64話
学校終わりの放課後。
俺はまた変装をして、セイラと待ち合わせをした喫茶店に行くために校門をくぐろうとしたのだが……
明らかに学校の関係者では無さそうな人が何人か校門前にたむろしている。
生徒の送迎にしては硬すぎる雰囲気。
微妙に散らばりながら無言で立つ姿。
不審者だろうか?
そう不躾な視線を向けながら琴音と横を通過しようとした時。
「あの、ちょっとよろしいですか?私、週刊ウィッチーズという雑誌を担当している記者なんですけど」
突如、声をかけられた。
「え、わたしですか?」
俺が自分のことを指差すと記者を名乗った女性が「はい、そうです」と頷いた。
そして――
「この学校に銀色の髪の女の子って在籍してますか?」
そう尋ねてきた。
どう答えたらいいのかと答えに迷っていると後ろからやってきた翔太が俺の肩に手を置いた。
「この学校に銀髪の生徒はいなかったと思います」
「そうですか……おっかしいなぁ……」
何か確かな情報を得てここに来たのだろうか?
記者の女性はしきりに首を傾げている。
「みんな居ないって答えるし……」
ぶつぶつと独り言を呟き続ける記者の人に俺は遠慮がちに声をかける。
「あの〜」
「あっごめんなさい。何か?」
「予定があるのでもう行っていいですか?」
「あぁ!ごめんね!時間を取っちゃって、えぇ、もう大丈夫です」
悪い人ではないのかな?
俺はそう彼女の印象を改めると駅に向かって歩き出す。
そして、記者の女性と少し距離が開いたとき。
「アンタ、凄いじゃない!ウィッチーズって言ったら、めっちゃ人気の魔法系情報雑誌よ!」
「へぇ〜」
「興味薄そうね……」
「人前とか、カメラとか苦手なんだよ……」
セイラの配信で盛大に“やらかした”のが鮮明よみがえる。
今、取材なんか受けた日には俺の黒歴史に新たな1ページを記すことになるのが目に見えている。
だから学校の人たちが“銀髪の生徒は居ない”と口裏を合わせてくれているのは有り難い。
「機械音痴のアイリスちゃんには取材はまだ早いだろうし、今はほとぼりを冷ます方が大事だと思ってな」
機械音痴という評価には納得がいかないが……
翔太の揶揄うような声に「ありがとう」と返事を返したその瞬間――
急に琴音の鞄の中から警報音のような危機感を煽る音が響く。
琴音は素早く鞄の中からサポートAIを取り出した。
「マギ管から緊急要請が入ってるぜ!」
サポートAIのラトスの声に、俺と琴音の緊張感が一気に高まる。
「わかったわ、ソフィ、悪いけどサイパン式はまた今度ね」
「サイパン式って何……」
「あれ?そんな名前じゃなかった?朝言ってたコーヒーの淹れ方」
「サイフォン式のことか……」
「だぁー!そんなのどうでもいいから行くわよ!」
「はいはい……」
まるで怪獣のような足取りでずんずんと進む琴音の後ろを追いかけようとした時。
さっきの記者さんがこちらをジッと見つめていたので俺は軽く会釈をすると急いで琴音の後を追いかける。
「気をつけろよ!」
翔太のその声を背に受けながら俺と琴音は小さな公園へと入った。
そして琴音がサポートAIに指示を出す。
「オペセンに繋いで」
「あいよ」
短いコールが鳴ったあと、端末越しに石動さんの声が響く。
『はい、こちらマギ管オペレーションセンター』
「緊急要請を受けたクレセントムーンとアイリスよ、魔物が出現したの?」
『そうだ。エグゼキューターの発生を新宿近郊で確認。直ちに急行して欲しい』
「エグゼキューター?また厄介ね……危険度は?」
『現在はAと評価している』
「了解、すぐに向かうわ」
琴音はそう言って通信を切ると、表情を戦闘モードへ切り替える。
「行きましょ、場所は新宿だったわね」
「結構距離があるな……」
ここから新宿へ向かうには、どんなに急いでも三十分はかかる。
マギ管の講習では“緊急要請”は現場付近で対応可能な魔法少女から優先的に発信されると教えていたんだけどなぁ……
「銃弾を斬るような化け物はガーデンと同じでどんなに距離があっても呼びたくなるわよ」
「そうなのか……」
まぁ、確かに近接戦には少し自信が持てるようになったが……
正直、魔法少女としてはまだまだ分からないことだらけだ。
そんな、まだまだビギナーの俺は駅に向かって走る琴音の背中に向けて先ほどからずっと気になっていた質問を投げかける。
「それで、そのエグゼキューターってどんな魔物なんだ?」
「デッカい蟻ね」
「蟻?」
「そう、厄介なのは数が多くて連携してくるのと普段は地中に潜むことが多いってことかしらね」
なるほど。
地上にある白鷺さんのタレットを掻い潜って地下にコロニーを作ることができるのか。
そうなると俺たちの仕事は……
「もしかして、巣穴に突入……みたいなことになる?」
「たぶん、もしかしなくても、よ……」
「えぇ……」
虫の巣穴……しかも……蟻の巣に入る。
正直、想像するだけで鳥肌が立つ。
でも――
出現場所が都会のど真ん中だ、少しでも早く到着したい。
俺は湧き上がる嫌悪感を押し退けるように力強く地面を蹴る。
そうしているうちに見慣れた駅舎が見えてきた。
改札を抜け、電車が止まっていないことを確認、ホームに出るとやってきた快速電車にそのまま飛び乗った。
新宿で魔物が出たことが速報となっている影響かガラガラ電車の中。
俺は琴音にエグゼキューターとの戦い方や弱点を一つ一つ尋ね、頭の中に書き留めていく。
そして――
新宿駅に到着すると、避難誘導に従い、この場所から逃げるように流れる人の波に逆らうように押し進む。
そして、途中にあったコインロッカーに変装用のウィッグとマスク、メガネを放り込む。
目立つ銀色の髪が露わになった瞬間、周囲の視線が一斉に突き刺さるのを感じた。
「おい、あれ、アイリスちゃんじゃね?」
「ホントだ……」
「アリを倒しにきたのか……」
「じゃあ、隣にいるにはクレセントムーン?」
「じゃないかな?」
「頑張って〜」
そんな声に送り出されるように東口に出ると――
駅前には規制線が貼られ、警察や自衛隊の人でひしめきあっていた。
そしてその奥から――
「あっフィアちゃん〜!来たんだ〜?」
魔法少女姿に変身したセイラが現れた。
「はい、それで状況はどんな感じです?」
「地上に上がってきた蟻は先に到着したメンバーで封じ込めてるよ〜」
「じゃあ……あとは……」
「うん、巣穴に突っ込んで女王蟻を討伐するだけだね〜」
セイラのその宣言に少しげんなりとしながら俺たちは蟻の巣穴があると推測される場所へと向かっていったのだった。




