13 アルヴィ「ヤマトは自分の友人だ。二度と笑わないでほしい」
午後の授業はホームルームらしい。
「Fクラス担任の巽です。一線を退くまでは『フロントライン』の選手でした。最上級職についています」
クラス担任の巽という教師は、淡々と自らの実績を語る。
フロントラインはダンジョンの最前線を模した個人競技のためのゲームモードだ。
ダンジョンの一階から五十階までのモンスターが順番にポップし、倒していく。その速さを競うタイムアタックルール。
五十ウェーブ目には五十階までにポップするボスモンスターからランダムに出現する運要素もあり、耐久系の外れボスを引いたプレイヤーは大幅なロスを食らう。
競技的な面白さをあげるために、ウェーブごとに武器と職業がランダムに抽選されるハードモードのルールも人気だった。
運の要素が強くなると思われるかもしれないが、実際は得意と苦手の幅を小さくするための努力が必要になる。
フロントラインは好きで、ゲームにログインするたびウォームアップとしてプレイしていた。
職業も武器もランダムにし、三十分ほどかけて五十ウェーブをクリアする。
木の枝を装備した魔法使いで挑むアイアンゴーレム戦なんて激熱シチュエーションだ。
やりたくなってきた。神様におねだりしよう。
「本日の進行予定は開示したとおり。自己紹介、クラス代表の選定、三人一組のパーティー結成まで進めてください。以上」
巽先生はノートパソコンを手に持つと教室の後ろにあるロッカーの上にパソコンを置き、仕事をはじめる。
「どうぞ」
進めてください。水を向けられてクラスは困惑する。
「はいはーい! 俺、加賀! 加賀 勇! ファイター志望で、レベルは1! いまからダンジョンに行けるのを楽しみにしてまーす。石川県から来ました! 家が寺だけど聖職者の才能はないって爺ちゃんに言われてるんでファイターです! よろしく! 次、綾香!」
はじめに手をあげる勇者は加賀というらしい。
――レベル1。くすくすっ
自己紹介が終わると、冷たい笑いが起こる。
「えーっ……芦原 綾香です。福井県から来ました。勇ちゃんとは幼馴染で」
「勇ちゃんやめろ!?」
「わ、わあーっ……ごめん、勇ちゃんごめんねえ」
「もういいよ!?」
「え、えーっと。レベルは1で……ごめんなさい。ヒールを使えるようにプリーストになれたらいいなって思います。これから、よろしくお願いします。じ、実家は温泉旅館やってます。き、きてねえーっ。つ、つぎは……」
困ってる芦原さんに、自分で手を上げてみせる。
「お、おねがいします」
立ち上がって教室を見回して言う。
『みなさん、こんにちは。ところで、ドイツ語できる人いますか?』
『ここにいるぞーっ』
『ありがとう。では、次に英語のできる人いますかー?』
『むう。すこしだけなら』
しぶしぶ咲耶が答えてくれる。
「じゃあ日本語で話しますね。俺の語学レベルはたぶん3ぐらいあるんですけど、日本語しか話せないひとのことは笑いません。なぜなら、英語やドイツ語を話さないという選択肢があっていいと考えてるからです」
俺もダンジョンにいままで入らなかった人です、と続ける。
「海外にいると、ダンジョンに入る機会がありませんでした。ダンジョンは日本のここにしか存在しない特別な場所だからです。ダンジョンに入って、モンスターに挑む人のことは尊敬しています。そんな方々と同じアカデミーで学べることを光栄に思い楽しみです。レベルは、もちろん1。なりたいジョブはぜんぶ。レベルの低いひとを笑う風潮のあるクラスを不愉快に感じている、柳楽 大和でした」
咲耶が頭を抱えて、加賀と芦原は笑ってくれる。
「よく口の回るだけのザコじゃねえか」
「次、自己紹介。あなたの番でお願いします」
「ッチ」
ようやく見つけた。
Fクラスでレベルが高いのはこの人か。
プレイヤーならではのスキルかもしれない。ほかの人間のステータスと装備を閲覧することができる。
レベルは5。
ノービスから、ファイターのジョブに転職している男性だった。重量武器を好むステータスをしている。
「白浜 和南。レベルは……5だ」
レベル5というのは、相当高いらしい。クラスから、動揺の声が漏れている。
「入学時は2とかだったが入学が決まってから相応の努力をしたからだ。レベルが低いってのはアカデミーではただの言い訳でしかない。クラス分けがレベルでされているのを見て、わかるだろう。どう考えても冒険者の成績はレベルで判断されんだよ。おい、柳楽。お前は週末になにをしてた?」
「映画を見ながらポップコーン食ってたよ」
咲耶が非難がましく見つめてくる。
「そんなわけなかろう」とたしなめられる。
週末ずっとダンジョンにいたけどレベリングをまったくしてません、なんて正直にいう方がおかしいやつに見えるだろ!
「だからレベル1なんだよ。俺はダンジョンに潜って狩りをしていた。ゴブリンとコボルトと、オークをな。積み上げたものが違うんだよ。笑われたくなかったら努力してから言え。結果が物語っている。それがすべてだ」
「一理ある。そのとおりだ」
――――くす、くすくす
笑いが起こる。
「っは。最弱Fクラス底辺の自覚あんのかよ」
「ないよ。俺は強いから。だったら、俺と勝負するか?」
「……ッチ」
白浜はすこし考えた後「レベル1を倒しても意味ねえだろうが」と捨てるように言った。
冷静だ。彼なりの考えがあるのはわかった。
おもしろい。
とんでもない雰囲気になってしまった自己紹介。
『じゃあ、次アルヴィで』
明るい力で雰囲気を変えられる友人がいる。
「やったっ! こんにちはーっ!」
飛びあがる勢いで立ちあがり、深々をおじぎをする。
「アルベルタ・フォン・ヒルデブラント。ドイツから来ました。日本にはずっと前から来たいと思っていて念願叶い喜ばしいです。憧れの日本で暮らしはじめて、文化や人に触れてどんどん好きになっています。自分はレベル1です。ジョブも最初のノービスです」
アルヴィは、全身で強い気持ちを表しながら口を開いた。
「自分はトップクラン『ワルキューレ』のメンバーです」
クラスメイトが思わず口をはさむ。
「マジっ!? ドイツクラン?」
「ドイツの最強クランじゃねえか」
「トッププロのレオパルドと同じ? ワルキューレェ!?」
黄金に輝く少女は力強い響きで語る。
「トライアルに受かって加入しました。ワルキューレの平均レベルは三十を超え、トップは四十に迫ります。自分にはとある才能があって、プロ選手にもないものでした。自分はそこで、戦うことの楽しさを知り、同時に戦ってみないとわからない面白さを感じました」
レベルはあくまで指標、と彼女は断じる。
「レベルで強さが決まるなら『バンガード』『ザ・プライド』などのクラン戦は必要ない。まして『ジークフリート』の称号を得るためのジークフリート・クラシックが冒険者にとっても、見る人にとっても人気を集めていることが説明できない」
アルヴィは高らかに宣言する。
「いつか自分は『ジークフリート』の称号を獲得します。レベルだけでなく高いレベルでの戦闘技術がいくつも必要になる。みなさんに学ばせてください。よろしくお願いします」
指を一本立ててアルヴィはつけ加える。
「ヤマトは自分の友人だ。二度と笑わないでほしい」
あまりにも凛として毅然な態度にクラスは静まり返り、俺のひときわ大きな拍手だけが響いていた。ブラボー!
すべてを引き受けたうえで俺たちの後に立ち上がったのは咲耶だった。
「先の二名の発言で、気を悪くしたものがいるかもしれないことを懸念している。私たちはクラスメイトだ。敵じゃない。いまはまだ未熟な私たちだが、卒業するまでに立派な冒険者になればいい。そのためにFクラスがどうありたいかを問いたい。レベルでの競争を歓迎し、積極的にレベリングに励むのか。クラスメイトみんなで協力し、情報や技術を分け与え合うことで自らを高め合うのか。私はクラス代表に立候補するつもりだ。ぜひとも意見を聞かせてほしい」
咲耶は背筋を伸ばすと教室を見回しているようだった。涼し気な目元が目立つ美しい横顔を眺める。
「クラン『仁勇会』のメンバー。神楽一刀流の神楽 咲耶だ。よろしく頼む」
「神楽一刀流って、あの剣聖の!?」
「仁勇会もトップクランじゃないか!?」
「どうなってる、このクラス。なんでこいつらがSクラスじゃないんだよ!?」
「最前線パーティーの神楽 一心の妹ってこと!?」
「……なんでここにいんだよ」
俺もクランをつくって名乗っておけばよかった。
『クラン「叢雲神社」の大和です。よろしくお願いします』
と言いたかった。ちくしょう。
クランって人気あるんだな。
『ディア・カルディア』の大会でもトップクランやプロクランはあった。
攻略クランは安定しているも、プロクランについては選手がころころ交代したり、スポンサーの関係で解散したりと、トップ選手がトップに居続けるためには運も必要だった。
一年契約のプロ契約を突然打ち切られて、次の年にチームに入れず大会にも出れずプロカードを失ってしまう、なんてこともよくあった。
トップクランのプロ選手という世界は相当過酷なイメージだったが、この世界ではどうやらプロスポーツのようなエンタメ性が高く産業として成り立っているのだろうか。
カルディアがゲーム時代ではプロ契約しても給料がもらえないところのほう多かったし、ゲームの配信を週に何度か義務付けられたり制約のほうが多かったイメージだ。
給料がでるならプロ選手でもいいんだけどな。
自己紹介も終わったところで、ダンジョンに行こうと席を立とうとすると咲耶に「まだ座ってろ」と怒られる。
まだ、なにかありましたか?
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