12 ダンジョン・ホームシック
学園生活がはじまる。
なにがはじまるかと思えば授業のガイダンスだった。
学校の予定や、テストや実技試験のアナウンス。
上級生から部活の勧誘。
はじめてのダンジョンの歩き方のレクチャー。
自由冒険者協会、通称ギルドの職員からダンジョンの入り方や退出の仕方、素材の買い取りカウンターの使い方やギルドマーケットアプリの導入や、オークションでの落札方法、商品の受け取り方まで冒険者にとって必要そうな内容がたくさん教えられた。
ダンジョンに併設したギルドには診療所も存在し、上級職のヒーラーが常駐してくださっているらしい。
四肢欠損ならばつなぐことができるため冒険中に四肢を失っても、頑張って持って帰って来いとアナウンスがあった。
新入生はドン引きしていた。
アルヴィはしっかりメモを取りながらガイダンスを聞いており、問題なく理解ができているようだった。
本人は不安がっていたけれど、語学力は相当なものだ。
言語を理解できてかつ話が聞けるのはすごい才能だ。
言葉はわかっても耳から零れ落ちていく、ありがたい話も多かった。
最後に、現在の一年生のクラス分けについて。
大体のレベルでSクラスからFクラスまで分けられているらしい。
Sクラスは平均15レベル。
Aクラスは12レベル。
Bクラスは10レベル。
Cクラスは8レベル。
Dクラスは6レベル。
EクラスとFクラスは2レベルとされていた。
二年生になると平均で15レベル。
二年のSクラスで20レベルほどらしい。
元プレイヤー目線だと、やはりレベル上げに難渋していると感じる。
ダンジョンに入るのも週に2、3回で学園が終わってからとするとダンジョン内の滞在時間は四時間程度になる。
狩場に行く時間も必要で、二時間ほどレベル上げができればいいほうかもしれない。
ベースレベルをあげるための狩りと職業レベルを上げるための訓練の日を交互に取り入れているカリキュラムらしい。
ベースレベルはプレイヤーのステータスに影響し、職業レベルはスキルの取得に影響する。
ただモンスターを狩るだけでなく、しっかりスキルを使用して戦わなければならない。
空打ちできるスキルを使用するだけでも職業レベルをあげることができる。
ファイターならスラッシュを打ち続ければ職業レベルがあがってスキルやステータス上昇を手に入れることができる。
ただ、そんなのは遅い。
ダンジョンだ。ダンジョンに解決させろ。
空打ちの修行時間なんて必要ないほどのモンスターに囲まれて、スキルのクールタイムが終わり次第モンスターにぶちこめばレベルも上がるというのに。
格上のモンスターにスキルを放てば、より多くの職業経験値が手に入る。
リスクも上がるが自分よりすこしレベルの上の敵を倒すことで、ベースと職業の両方に効率的な経験値が入る。
雨竜さんにスラッシュの一発でも当てたものなら、もう二度と素振りなんてできないほどの経験値が手に入るぞ。
問題は冗談でなく頭上から致死量の雷がノーモーションで降ってくるので、絶対にやってはいけないことだけだ。
俺が今朝ダンジョンを出てからすでに四時間が過ぎようとしている。
ダンジョン成分が切れた。イライラしてきた。
さっさと戻って鉄鉱石を採取させろ。ツルハシでも剣でもいいから振らせろ。ノービスの経験値を貯めたいんだよ。
「や、大和? すごい形相をしているぞ。そんなにお腹が減ったのか?」
ようやく午前中の授業が終わり、時刻は十二時半。
咲耶がひきつった笑いをしている。
「……帰りたい」
「お、おお……ホームシックか?」
「ダンジョンに」
「ばかもの! ただの異常者ではないか」
ひどい言われようだ。
午後からの授業は2つだけ。今日はホームルームらしい。
学園の学食には興味があるし、行ってみるか。
「咲耶。飯は食堂で食べるのか?」
「うむ。アルヴィとも相談して、食堂を利用してみることにしたのだ。ともに行くか?」
「かたじけない」
「大和は友達少なそうだものな」
神楽 咲耶とかいう武士娘は、ややノンデリであった。
「ヤーマトっ! ごはんだっ! カフェテリアがあるんだろう?」
「どっちかというとメンザかな。温かい料理が食べれるぞ」
「Geil!」
『嬉しいよな!』
喜びをわかち合うための握手を交わした。
いざ三人で学食にくると予想よりも広くてきれいな食堂があった。
学生向けの昼食がメインで、料金は一律にワンコイン以下。
食堂の入り口にあるリーダーに学生証をかざしポイントを支払う。
葵ちゃんが言っていたルート・ポイントという通貨のことだ。
ポイントを支払うと食堂の入り口が通れるようになるので、歩いて通る。
駅の改札のようなシステムだ。
日替わりの定食にうどんや丼物。カレーにラーメンまである。
定食のメニューも数種類あるようだった。
定食の場合、メインのプレートを選んで取る。
あとは主食や汁物、サラダやフルーツがセルフサービスになっていた。
混みあう学生食堂ならではの活気と昼時を楽しみにしている生徒のリラックスした団欒の様子が目に見える。
選択肢が多いことはうれしく、定食の列に並ぶ。
『焼きソーセージはないかな!?』
『フードトラックみたいに、ソーセージとパンが出てきてもいいよな。問答無用でマスタードがかけられるやつ』
『そうそう! よく食べてたんだよー』
『焼きソーセージでご飯を食べるって組み合わせが、なかなか無いかも。定食にパンもあればいいのにな。ヌードルかライスしかないかもしれない。サンドイッチなら売店に売ってるか?』
咲耶に向かって聞いてみる。
「パンとごはん、どっち派?」
「むろん、ごはんだ。お米を食べないと力がでない派だ」
「腹持ちいいしな」
「自分はおにぎり、大好きだぞ! 力が出る気がする」
「わかる。握ってもらうおにぎりは最高だ」
雨竜さんのおにぎりとみそ汁で生きていた俺だった。
今日の定食のメニューは焼き魚、トンカツかロールキャベツだった。
『コールルーラーデかシュヴァイネ・シュニッツェル、鰆はえっと……英語でシュパニッシュマカレルっていうサバに似た白身だな。鰆は四季のある日本で旬なメニュー。トンカツは、勝つって言葉の響きが縁起のよい言葉なんだ。学生の初日に食堂からエールを送るメニューかな。粋だね』
「ふぉお」
キラキラした目をしたアルヴィ。これは選べないやつだと、すぐにわかった。
『シュニッツェルを選ぶといい。鰆のグリルは味噌ソースで食べるんだ。俺のをあげるから、口に合うか試してみるといいよ。はんぶんこしよう』
『おおっ、はんぶんこ! するー! なんて親切な男性なんだ、きみは! 同い年とは思えないよ』
同い年と言っていいのだろうか。
実際は父と子に近い差が……あーあー、やめよう。
パパとママの話はやめよう。
神に対しても、俺に対しても効く。
定食を乗せたトレイを持ち、空いている席に座る。
混みあっているとはいえ、どこかには座れそうだ。
ご飯とみそ汁は自分で盛り、サラダが一皿に乗る程度で取り放題の形式だったので、ブロッコリーと海藻と豆とトマトを取ってきた。
ご飯を盛りつけるところに計量器があった。
学生ながら、冒険者というアスリートが育つ学校なんだという意識がそこらに見える。
アルヴィが食堂のなかでなにかを探しているようだった。
『炭酸水が欲しいか? 奥に自販機があって、炭酸水があったよ』
『なんでわかるの!? 今日はいいんだ! あれば嬉しいなって思って探しただけで。ほんとうに、周りがよく見えているんだな』
だてに年齢だけ重ねてきていない。
三人で手を合わせて「いただきます」をしてオカズを交換しあった。
「なあなあサクヤ、ヤマトってなんだかお父さんみたいじゃないか?」
「ぶはっ……っく、し、失礼だぞ」
咲耶よ、笑いながら言うのが一番失礼だぞ。
「頼れる男性? なんていうんだっけ、たしか……おにーちゃんだ。ヤマトはおにーちゃんだな」
「なにを笑っている咲耶―? 咲耶も大和お兄ちゃんって言っていいんだぞー?」
「っくっく……私には実の兄がいるのでな。遠慮しておこう。大和よりも、できた兄だぞ」
「大抵の男は俺よりできたやつだ。咲耶の兄も大したことないね、フフンっ」
「……おまえはそれでいいのか?」
人と話しながらランチをするのは久しぶりで、なんだか美味しく感じる気がした。




