15 目標はレベル7――――不可能に挑め。ワルキューレと共に
「……やまとぉ」
「あーあ……わかったわかった。売り言葉に買い言葉になって『それでいい』って言っちゃったんだな。言ったもんはしょうがねえからなあ。後悔はあとからにしようぜ」
「……うん」
放課後、代表戦の内容を決めるときに白浜に煽られ熱くなった咲耶が失言をしてしまっていたらしい。
あとで藤森に「適切にコーディネートできなかった自分のせいだ。すまない」と謝らせてしまった。
落ち込んでしまっている咲耶を連れて、ひとまずはダンジョンに向かっていた。
アルヴィは先輩の冒険者を連れてきてくれるらしい。
ギルドのカウンター近くのイスに並んですわり、すっかりおとなしくなってしまった咲耶を慰める。
「勝てばいいさ。俺たちなら勝てる」
「……すまない。できるだけがんばる」
「ほら、無事に三人でパーティーも組めたわけだしな。明日のクラス代表戦で勝つためにレベルが……6になればいいだろ」
「レベル6!? 5じゃなくて!? そうか、勝たなければいけないから……6は必要なのか」
「ちなみに安全ラインは7な。自分たちだけじゃなくて、白浜も頑張るんだから」
「そうか。そうだな。……うっ、7レベルはむずかしくないか?」
「……もうひとりわかってるやつがいれば、あるいは」
時間とのきびしい勝負になる。徹夜していいなら、いくらでもやりようはある。
しかし、まだ学生だ。勝負ひとつに限界社会人と同じタスクを課すわけにはいかない。
「……普通にやっていれば半年かかると言われてるレベルまで、一日で?」
なかなか切り替えられないよな。
「咲耶はさ、どうしてクラス代表になりたいんだ?」
「うむ。お兄様がいてな。お兄様はSクラスでずっと学年代表を務めていらっしゃったのだ。そこに憧れて、せめてクラス代表だけでも立候補したかった。……なのにだな」
「なれるよ」
うつむく咲耶の顔があがる。
「クラス代表で満足するな。Sクラスにだってなれる。学年代表にだってなれる。俺たちはパーティーだ。仲間の夢を叶えるために俺が支えるよ。いつか、咲耶が兄も祖父も超えてやれ」
「ふふっ。お兄様に追いつくならまだしも、私がおじい様を……? 夢を見過ぎだ。大和はまだ知らんのだ。おじい様は本当に怖いし強いんだ。挑むことさえ、まだ遠すぎる。んっ、そうだな。……挑みたい、いつか。本当にいつかでいいんだ」
咲耶は自分の頬を叩くと唇の端をあげて見せる。
「っふ。いつか、などと言ってはいられぬ。私にとっては小さな一歩も果ての剣聖につながっていると信じる。まずは今、目の前のことに挑もう」
「ここも剣聖の通った道だ」
「うむ. そのとおりだ」
「レベル上げられなかったらどうしようとか、クラス代表になれなかったらやだなって考えちまうけどさ、もったいない。せっかくダンジョンに行けるんだぜ。わくわくしないと、もったいない。ダンジョンの良さを楽しむためにもっと楽しんでこうぜ」
「おまえは……本当に好きなのだな」
「好きだよ。愛してる。俺も愛してるし、愛されてる」
通りすがる冒険者たちが口にする。
「若いっていいな」
「青春だ」
なんのことだ?
「バッ……ばかもの」
「ほわあーっ……ヤマト、情熱的だね」
「おかえりアルヴィ」
頬を染めて目を輝かせながら帰ってくるのは、なんでだろう。
となりには軍服を着た大人の女性がいた。
赤い髪をひとつにまとめている、背の高いきっちりとした方だ。
「こちら『ワルキューレ』で前衛を務めるマティルダさん。自分はティルダと呼ばせていただいている」
ブーツをそろえ、丁寧に礼をされる。
「はじめまして。『ワルキューレ』のトップチームで前衛を務めております。レベルは40。ジョブは最上位職の『ソルジャー』です。アルベルタ様が学園ではお世話になっております。どうぞ今後とも、よろしくお願い申し上げます」
流暢な日本語でものすごく丁寧な言葉を使ってくれていた。
ソルジャーのクラスは自己完結型で立ち回りや技術のあるプレイヤーに好まれる物理アタッカー寄りのクラスだ。
攻撃スキルよりも身体能力やテクニックを駆使して戦うプレイヤーが多い。
単独行動も得意で自己回復スキルもある。俺も好きな職業だった。
人のよさそうな笑みで百八十センチちかい身長の女性がにこにこと歩いて顔を近づいてくる。
耳元でそっとささやかれた。
『キサマか? ドイツ語がわかるオスは』
小声で聞かれたときには、あまりの言葉の悪さに耳を疑った。
違う。気のせいだ。俺のドイツ語がおかしくなったんだ。
『はやく答えなさい、クズが』
本当だ、これ!?
『Jawohl(承知いたしました)』
あまりのすごみに俺の中のなにかが負けた。
『謹んでご報告申し上げます。私が少々ドイツ語を話せる者です』
『黙りなさい。アルベルタ様の学友とはいえ、あまりアルベルタ様にお近づきにならないようお願いします。それと、日本人男性らしさを損なわないように。誠実で真摯でありなさい。できないのなら生まれ変われ。わかったな?』
『承知いたしました!』
すみません。もう生まれ変わったところなんです。
『休め。待機なさい。私との会話はすべて守秘する義務があります。上官のいうことを聞けますね?』
『承知いたしました』
『少々認識を改める。使えるオスよ』
『光栄です!』
『黙りなさい』
こわい、こわいよ。なんなんだこの人!?
にっこりとスマイルを浮かべると、目線は鋭く俺を刺す。
「余計なことをしゃべると、わかるな?」と無言の圧力。
虚無の目をしながら直立不動で待機した。
「なかなか……素晴らしい男性のようです。教養高く、律儀でとても誠実だ。アルベルタ様のおっしゃる通りでした。学友のなかに彼のような男性がいると安心できますね」
「そうだろう!? ヤマトと出会えたことは、とても運命的だよ。ティルダも気に入ってくれてなによりだ」
「ええ。ぜひとも飼わせてほしいものです」
「うん? 飼うはペットとかに使う言葉だよ。友達は付き合うだ!」
「そうでした。つい、うっかり」
あの目は俺を人として見ていない。
首輪をつけて、ハンドラーになりたそうな軍人の目だ。調教されてしまう未来が見える。
「噂に名高いワルキューレの『レオパルド』と共に行動できるとは。本日は学ばせてください」
「あなたの兄とはトップチームで対戦することがよくあります、咲耶。侍のジョブはいつ見ても美しく洗練されている。あなたの所作に、彼の面影があると感じ取れます」
マティルダさんも、咲耶のお兄さんもトップチームの選手らしい。
一流の冒険者はお互いに交流もあるんだろうな。
マティルダさんはにこやかに挨拶したあと、俺の肩に腕をかけてきて話す。
『連絡先を出しなさい』
『こちらです』
『定時連絡を義務付ける。朝、昼休み、終業時。アルベルタ様のご様子を伝えろ。ささいなことでも、すべて送れ。すべてこちらで対処する。協力するならば多少良い思いをさせてやる。そしてキサマに拒否権はない』
『かしこまりました、ボス』
『そうだ。いい子にしてなさい』
首の下をなでられると上機嫌なマチルダが「連絡先を交換してもらえました」と喜ぶ所作をみせていた。
いやだ。学園に行きたくないのに、行かなきゃレベル40のソルジャーに追われるかもしれない。
逃げて捕まったら首輪をしてダンジョンの攻略部隊としてこき使われる。ワルキューレの犬に就職してしまう。
いやだーーーっ!
俺の思いとは裏腹に女性たちが打ち解けるのははやい。
咲耶もすっかり笑みを浮かべて談笑していた。
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