表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

第6話 さらば、屋上の安全地帯《セーフティーゾーン》

挿絵(By みてみん)

 

「……青柳くん。……日差(ひざ)しが、痛いです」


 翌日の昼休み。俺と赤羽あかばねは、校舎の屋上にいた。教室の喧騒けんそうから逃れるためにここへ来たのだが、彼女にとって、直射日光が降り注ぐ屋上は別の意味で地獄らしい。


 赤羽は屋上の出入り口の建屋(たてや)が作る、わずかな日陰ひかげにへばりついていた。俺は購買で勝ち取った、学校名物『落花生(らっかせい)バターパン』の袋を開ける。


「文句言うなよ。教室より静かでいいだろ」


「ですが……またあの台風(桃井さん)が接近してくる予兆(よちょう)を感じます……」


 バーン!!


 赤羽の予言通り、鉄製の重いドアが勢いよく開け放たれた。


「よっ!しずくっち、青柳!やっぱここにいたー!」


 金髪ギャルの桃井マリンが、嵐のような元気さで屋上に飛び出してきた。赤羽が「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げ、日陰の隅っこでダンゴムシのように丸まる。


 だが、俺は違和感を覚えていた。ズカズカと歩いてくるマリンの背後に、「影」がある。


「……ん」


 ひょこっと顔を出した小さな影。黒髪のマッシュボブに、眠そうなジト目。この炎天下にダボダボのパーカーを(かぶ)り、手が完全に隠れている。身長は赤羽よりもさらに低い。その影が、首から下げた一眼レフカメラを構えた。


 カシャッ。 青空の下、乾いたシャッター音が響いた。


「うおっ!?」


「え、あかり!? いつの間にいたの!?」


 俺とマリンが同時に驚くが、影の主――黒川くろかわあかりは、悪びれもせずボソッとつぶやいた。


「……最初から。マリンの影、尾行しやすい」


「アタシを日傘(ひがさ)代わりにすんな!」


 あかりはマリンの抗議を無視し、レンズを日陰で震える赤羽に向けた。


「……ターゲット、発見」


「あ、あなたは……!?」


 涙目の赤羽に、あかりはパーカーのそでから指先だけを出して、胸元の『新聞部記者証』を指差した。


「……新聞部、黒川あかり。スクープの匂いがした」


「す、スクープ……?」


「……転校生。挙動不審。巨大ダンゴムシ所持。……『校内七不思議』に認定する」


 あかりは聞く耳を持たず、赤羽のひそむ日陰にジリジリと詰め寄る。無表情な顔と、無機質なカメラレンズ。追い詰められた赤羽が、俺の制服の袖をギュッとつかんだ。


「あ、青柳くん……! 逃げてください……!」


「落ち着け赤羽」


「無理です……!桃井さんが『台風』なら、彼女はそのうずの中に隠れて接近する、自律型無人潜水機(AUV)です……!」


 赤羽にとって、強風と共にやってくるマリンよりも、気配なく忍び寄るあかりの方が「得体の知れない恐怖」があるらしい。あかりは興味深そうにメモ帳を取り出した。


「……AUV。面白い例え」


 カシャッ、カシャッ! 容赦ようしゃなくシャッターが切られる。見かねた俺が割って入り、手でレンズをふさいだ。


「取材なら許可を取れ。赤羽が嫌がってるだろ」


「……邪魔。背景(モブ)が見切れるな」


「誰が背景(モブ)だ」


 俺が強めに(にら)むと、あかりは「……ちっ」と小さく舌打ちした。見た目は小動物系マスコットなのに、中身はかなりふてぶてしい。あかりはカメラを下ろし、気だるげに空を見上げた。


「……ここ、暑い。撤収」


 言うが早いか、あかりはトテトテと鉄のドアへ向かう。その背中はダボダボのパーカーに埋もれていて、確かに深海の底をう謎の生物のようにも見えた。


 去り際に一度だけ振り返り、あかりはボソッと言い残した。


「……逃げても無駄。私のレンズからは逃れられない」


 バタンッ、とドアが閉まる。後に残されたのは、日陰で干からびそうな赤羽と、困惑するマリン、そして頭を抱える俺だった。


「……ごめんねーしずくっち。あいつ、神出鬼没しんしゅつきぼつっていうか」


「青柳くん……屋上もまた、安全地帯(セーフティーゾーン)ではありませんでした……」


 赤羽が涙目でダイオウグソクムシを抱きしめる。


「……強烈な日差ひざしと、台風……そして音もなく忍び寄る探査機……。私の生態が、白日(はくじつ)(もと)(さら)されてしまいます……」


 こうして、赤羽の「平穏な高校生活」を(おビや)かす天敵リストに、新たな名前が刻まれた。  『静かなる追跡者・黒川あかり』。彼女がこれから、事あるごとに赤羽のスクープ(奇行)を狙って出没するようになるのは、確定した未来だった。

ご覧いただきありがとうございます。


第5話のギャルに続き、第6話では新聞部も乱入。 主人公・青柳が求めていた「平穏」と「安全地帯」は、ついに屋上からも失われてしまいました……


これから青柳は平穏な日々を手に入れることはできるのか?!それとも周りのメンバーのごたごたにさらに巻き込まれてしまうのか、、、


面白くなりそうだな、と期待していただけましたら、 ぜひブックマークと**評価(★マーク)**をお願いいたします! 感想もお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ