20 「楽しまないと損でしょ? 生きてるんだから」
「もしかして、クラスメイトを異性としてみないようにしてるの?」
急に美空が質問してきた。
目の前では咲耶とアルヴィが、マティルダさんに教わりながらスライムと戦闘をしている。
ステージ3のスライムは、ほかのスライムとは異なる『ビッグ・スライム』という種類の個体が出てくる。
通常の10体分の経験値を持つボーナスモンスター。
大きくなっている分、戦い方は変わる。
いかにうまく衝撃を与えて核を動かし、核を叩くかという、わかりやすい連携プレーの練習になっていた。
せっかくの機会だ。マティルダさんに戦闘指南を受けながらふたりに戦ってもらい、美空とお留守番をしていた最中だった。
「……そりゃな」
「どうして? とっても魅力的な女性じゃない。信頼関係も、少しずつできそうに見えるわよ。プレイヤーとしてゲームの話をしすぎるのはよくないのは知ってても、ゲームのようなことにはたぶんならないって、わたしも安心できてるもの」
あなたはストーリーの主人公ではないかもしれない。でも、間違いなくストーリーの渦中にいるひとりの人間よ。
美空は淡々と、しかし核心を突くように続ける。
「真剣に生きているならば恋のひとつやふたつ、あって自然なの。あなたはそう思っていないようね」
「アカデミーに通ってて驚くのは、若さだよ。前世で長く生き過ぎた。若さに驚いちまう自分がいる。俺みたいなおっさんが、十代の女の子にときめくのは恥ずかしいだろ。つりあわない、不健全だ」
「ふーん。まだこっちに慣れてないのね。あなたも、いまを生きる十代の男の子なのよ?」
「ははっ。たしかにな。ただその自覚がないのかもしれないな」
「じゃあ、まじめに生きて?」
「え?」
美空は強い瞳で俺を見据える。
「ちゃんと今を生きて。なんだか過去に引きずられてるみたいよ。もっとも、記憶があるってことは良い反面もある。悪い反面だと、過去に引きずられて保守的になっちゃう部分がある。あなたの場合、それは対人関係に見えてる」
この世界にNPCもキャラクターもいない。あなたもわたしも、いまを生きている人間なの、と彼女は言った。
「ちゃんとわたしを見て、咲耶ちゃんやアルヴィちゃんを見てあげて。じゃないと、あなた自身を見逃しちゃうわよ。わかった?」
妙に説得力のある言葉に、納得した自分がいる。
いつまで経っても美空には敵わないらしい。
「返事はー?」
「前向きに考える」
「うん。よろしい。あなたもアカデミーに通う学生なんだから満喫しなきゃだめよ。楽しまないと損でしょ? 生きてるんだから」
「そうだな」
やけに実感のこもった声だった。
美空は鼻歌を歌いながら歩いている。
――たしかにな
こんな機会、訪れると思っていなかった。
「……今度」
「んーっ?」
「今度、ボスでも一緒にどうだ」
「えっ、行く! いつでも誘ってよ。タンク、よろしくね?」
「任せとけ」
「タンクいなかったから、狩りはできてもボスまで回れてなかったのよ。元プレイヤーのタンクなら腕も確かよね。あれ、山本五十六? ゲームではどこまでプレイしてたの? 五十階はいってた? それとも、もっと先?」
「たぶん、同じぐらいだと思うぞ」
「そっかそっか。今度ゆっくり話したいなー。ねえ、どこかで空いてない? 狩りでもしましょう」
「ゆっくり話したくて狩りするのは、美空ぐらいだよ。いつでもいける。大抵はダンジョンにいるからチャットくれれば、すぐいくわ。フレンドワープ使えるから」
「スフィア・ミューズ持ってるのズルくない? ちょうだい?」
「やだね。これがなけりゃアカデミー退学になっちまうよ。ダンジョンから出られなくなる」
「けちーっ。ずるいわよーっ。今度わたしの適正ダンジョンつきあって? ね? お願い、ポータルキーだけちょこっと借りればいいから。ね、ね?」
両手を合わせた上目遣いに負けてしまう。
「しょうがねえな」
「やったーっ! 面倒くさいレベル帯スキップできるー!」
喜んでいた美空の目が、さらに光る。
「閃いた! ミネルヴァに転校してこない? ねっ、わたしいるわよ? それともクラン一緒に作っちゃう?」
「まだアカデミーにも入学したばっかりだぞ。俺のメインジョブは近接火力職だ。魔法職は美空に任せる。ただ、クランならいいな。仁勇会とワルキューレを超えちまうか」
「へえ。トップチームで最強って言われる、レオパルドや神楽一心にも勝てる?」
「勝負だからな、やってみないとわからない。……ただ」
――お前のためなら神様だって殺してみせる
うかつに滑る口を押さえながら、ひとりで笑ってしまった。
ずいぶんと俺も浮かれているらしい。
「怒られる前に合流するぞ。もう終わっちまう」
「えーっ、いまなんて言おうとしたのよ。教えてよーっ」
はやる気持ちを静かにさせながら、俺は駆けだした。
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