っているように聞こえる。
「ピギ、ピギギッ、ピギ、ピギャーッ!」
一生懸命にステップする俺を見た美空が声をかけてくる。
「なーに下をみてるのよ。前みなさい! 足元すくわれるわよ!」
「美空みたいに! 運動神経に自信はないんだよっ!」
同じ列で二度足を踏まなければいけない難関ステップに、俺と美空はランニングマンをクロスさせて対応していた。
「わあっ、細長いスライム。今度は、左右にふたつずつスライムがくっついている!?」
わずかにタイミングを変えながら横向きのステップが必要になる。これはクラブで対処する。
美空は手首を巻き上げる動きをつけながら、軽やかにフロアを押していた。
曲も中盤。ここからは考える暇もない鬼のようなステップの応酬だ。
「なんだあのスライムの数!?」
「ひゃーっ。ショパンの木枯らしを弾くときの右手のような数だね!?」
「アルヴィの教養が高すぎてわからぬ!?」
「ウィザードの少女は近接職のような身軽さですね」
俺は譜面を見ながら、追うのに精いっぱいでわからなくなってきた。
「だあーーっ、これなんだっけ!?」
「横向きのランニングマン。途中でクロスいれてターン! そうそうっ! ランニングマン、正面! チャールストンいれるわよ、せーのっ! 次クロスランニングマン!」
「あああーーー!! ムリムリ!! わかんなくなってきたってば!!」
「サイレンス」
「おっ、ヤマトが静かに……? んっ?」
「声が聞こえないだけで大声で叫んではいるようです。声の聞こえなくなる魔法でしょう」
「音楽が聞こえないでしょうっ!」
音に合わせて落ちてくるスライムを高速で捌き続ける美空。
「アアアアア、もうムリイイイイ!」
ピタリ、とスライムが落ちてこなくなった。
「はあ、はあ、はあっ。ごめんミスったあーーーっ。最後たぶん踏めてない。ああーーっ、ちくしょー! 情けねえーっ!」
「なんか言った? ナイスゲーム。ほら、見なさいよ!」
「ん? んお? おおおーーーっ! パーフェクトじゃねえか!? さすが美空だな!」
「あっ、静かにさせたんだったわね。ごめん、もっかい言って?」
美空が指パッチンをして、魔法を解除する。
「さすが美空だなー!」
「あんたも踊れてんのよ。ナイスパーフェクト!」
「まじ? うわあ、嬉しい。また一緒に踊れた。はあー、よかったあ」
はじめて連れてきてもらったのもここだった。一緒に踊ったときのことをいまだに覚えている。
『ほーら、へたで当然。踊れおどれ! がんばって踊ったら、いいことあるんだから!』
何も知らない俺の手を引っ張ってくれたっけ。
「にひーっ。がんばったじゃないの」
ぽんっと頭に手を置かれて撫でられる。
はじめて踊ったときも、こうやって褒められたっけ。
お互いちっともかわってねえな。
「これでわたしのスライムリングが近づいた!」
「……ああ、変わってねえわ」
「なんですってー? ほら、仲間が待ってるわよ」
がんばって踊ったら、仲間が喜んで迎えてくれる。
たしかに。いいことあったな。




