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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第三章

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75話

「空を飛びながら魔物を斬り落とした……よな?」

「……すっげ〜」

「話しかけてもいいのかな……?」


 スーツ姿の男性の言葉を皮切りにそんな声が周囲から聞こえてくる。

 そして、徐々に人垣ができ始めている。


 こ、これ、どう対応したら良いんだ……!

 “話しかけないで下さい”。

 そんなことを言った日には『超塩対応の魔法少女現る』とかSNSに即座に書き込まれるのは間違いない。


 高校生になったばかりなのにいきなりデジタルタトゥーをネットに刻むのは避けたい。

 とはいえ、この状況を捌くコミュ力なんて、当然ないわけで……


 キミの心に抜刀ッ!アイリス参上ッ!


 とか、黒歴史確定な頭の悪い決め台詞しか思い浮かばない……

 デジタルタトゥーか。

 自分の黒歴史ノートに新たな1ページを刻み込むか。


 そんなことを考えているうちに人垣と俺の距離は更に縮まっている。


「本当にアイリスちゃんだ……」

「あ、あのっ、応援してます!」

「お肌真っ白……」


 その輪の中には女性も多く居てこちらに向けてキラキラとした視線を向けている。

 あぁ、まずい。

 お肌は真っ白かもしれないけど、頭も真っ白だ……


「あ、あざすっ……」


 口から転がり出てきたのは全く気の利いていない、そんな言葉だった。


「恥ずかしがり屋なのかな?かわいい〜」


 クッ……

 自分の中の何かをガリガリと削られている気がする。

 なんとかこの場から離脱できないか?


 そう思った時。


「ちょっと、アイリスサン、何をやっているのカシラ?」


 日傘を差し、お嬢様姿に変装をした白鷺さんが若干棒読みになりながらやってきた。

 その横にはメイド姿の琴音とエレナも並んでいる。


「護衛でありながらお嬢様の側を離れるなんて、ダメじゃないの」

「早く職務に戻りなさい」


 俺を囲む人の輪の外からのエレナと琴音の叱責に俺は三人の意図を察する。

 謎のお嬢様軍団の護衛を名目にここから離れる理由を作ってくれているのだ。


 この波に飛び乗るしかない。


「す、すみません、護衛の仕事があるので……」


 軽く会釈をし、わずかに隙間を開けてくれた人たちの間を縫うように抜け出す。


「行きますワヨ」

「はい」


 こうして、なんとか群衆の中を抜け出すことができた。

 しかし、人目のある中で変身を解除して黒髪のウィッグのメイドに戻るのは憚られる。


 その結果。

 しばらく妙に視線を集めながら歩くことになり――


 先程の公園のトイレでようやく、変身を解除することができたのだった。


「すみません、まさかあんなに人に囲まれることになるなんて……」

「あんな空中を縦横無尽に動き回ったら、そりゃ注目されちゃうわよ」

「ソフィアは元から注目度があるしね」


 多くの人が見ている中で銃弾を斬った。

 その反響は俺の想像を遥かに越えていた。

 多くの切り抜き動画が作成され、今や海外にまで羽ばたいているのだ。

 

 さらに――


 テレビでも注目の魔法少女と紹介されてしまったのだ。

 いつかはほとぼりも冷めて町を普通に歩ける日が来ると信じているのだが……

 この一つの火種に周りが油を注ぎ続けているこの状況。


 一体いつまで続くのだろうか……?


 ため息を吐きながら俺は、白鷺さんの後に続く。

 そして、その後も何箇所か苗木を植えて回り――


 帰りの新幹線に乗った頃には、時刻は21時を回っていた。

 一度、グッタリと背もたれに背中を預けるが護衛の任務中だと慌てて姿勢を正す。


「ねぇ、ちょっと見てみなさいよ」


 すると、通路を挟んで隣に居る琴音が俺に向かってスマホを見せてきた。

 俺はそれを覗き込み――


「げっ……」


 思わずそんな声を漏らしてしまった。

 いつものSNSの画面の中。

 沢山いた人の中に撮影をしていた人がいたのだろう。

 そこにはロープを駆使して空を駆ける自分の姿。

 

『アイリスちゃん、空中機動を学んだ模様』


 そんなコメントが書かれた動画には眼を覆いたくなるほどのいいねがついていた。


「これでA級なの、おかしいって書かれてるわよ」


 琴音が、指を動かしてその投稿の返信欄を表示する。

 

『空中の敵を倒せるのエッグい……』

『相変わらず凛々しい御姿で訳の分からないことやってて最高にクールやね』

『これでB級って……意味わからん』

『この前マギ管の昇格者名簿見たけどA級になってたぞ』

『はっや』

『でも、これはS級レベルじゃね?』

『銃弾斬れます、空飛べます、近接超強いです。これでなぜA級なのかってレベルw』

『このスピードでS級になった前例がないからじゃね?』


 S級じゃないかと書かれたコメントに今日、矢島さんに言われたことが蘇る。

 自分としてはS級になるのはプレッシャーが凄そうだし、Aのままの方が有難い。


「まぁ、ソフィはランクとか気にするタイプじゃないから、S級になっても煩わしさしか感じないか」

「だね……」


 琴音の言葉に頷いていると、白鷺さんが小さくため息を漏らすのが目に入った。

 今日一日、S級のNo.1に同行しただけでも疲れたのに白鷺さんはこれをほぼ毎日やっているのだろう。


「やっぱり大変ですよね、S級って……」

「そうだね……」


 高校生でありながらいつも、全国を飛び回ってる人だ、本当に並大抵のことじゃない。

 白鷺さんの返答はどこか実感が込められていて、ため息混じりだった。


「授業とかはどうしてるんですか?」

「移動中の時間にリモートで受けてるよ」

「なるほど……」

「ボクたちの力が必要の無い日を迎えるためには勉強はしっかりやらないと、だからね」


 本当にすごい人だな……

 改めて、この人を灰原さんから守りたいと俺は決意を新たにした。

 

「ただ……最近は灰原の一件があってからいろんな団体が“うちを優先しろ”、と煩くてね……」


 灰原さんが白鷺さんの重要性を暴露した影響はやはり大きいらしい。

 白鷺さんはそう言って、少しグッタリとした表情でシートに体を沈ませた。


「大変ですね……」

「最近は特にだね……会議、勉強、各自治体への対応とやることが多くてね……」


 余程お疲れなのだろう。

 いつもクールな白鷺さんが疲労を滲ませるのは珍しい気がする。

 何か力になれれば良いのだが……


 そう思った時――

 ふと思い出した。


「そういえば、白鷺さん宛に箱根の温泉旅館の無料招待券を貰ってたんでした」

「特別室を用意するって言ってたやつでしょ?」

 

 俺は琴音に頷きを返して、財布の中を覗き込む。

 確か、この中に……


「あった」


 白鷺さんに“ご宿泊優待券”と書かれた五枚の縦長の紙を見せる。

 

「いいね、温泉」


 それを見て彼女は少し表情をやわらげた。

 

「近々自衛隊との共同演習の打ち合わせで御殿場に行く予定があるから泊まるのに丁度良さそうだね」

「じゃあ、来週はみんなで温泉ね!」

「あぁ、あとは予約が取れるかだけど……」

「それなら多分大丈夫だと思いますよ」


 あの白鷺環信者の女将さんのことだ。

 頑張って部屋を用意するどころか、常に空けている可能性すらありそうだ。

 そんな変な確信を持ちながら俺は白鷺さんの懸念に大丈夫と返したのだった。

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