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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第一章

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7話

結局、家の中で包囲された俺は、プチ撮影会に付き合わされる事になった。

 衣装担当の妹と母が出す服を着て撮影監督の父の要望通りのポーズを取らされる。

 

――いつになったらこの撮影会は終了するの

か。

 そんなことを思い始めた頃、意外とあっさりと幕が下りる。



「あら、いけない、晴香の学校の時間ね、早く支度しなさい」

「えー、もう1着着て欲しい服があったのに〜」


 時計を見て我に返った母は、ゴネる晴香を急かす。

 

「ほら、遅刻しちゃうわよ」

「は〜い」


 母の後に続くように晴香は名残惜しそうに玄関に向かう。


「じゃあ、お姉ちゃん、また後で続きやろうね!」


 妹はそんな事を言い残し、玄関の扉が閉まる音が響く。

 母と妹がいなくなった事で、リビングは一気に静まりかえった。

 

 取り残された俺に、息子の一大事に有休を取ったらしい父が近寄ってくる。

 「痛いところはないか?」「気分は大丈夫か?」などと、質問攻め。


 むず痒かったが心配してもらえていることが、なんだか嬉しかった。


――そんなやり取りをしていると、晴香を学校へ放ってきた母が帰ってきた。

 「ただいま〜」と言いながらリビングに戻ってきた母は、「よっこらしょ」と声を出して、ゆっくりと腰を下ろす。


 それに続くように、俺と父も椅子に座り3人でテーブルを囲む。

 

「……さてと」



 真剣な表情で父が低く呟いた。


 母もさっきまでの明るい雰囲気は消え、引き締まった表情をしている。

 

――どうやら現実に向き合う時が来たらしい。


「学校にはさっき、優は欠席するって伝えたわよ」


 いきなり、月城優です、女の子になりました〜なんて言いながら教室に入る銀髪女子。

 絶対、不審者扱いされるのがオチだ。

 

 校門で垣守委員長に遭遇したら、門前払いだろう。


 今いちばん問題なのは、『月城優』であることをどうやって家族以外に証明するかだ。


 月城優として学校に行っても、以前と見た目も性別も違いすぎる。


「……戸籍をどうするか」

「今のままじゃ、マイナンバーも使えないわよね」


 母の言う通り、学校もだが、役所に提出した各種書類や申請も全部ムダなってしまう。


「その姿になった原因に心あたりはないのか?」


 父は、戸籍問題よりもまずは”元に戻れないか“を探ることにしたようだ。


「実は昨日の魔法適性検査で――」


 心あたりと、言えるほど確かなものじゃないけど、昨日の魔法適性検査で俺だけ変な反応があった。

 そのことを素直に話す。


 それを聞いた父と母は顔を見合わせて揃って「う〜ん」と唸り声をあげる。


「優くんに魔法の適性があったのかしら?」

「それで性別が変わる、なんて話は聞いたことないけどな……」


 魔法に適性があって女性になった、なんて話は俺も聞いたことがない。

 けれど、こんな摩訶不思議なことを引き起こせるのは魔法くらいしか思い当たらない。


「私たちだけじゃさっぱりわからないし、いっそ魔法少女管理機構に相談してみる?」

「いや、でもなぁ〜」


 ”魔法少女管理機構“その名前が出た途端、父が露骨に嫌そうな顔をした。


「何か嫌なの?」

「仮に魔法の適性があったとして、優が魔物を討伐しなくちゃいけなくなるのは避けたい」


 母の問いに父は静かに答える。

 

「任意だって話だし、管理機構の人に、戦わなくて済むようにお願いすればいいじゃない」


 母にそう言われて、納得したのか、父がスマホを手に取る――その時だった。


 ピンポーン、と玄関のチャイムが鳴る


「ごめんくださーい」と玄関前から女性の声が聞こえる。


「セールスか?」

「またあのセールスかしら、何度も断ってるんだけど……」


 母が席を立ち、玄関へと向かう。

 俺と父は顔を見合わせて、お互いに一息つく。


 ――飲みものでも取ってくるか、そう思い、腰を上げようとした瞬間――

 玄関から聞こえた声に父とニ人、思わず固まった。


「私、魔法少女管理機構、魔法適性管理課の香坂と申します。本日は月城優様の適性検査の結果についてお話に伺いました」

「えっと……香坂さん?ね、優に何か?」


 俺は、中腰のような体勢から、立ち上がると冷蔵庫の方――ではなく扉の方へとそっと向かう。

 そして、こっそりと玄関を覗き込む。


「申し訳ありません、お話しをする前に、ご確認なのですが……」

 香坂さんは丁寧に切り出す。「本日、学校にも確認をとりましたが、月城優様は欠席と伺いました。ご本人はご在宅でしょうか?」

 

 うっすらと開いた扉の先の玄関には魔法適性検査で男子担当だった――翔太が”マギ管のお姉さん“と呼んでいた、あの女性が立っていった。


 そして、聞こえた声もあの時、俺の名前を呼んだ、”マギ管のお姉さん“のものだった。


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