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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第二章

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59話

「うそ……」

「斬ったの……?銃弾を〜?」


 驚愕の声が琴音たちの方からも聞こえ、静寂が倉庫内を支配する。

 その中で俺は刀の切先を灰原さんへと向けた。


「マキャベリズムとか……難しいことはよくわかりません。でも――セイラの大切な場所を踏みにじったこと、それから、白鷺さんを撃ったことは許さない」


 目を見開いて固まっていた灰原さんの口元が弧を描き、鋭い牙を覗かせる。


「フッ」


 小さな笑いをこぼしたあと――


「あははははっ!!!」


 堰を切ったようにお腹を抱えて笑い出した。


「マジかよ!見た目が最高に唆る女かと思ったら中身も最高とかさ、俄然、君が欲しくなったよ、ソフィちゃん」


 笑いが収まったあと、獲物を見定めるように細められた赤い瞳がこちらを真っ直ぐ射抜く。

 俺はそれを敢えて無視して琴音へ声をかけた。


「ここは私に任せて、白鷺さんを連れて早く逃げて!」

「ふざけないで!もう無茶しないって約束したでしょ!」

「ごめん、でもこうするのが一番いいはずだから……」

「はぁーーーッ⁉︎」


 銃弾に対処できるのか、未だ自信は無いが、今いるメンバーで一番対応できるのは俺だ。

 そう思ったのだが、予想通り琴音の反発がすごい。

  

 今にもこちらに飛びかかってきそうなくらい目くじらを立てている。


「ムーンちゃん、ここはアイリスたんに任せて私たちができることをやろう?」

「ボクからもお願いだ、ここから離脱するのに力を貸して欲しい」

「く、悔しいのは分かります!でも、今は、あ、アイリスさんに頼るしか……」


 三人からも説得をされ、琴音は奥歯を噛み締め、小刻みに拳を震わせながら俯いた。

 そして、ゆっくりと視線を引き上げ――


 キッとこちらを睨みつけた。


「死んだら絶対に許さないから……」

「うん」


 それに対して小さく頷く。

 そして、琴音たちは一斉に出口に向かって駆け出した。

 俺もみんなの背中に射線が通らないように素早く移動する。


 そこへ灰原さんの部下に対する鋭い指示が飛ぶ。


「逃がすな。ただし――銀髪の女には絶対に当てるなよ!」


 絶妙に気持ち悪い指示に仮面の男たちがおずおずと銃を構える。

 そして、脳裏に幾つもの弾道が“線”となって次々と映し出された。


 立て続けに乾いた銃声が響き――

 俺は白鷺さんたちに当たりそうな軌道のものだけに最短で出すイメージで刃を出していく。


 甲高い金属音が連続し、眼前でいくつもの火花が飛び散った。

 思考が研ぎ澄まされていって音が遠ざかり、魔眼を通して入ってくる視覚情報が鮮明になる感覚。


 ――自分に当たる軌道を描くものがないから捌くのが楽だな。

 

 そんなことさえ思えた。

 銃声が止み、薬莢が地面に落ちる音だけが響いたあと。


「おいおいおい!なんだよそれ!リーパーの動画の時とはまるで別人じゃん!」


 頬を紅潮させ興奮したように唾を飛ばす灰原さん。

 

「これは魔法少女ではないみんなの力があってこそやっと身についたものなんです」

「そうなの?」


 自分は魔物を倒すことができないから、と惜しみなく自分の技を俺に教示してくれた秋山さん。

 さらに秋山さんの呼びかけで色んな技の動画を送ってくださった達人の方々。


 それらを魔眼で解析し真似ているうちに過去の武人の夢さえも見るようになった。

 その一つ一つの技や想いが今の俺に力を与えてくれたのだ。

 だから――


「魔物を倒すことができなくても魔法をなくすために力を貸してくれる人はたくさんいるんです」

「へぇ〜」


 あれ?

 たった今思いついたことなのでうまく言葉にできなかったのかな。

 灰原さんは俺の言葉を興味なさそうに聞き流していた。


「そんな健気なソフィちゃんに裏社会の掟を教えてあげるね」

「はい?」

「俺たちは逃げ道をみすみす開けるようなヘマはしないのさ」


 どこか揶揄うように余裕のある声音でそう告げられ反射的に振り返る。

 そこには出入り口を塞ぐように仮面の男が白鷺さんに向けて銃を構えていた。

 魔眼が見せる未来は自分の“視界の中”だけ。

 視界の外で白鷺さんに降りかかる暴力は感知できない。


「しまっ――」


 バンっ!!


 銃声が一つ響いた。 

 同時に白鷺さんに向けられていた男の銃が弾け飛ぶ。

 それを見た琴音が素早く男の懐に入り込むと背負い投げで地面に叩きつける。


 何が起こったんだ……?

 そう思ってあたりを見回すと――


 倉庫の窓から黄色い影が飛び出した。

 眩い金色の髪を揺らしながら俺の隣に立つ彼女。


「エレナ⁉︎」


 見覚えしかない顔に俺は思わず驚きの声をあげる。


「別にアンタらを助けようとかじゃないから……」

「え?」

「みんな仲良くとか、理想を語るのも大概にしろって感じだし」


 ぶつぶつと俺の隣で文句を呟き続けるエレナ。

 でも、状況的には味方になってくれるってことでいいんだよな……?


 首を傾げていると彼女は突然、わしゃわしゃと頭を掻きむしった。


「とにかく!!アイツには濡れ衣を着せられた借りを返さなきゃいけないの!!だから、今だけ味方になってあげる……」

「うん、ありがとう」


 その様子は味方になるための理由を一生懸命探しているようで、思わず笑みが溢れてしまった。

 

「あー、ホントあなたって……」

「何?」

「なんでもない……!」


 プイッとそっぽ向くエレナの向こうで白鷺さんたちがシャッターを開けて無事に倉庫を出ていった。

 それを見て俺は灰原さんに向き直る。

 彼は、深いため息をこぼし、肩を落としながら呟いた。


「はぁ、ソフィちゃんのせいで全く思い通りにならなかったなぁ」

「そう言っている割には全然余裕そうですけど」


 陰謀を打ち砕かれたにしては彼はどこか愉しげだった。

 むしろ想定外のことが起こったことを喜んでいるようにすら見える。

 

「いや、キミみたいな女性を手に入れられたら最高だろうな、と思ってね」

「相変わらずですね……」


 お前の執着してる銀髪は元男なんだが。

 そう暴露したら彼はどういう反応を示すのだろう。

 暴れ狂う可能性はあるが彼の歪んだ情欲を叩き直すのには寧ろ良い薬になるかもしれない。


「まぁ、今日のところは人質も居なくなったし、乗り込まれるのも時間の問題だろうからこれで失礼するよ」


 そう言って踵を返した彼の足元をエレナが放った銃弾が穿つ。


「逃がすわけないでしょ!」

「想定外の事態に備えるのは俺たちの世界じゃ基本中の基本だから!キミらは一旦コイツらと戯れててよ!」


 灰原さんはそう言って手元にリモコンを出すとそのスイッチを押した。

 それと同時に倉庫内に積み上がっていた大きなコンテナの扉が開く。


 そして中から手を伸ばして大量の魔物が現れた。

 次々に現れる魔物は猿型、鹿型、熊型、リーパーなどのレイス系とバリエーションがとても豊かだ。


「害獣だらけ……」


 畑の周辺から集めてきたのか?と尋ねたくなるほど農作物に悪さをしそうなラインナップだ。

 そいつらが魔物特有の血走った赤い瞳をこちらへ向けて、涎を垂らしていた。


 灰原さんはその隙に倉庫の奥へと消えてしまい、俺とエレナはほぼ同時にため息をついた。


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