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2 剣聖「お前みたいなのは早死にする」

「三人でいられるの!? うれしい!」


「偶然もあるんだな」


「もう少し喜ばぬか。はじめて会った三人が同じクラスだという偶然は運命とは思えないか?」


「口説かれてるのか、俺?」


「バッ……ばかもの!」


 咲耶は言葉と同時に手が出るらしく、いじると叩かれる。


「ふふっ、ふたりは仲がいいね。付き合って長いの?」


「付き合って……一時間もないぐらいかな。会ったばかりだ」


「そうなのかい!? 仲がいいよね、ずっと友人だと思ったよ」


「むう。大和は同級生のはずなんだがな。なんだか兄やおじい様に似ているのだ」


「……鋭い」


 咲耶の指摘を受け、背中に冷たい汗が流れる。

 中身はおっさん。見た目は青年。


 咲耶やアルヴィとは年が一回りどころか、倍近く離れているほどだ。


「自分にも姉のような人がいる。とても美しく強いひとなんだ。たしかに、大和にすこし似ている気がするよ」


「アルヴィ、俺のことはお兄ちゃんって呼んでもいいぞ」


「おにーちゃん?」


 つぶらな瞳が俺をみつめ、笑顔のままで首をかしげる。

 なんだか俺が悪いことをしている気になってしまう。


 咲耶を見ると、軽蔑したような視線をくれていた。


 入学式会場でFクラスの席の近くに着くと、スーツ姿の女性教師が立っていた。


「もう少しで遅刻するところでしたよ。時間は厳守するように。柳楽くん、神楽くん、ヒルデブラントくん。三名とも空いている椅子に座りなさい」


 そそくさと三人で並んで座る。

 教師の迫力に咲耶は目をぱちくりさせている。


「なっ、なんだ。そんなギリギリになってしまっていたのか?」


「じつは俺な、入学式のスケジュールも知らないんだ。ただ、あと一分で十二時半っていうのはわかる」


「遅刻の寸前ではないか!? あとスケジュールぐらいは知っておけ」


「時間にきびしい。さすが日本の学園だ!」


 座って足を組む。

 ようやくここが俺の居場所なんだと実感が湧いてくる。


 そのわりには、いま自分がなにに入学しようとしているのかよくわかっていない。


 参観者のほとんどはフォーマルな姿の大人たち。

 やけに体格の良いひとが多いなかで、おかしな人たちを見つけてしまった。


 なぜか軍服とブーツを身に着けて帯剣している女性がいた。

 よく見ると紋付と袴に刀を差している武士のような姿も見受けられる。


 銃刀法はどうなっているのだろう。若干ファンタジーな世界なのだろうか。


「開式の辞。これよりエンタープライズ・アカデミーの入学式を行います」


 ホール中に響き渡るマイクの音。粛々と入学式が始まっていく。

 現実感のない光景。いまだ当事者意識が持てないまま過ぎてゆく。


 起立させられた後に入学許可宣言が出される。

 晴れてエンタープライズ・アカデミーの学生となれたわけだ。

 入学試験も受けていない学校に入学するのは、なんだか変な感じがした。


 学園長のあいさつをなんとなく聞いていたときだ。


「ダンジョンが出現してから、はや三十年を迎える節目の年」

「冒険者が職業になってから十年」

「本校では、プロリーグや最前線で活躍している冒険者を数多く輩出しており……」


 言葉を聞いているだけで、嫌な予感があふれてくる。


 もしかして、ここはファンタジーの世界?

 そんなことありえるのか?


 ダンジョンや冒険者と聞いて、俺がまっさきに思い浮かべるのは『ディア・カルディア』というゲームだった。


 VRMMOのキラーコンテンツとして名をはせた一大タイトル。

 十歳のときにはじめてから、約二十年プレイし続けた。


『ディア・カルディア』は俺にとってゲームではない。

 俺の人生を捧げた第二の世界だ。


 剣と魔法のファンタジーな世界で、スキルや武器を駆使してボスやダンジョンに挑む。

 PVPをメインコンテンツにする層も多かった。


 本格的な攻城戦が実装されてからは、最大規模のPVPを高いレベルで可能にしており同時接続者数もどんどんと伸びていった。


 メインストーリーやキャラストーリーのあるNPCは最高レベルのAIを搭載しており、プレイヤー顔負けの感情表現や行動表現を行い、共に生きていると言われるレベルだ。


 ここが『ディア・カルディア』の世界か? と問うも、いまいちわからなかった。

 アカデミーなんて聞いたことさえない。


 ごちゃごちゃしだした頭の中を整理していると「来賓祝辞」という声が聞こえてくる。

 長ったらしい協会の肩書で紹介された名前を聞く。


 聞き覚えのある名前だ。

 顔をあげて、目を見開いた。


「……神楽 一刀。初代、剣聖」


「自分も知っている。日本……いいや、世界最強の冒険者だ」


 知っているNPCが壇上で話す。

『ディア・カルディア』で最強を誇ったNPC神楽 一刀が話している。


 俺は食い入るように見つめた。


 すとん。


 なにか、つき物が落ちたかのような感覚があった。


 どうやら祝辞は終えたらしい。

 拍手喝采のスコールに飲まれて、俺の不安や焦りが吹き飛んでいく。


 拍手が鳴りやむ静寂のなかで、ふつふつと情念が燃え始める。

 プレイヤーとしてではなく、柳楽大和として思う。


 もう一度、命を賭けて戦いたい。


 幾度も自分に対して問いかけていた存在理由の証明は、未解決問題として飲み込んだ。


『ディア・カルディア』の世界で俺は生きている。

 俺の知っている世界とは異なっていても、ダンジョンが存在し、そこで生きている人々がいる。


 その中に、俺が存在する。


 吊り上がる口角から息がもれる。

 満足げに笑っているようだった。


「……生徒会長に見惚れているのか?」


 上級生より歓迎の言葉をいただいている最中に笑ってしまっていたことで、勘違いをされてしまう。


 咲耶にあらぬ疑いをかけられながら入学式は進んでいく。

「新入生代表挨拶」として呼ばれたのはSクラスの学生だった。


 藤森 北斗と呼ばれた礼儀正しい好青年が、壇上にあがっていく。

 堂々と語る言葉は自信にあふれており、みんなを引っ張ろうという強い志が見てとれた。


 閉式の辞で閉められた入学式の後、学生証を交付されて本日は終わりらしい。


「大和は、学生寮に戻るのか?」


「……寮?」


「ばかもの。アカデミーは全寮制であろう。そんなことまで忘れたのか?」


 くるくると目を回しながら、なんとか取り繕う。


「あ、ああ。そうだったな」


「しっかりしてるのか抜けているのか。わからんやつだな、お前は」


「面目ない」


 咲耶にしっかりしろと言われていると、壇上から降りてきていた人物が声をかけてくる。


「咲耶や」


 おだやかで優しい声音だった。


「おじい様! お疲れさまでございます」


 神楽 一刀が目前にいる。

 ピークをはるかに過ぎた体には、すさまじい闘志を奥深くに蓄えている。


「歳は取りたくないと思っておるのが心の老い。よけいに年月がはやく感じてしまうものかもしれんの。咲耶がもうアカデミーに入学する年を迎えるとは。本当に、おめでとう」


「ありがとうございます。変わらず精進いたします」


 凛と背中を伸ばした咲耶が笑顔を綻ばせている。

 剣聖の名を冠する時代最強の剣士と目が合った。


 失礼を承知で、じっと見つめ返す。


「……このころ物覚えに不安がありましてな。失礼ですが、どこかでお会いしたことはございませぬか?」


 丁寧でやわらかな物腰に背筋を正した。


「どうでしょうか。もしかしたら画面を通してかもしれませんが、あなたのことはよく見聞きして育ってきました。柳楽 大和と申します」


 目前に感じる練り上げられた気迫は、六十五を超えた人間からはおおよそ見当がつかないほどのものだった。


 表面上を取り繕ってはいるが、殺気を飛ばされており手の汗が止まらない。

 穏やかな表情を浮かべた剣聖は、手を差し出してくる。


 ズボンで手をぬぐってから、その手を取った。


「……澄み渡り、冴えている」


「安心してください」


 剣聖の孫娘である咲耶には申し訳ない。


――――神楽一刀は、かつて俺に剣を教えた師匠である。

――――師を超えることのできなかった後悔を、いま過去のものとする。


「あなたを超えます」


 むき出しにした闘志を放ちながら、大志を掲げた。


 柔和な表情が一瞬だけ崩れた。

 心底愉快で嬉しくてたまらない、子供のような笑みを浮かべてくる。


「以前一度だけ、それだけが心残りだと伺いました。後顧の憂いを絶つのは私の役目です」


「くっく……咲耶や。大和さんに教わることは多いじゃろうて。彼を頼りなさい」


「はい、おじい様! 大和、お前はよけいなことを言うな! 百年早い」


「……百年たったらジジイが干からびるだろうが」


「おまえーーっ! ばかものっ!!」


 咲耶に叩かれながら、剣聖は愉快に笑う。


「カッカッカ! やってみろ、わっぱあ。尻の青いガキめ!」


「てめえ、ジジイ! 隠居させてやる! つか、今すぐ俺と試合を! ごふッ」


「……大変! ほんとうに! 失礼いたしました。おじい様」


 鳩尾に肘を入れられて呼吸が止まり、膝から崩れ落ちる。

 咲耶は鼻で「ふんっ」と息を吐きだし怒っていた。


「良い、許す。無謀な挑戦は若さの証。実力を備えてから、いつでも参れ。……わっぱ、せいぜい達者でな。もっとも、お前みたいなの早死にするから、これっぽっちも期待しておらんわ」


 わざわざ人様の頭上で煽ってくる性悪化け物爺さんを、力の限り睨み返すと「カッカッカ」と高らかに笑って去っていった。


「……地獄で戦って以来か。生き返りやがって。互いにしぶといな」


 ガキみたいなジジイは変わらず、穏やかな表情をしていた。


「おもしろくなってきたじゃねえの」



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