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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第一章

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9話

 マギ管の医療スタッフと香坂さんに案内され、俺は血液検査、身長、体重、血圧といった一般的な検査項目を受けていく。

 途中、”魔力波長検査“という聞き覚えのない検査を受けることになった。


 腕輪型の計測器をはめ、モニターを睨みながらスタッフが端末に何やら情報を打ち込んでいく。


 採血の痛みはあったが、特に不快感もなく淡々と検査は進んでいった。


 すべての検査が終わると、香坂さんに促されて再び応接室へ向かう。


 ――またあの重たい空気を吸わないといけないのか。

 足が重くなるが、それは杞憂だった。

 ドアを開けると、九重さんの表情は相変わらずだが、両親の顔はかなり柔らかくなっていた。


「あら、優おかえりなさい」

「検査は終わったのか?」


 母の声には、はっきりと安堵が滲んでいる。


 その後、九重さんは検査結果に”異常がない“ことを、数値を交えて淡々と説明する。

 それに対して両親はほっと息をつき、肩の力を抜いた。


「魔力値は、男性の時に計測した数値と変化はありません」


 説明を終えると、九重さんは魔力適性検査結果の用紙の上に、もう一枚紙を置いた。


「本題ですが……魔力適応特別身分制度をご存じでしょうか?」


 何やら知らないワードが出てきたので、父の顔を伺う。

 父も首を傾げ、母を見ている。


「それは、どういった制度なんですか?」


 母が尋ねてくれた。

 九重さん、話しかけ難いんだよな……


「では、二年前に導入された民間魔法少女制度をご存じでしょうか」

「……自衛隊で魔法少女の募集をかけたけど定員割れを起こして、EUのギルド制度を手本に導入した制度、でしたか?」


 父も母も首を傾げていたので、勇気を出して口を開く。

 ――五点だ、とか言われたらどうしようと、恐る恐る九重さんを見る。

 その瞬間、九重さんの背後で香坂さんが「かわっ……」と何かを呟き、顔を真っ赤にしてむせた。


「ゴホン、ええ、その通りです。民間魔法少女制度の制定に合わせて、導入された制度でして……」


 五点ではなかったようだ。

 心の中で講師の晴香と翔太に感謝する。


 魔法に適応する過程で体に変化が起こる事象が報告された。

 その現象の研究の過程で、性別や容姿が大きく変わってしまう可能性も否定できなかった。

 そこで魔力の影響で重大な変化が発生した場合に備え、新たな身分を用意する制度。


 ――魔力適応特別身分制度、略して特身制度というのがあるそうだ。


「……つまり、”魔力で姿が変わった者のために新たな身分を与える制度”です」


 また登録に関しても、「戦闘能力が皆無な能力に覚醒する人もいるし、”憲法上も戦う事は強制していない“、データベースに能力を登録するだけです」――とのことだった。



「それと健康状態の継続的なモニタリングが必要です。加えて、魔力暴走時に何が発生するかは未知であり、事前のデータ蓄積が不可欠です」


 九重さんはメガネを指で押し上げた。


「……ですので登録をお願いしたい」


 戸籍やマイナンバーの問題を一気に解決できる制度が、すでにあったなんて……

 どうするの?と両親を見ようとした時――


「わかりました、九重さんになら安心して息子を任せられます」

「そうね、よろしくお願いします」


 即決だった。

 俺が血液を抜かれている間に、何があったんだろう。


 ――まさか洗脳?そんな不安が頭をよぎる。


「では、息子さんの能力の確認の間に、書類を用意させます」


 能力の確認という実験が始まるのでは?

 俺の不安をよそに九重さんが立ち上がり、香坂さんに目配せをする。

 両親も特に引き止める様子はない。


 俺はまだ状況が飲み込めないまま、次の部屋へと案内されることになった。

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