66話
「あとはエレナがどこにいるか、だね〜」
「蟻は食糧を蓄える習性があるから、貯蔵している部屋が分かればいいんだけど……」
「とりあえず勘で進めばいいんじゃねぇか?」
「今はそれしかないけど、全く違うところに行ってたら洒落にならないのがね〜」
巣の中に降り立ち、粘液で塗り固められた硬い土の感触を靴底に感じながら俺たちは頭を捻っていた。
「兵隊アリを尾行してみますか?」
「それ、いいね〜、とりあえず貯蔵庫に行く蟻は深部の方だろうし奥へ行こうか〜」
「そうだな!」
そして、足を進めようとした瞬間――
正面からカチカチと顎を鳴らしながら蟻の行列がやってきた。
「今は蟻が来た方へ向かっていけば深部に向かえるはずだよ〜」
「まどろっこしいが仕方ねぇか!」
「なるほど」
俺はセイラの言葉に一つ頷き“カチカチ”と顎を鳴らし、突進してきた蟻を横へとかわす。
「おりゃぁ!!!」
それとほぼ同時に攻撃を空振った蟻の頭を棍棒が捉える。
頭をプレスされて置物になった蟻のお尻を踏み台に炎を纏った剣を二つ握り締めた琴音が飛び出し――
「ブレイズスラッシュ!!」
剣先の炎が伸び、後ろにいた二匹の蟻を一気に炎が包み込む。
こんがりと焼けた香ばしい匂いが漂う中。
俺は蟻の死体の間を縫うように駆ける。
琴音が燃やした後ろの蟻の足元に滑り込み――
一閃。
お腹から吹き出した体液をかわすように横へ出るとそのまま壁を蹴り飛ばして空中へ。
巣穴の上側の土を蹴り、その下にいた蟻の頭と胴体の繋ぎ目を目掛けて刀を振り下ろす。
“サクッ”
軽い音と確かな手応えが腕に伝わるのと同時に蟻の動きが停止した。
「フィアちゃん伏せて〜」
セイラのその声に身を屈めると、頭上を光の球が通過。
蟻に直撃すると硬いはずの甲殻に穴が開き――
内側から爆ぜる。
こうして瞬く間に十匹を越える蟻を討伐することができた。
「さすが、うちの近接型魔法少女は強いね〜」
このメンバーなら、絶対にエレナを助けられる。
セイラの言葉に心の中で頷きながら俺たちは奥へ奥へと突き進む。
これ以上の侵入を拒むように蟻が増えてきた頃――
突如、巣穴の中に銃声が反響した。
遠くから聞こえたその音に俺たちは一斉に顔を見合わせる。
「これって……」
「うん、エレナのかな〜、ん……?」
「戦闘中か?」
「急いだ方が良さそうね!」
琴音の急ぐべきだという声に押されるように音のした方へ足早に向かおうとしたのだが……
セイラがスマホを見たまま立ち止まっている。
「おい、セイラ!何スマホ触ってんだ、早く行くぞ」
「いや、ちょっと待って……」
「何かあったんですか?」
「これ、見て」
何か緊急事態があったのか?
そう思って声をかけるとセイラはスマホの画面をこちらへ見せた。
そこには見慣れたSNSの画面が映し出され――
【助けて!エグゼキューターに巣穴まで連れてかれた。要救助者三名のうち重傷者が一名。
待っててねとか言ったんだから、ちゃんと責任取りなさいよ エレナ】
そうコメントが書かれていた。
「エレナから来たのかな〜?」
「っぽいですね」
「とりあえず返信してみるね〜って電波が来てないね〜」
「圏外か?」
「かろうじて繋がってる感じだよ〜」
その言葉に楽は自分のスマホを取り出して画面を起動した。
「ホントだ、二本しか立ってねぇ……」
「返信には少し時間がかかりそうだね〜」
「電波が通じてる場所は限られそうですし、私と琴音で銃声のした方に進みます?」
「そうして貰える〜?」
「了解」
そして、銃声のした方向へ行き、現れる蟻を二人で対処していた時。
「おーい!!」
後ろから二人が慌てた様子で追いかけてきた。
「何かあったんですか?」
「なにか緊急?」
目の前の蟻を斬り飛ばしながらそう尋ねる。
するとセイラがまたスマホの画面を見せてきた。
「最近、純喫茶にハマってるんだけど……」
「これじゃなかった!」
書いてあった文字を読み上げているとセイラは慌てて画面を切り替えた。
再び画面を覗き込むと、そこには――
【早くして!】
と一言だけ。
「だいぶ急いだ方が良さそうですね」
「だな!」
「でも、蟻の数も増えてきてるし、貯蔵庫の場所もわかってないからまだ時間がかかっちゃうわよね」
琴音のその指摘に、自然と沈黙が落ちる。
このまま突き進むしかなさそうだが……
文面から伝わってくる余裕のなさに焦りが胸に込み上げてくる。
何か他に早く助けにいける方法はないか?
そう思った時――
楽がおもむろに、巣穴の壁に棍棒を押し当てた。
「せんぱい、何してるの〜?」
「いや、こうなったら一気に壁をぶち抜いて深部まで行く方が早いだろ」
「その脳筋理論やめてくれます〜?崩落とか起きたらどうするんですか〜?」
「大丈夫だって!壁は粘液で固めてあって強度はあるし、事態は一刻の猶予もない、だろ?」
「それはそうですけど〜」
やると決めたら絶対にやる。
それが楽なのだ。
セイラが制止を諦めると楽は棍棒を大きく振り上げて獰猛な笑みを浮かべた。
「おい、ソフィア!オレ様に合わせろ!」
「な、何を?」
「オレ様が壁をぶち抜いたら一番槍はお前だって言ってんだ」
「……えぇ〜」
困惑気味にみんなに視線を巡らせる。
だが、返ってきたのは、なぜか力強い頷きだけだった。
「うっし!それじゃ行くぜ!」
楽の構えた棍棒から強い魔力が迸り、白いオーラがたちのぼる。
「地砕轟槌ッ!!!」
棍棒がブンッと空気を震わせて真っ直ぐに振り下ろされ――
ドゴォォォ!!!
凄まじい衝撃が辺り一面に走る。
上から砂がパラパラと落ちる中、俺は“カチリ”と魔眼を起動。
砂煙の中へ飛び込んだ。
楽が無理矢理作った道を駆け降りていくと魔眼が、“人間”の温度を三つ捉えた。
「繊月連刃」
三人の近くにいる冷たいものを目掛けて斬撃を飛ばす。
そして砂塵を抜けると、エレナの横の女性が手に持つスマホから放たれる弱い光。
それが残った蟻を何匹か照らし出す。
広い空間だ、今までのように横を抜けるのが難しい場所ではない。
そう判断した俺は、蟻たちの隙間を縫うように走り抜け――
すれ違いざまに頭を斬り落としていく。
そして、エレナの前までやってきたのだった。
顔や衣装が泥や埃でぐちゃぐちゃな彼女。
それでもその凛とした眼差しには確かな強さを宿していた。
「ごめんなさい、お待たせしました」
俺のその一言に彼女は少し表情を緩めると少しホッとしたような笑みを浮かべたのだった。
「遅いのよ、……バカ」




