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19 スライムアスレチック

 一階にある隠しダンジョン『スライムの森』は、レベル一から入れるレベル上げスポットとして、あらゆるプレイヤーがお世話になっていた。


 ただレベルが上がるだけじゃなくて、アスレチックのような構成になっており、だれもが楽しめ経験値ももらえるダンジョンだ。


 五つあるステージの二つ目は巨大なスライムのアスレチック。

 スライムの足場を超え、スライム橋を渡り、スライム坂をかけあがる。


 ショートカットのためには、スライムにまぎれたスライムトランポリンを見つけて飛ぶことが大事だ。

 転んでも大丈夫。床もスライムだから。


「あはわっ、がんばれーっ」


 空飛ぶ杖に座り、優雅に上空から下界の人物を見下ろすのはウィザード。

 実に楽しそうだ。


 アルヴィとマティルダさんは、すいすいとアスレチックを進んでいく。

 もうスライムの橋をすたすたと渡っており、転がり落ちてくるスライムをよけようとしていた。


「ん、おっと……うわーーーーっ!?」


「アルベルタ様!?」


 橋から落ちるアルヴィをマティルダさんがキャッチし、床と壁を蹴り上げて橋まで跳躍していた。

 ふつう落ちたら最初まで戻るのに、身体能力が高いとショートカットができるらしい。


 ほかが順調にいってるなかで、俺はというと。


「や、大和! 手を離すな!」


 咲耶がスライムに大苦戦していた。揺れる足場になかなか慣れないみたいだ。


「あんよがじょうず、あんよがじょうず」


「ばかもの! ひとりで歩くことぐらいでき……ぬおっ!?」


「こっちに倒れてくると、うおお!?」


 スライムに足をとられた咲耶が倒れ、ふたりで転んでしまう。

 せめて俺が地面に身体を打ちつけようと咲耶を抱える。


 ぽよん。

 俺の後ろをたまたま転がり落ちてきたスライムがクッションになってくれる。


「は? うおおおお、跳ね返った!? すまん!」


「む? お、おおおーーッ!?」


 見事に弾かれた俺と咲耶は、そのまま逆方向に倒れこむ。

 咲耶の長い髪がほどけ、スライムの床に広がった。


「……しれものめ」


 押し倒される咲耶。体は密着しており、一瞬身動きが取れなくなる。

 フリーズする。


 異性として意識したことのなかった少女が、あまりに女性として魅力的だと気づいた。


 美しい横顔は紅潮し、切れ長の瞳は伏せられ、長いまつげが揺れる。

 引き締まった身体は帯でウェストが強調され、豊かな胸丘がやわらかく形を広げていた。


 一瞬だけ異性を強く意識してしまい、頭が固まった。

 そんな自分を恥ずかしく思う。眉間にしわを寄せ、頭に手を当てながらゆっくりと立ち上がった。


「……ひゅーひゅー」


 間近でウィザードがにやにやしている。急に羞恥心が湧いてでてきて。


「くうーーーっ」


 顔を真っ赤にして口を開きながら下を向いた。


「……大和、はやく手を貸さぬか。気にしなくていい。わかっておる」


「お、おう」


 上空のウィザードがニヤニヤを隠せなくなってしまっていた。


「だあああ!」


 なんだか照れ臭くなった俺は、咲耶を担ぐことにした。


「むっ? おおっ!? 大和!? ばっ、どこ触って!? ひゃんっ」


 お姫様抱っこをする。

 咲耶は案外おとなしく両腕を俺の首に回していた。


 スライムのぽよぽよした足場をジャンプで超えていく。

 最短のルートで橋までたどりつき、スライムでできた橋を渡る。


 安定性は皆無で、同じ場所にいると足元が抜けてはじめに戻ってしまう。

 前方からコロコロ転がってくるスライムに目がけて走り出した。


「大和、スライムが!」


「こうするんだよっと!」


 転がるスライムを踏みつけ跳躍する。

 あのスライムはトランポリンぐらいよく跳ねるんだ。


――バウンッ!


 橋をショートカットし、パチンコ台と呼ばれた坂にさしかかる。

 上からスライムが降ってきて、当たると弾かれてしまう。


 スライムでできた棒状の足場をたどって、上に進まなければいけない。

 流れ落ちてくるスライムたちのタイミングを掴む。実はここ、規則的にスライムが落ちてくるんだ。


――いまだ


 足元のスライムを踏んで跳躍する。

 跳ねたさきで板状の足場にひっかかっているスライムをまた踏みつけ、ジャンプの途中ですれ違うスライムを蹴り壁にぶつけることで二段ジャンプを行う。


「あらよっと!」


「ぬわあーーーーっ!? 飛んでる!? やるならやると言わぬか!?」


「あっはっは! ひさしぶりに見たーっ」


「ニンジャだ!? ヤマト、きみはニンジャなのかい!?」


「あの能力は賞賛しよう」


「よっしゃ! ゴール!」


 咲耶を下ろすと、スライム以外の地面にようやく安堵していた。

 俺はすぐさま引き返し、もう一度パチンコ台に降りた。


「いくぞ、アルヴィー! ジャンプ、ジャンプ。ここで待って避ける。もう一度、ジャンプ、ジャンプ!」


「こうかな!? ほっ、よっと!」


「体やわらかいな!? そこに足をかけれるの!? 脚が長すぎてジャンプの必要ないじゃん!」


「えいっ! へへーっ、届くよ!」


 不安定な足場に立つためには体幹の筋力がものを言う。

 アルヴィはずいぶんと得意そうだ。


 ゴールの足場に登りきる際、手を伸ばしてアルヴィを引っ張る。


『ヤマト! ありがとう!』


『どういたしまして』


『えへーっ』


 アルヴィが、ほっぺたが落ちそうな笑い方をしている。


『……聡明ならばでしゃばるな。身の丈をわきまえなさい』


 マティルダが俺にしか聞こえないよう、そっとつぶやく。

 あまりの恐ろしさに足元が揺れて見えた。



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