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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第二章

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58話

 コツ、コツと靴の音を響かせながら白鷺さんは灰原さんを見据えてゆっくりと歩みを進めていく。

 そして――ちょうどカメラの画角に収まったあたりの距離まで来た時。


「よし、そこから動くなよ。これ以上近づくと殺す」


 灰原さんは銃口を白鷺さんへと向ける。

 そこで、ピタリ、と白鷺さんの足が止まった。


 全てが自分の思い通りにいっていることにニヤリとした笑みをこぼす灰原さん。

 静かで凪いでいる瞳の奥に燃えるような怒りを宿す白鷺さん。


 二人の視線が交わり、火花を散らす。


「それで、ここまでボクを呼び出した目的は?」


 冷たく温度のない声が倉庫に響く。


「俺の眷属になれ、白鷺環」


 吸血鬼になれと告げる灰原さん。

 それに白鷺さんはピクリと眉を吊り上げた。


「ボクに“人間を辞めろ”、と?」

「そうだ、魔物になればもう何も背負わなくて済むぜ、そしてみんながお前に“依存”しまくってる現実が丸裸になるんだ」

「誰も依存なんてしてないよ。ただみんな自分の役割を……」

「その役割の中でお前が担っている部分が大きすぎるって言ってるんだよ」


 灰原さんの吐き捨てるような指摘に白鷺さんの瞳が僅かに揺らぐ。


「お前の植物タレットでみんな楽をしてるのに誰もそれに気付かない。それどころか、大人どもは“国防のため”なんて言って枷ばかり嵌めて来ただろう?」

「植物タレット……?」


 よくわからない単語の登場に琴音が首を傾げる。

 俺も、なんだそれ?とセイラを見たが彼女も首を傾げていた。


「ハッ、ガーデンのメンバーですら知らねぇのな。だったら教えてやるよ――」


 それから彼が語った白鷺さんの役割は衝撃の連続だった。

 日本の公園や山、自然のあるところを中心に植えられた“自律的に魔物を駆逐する”植物タレットの存在。

 そのタレットの司令塔が白鷺さんであり、彼女が倒れればタレットが一斉に機能を停止する事実。


 山には魔物が出ない理由。

 最近、街の中で急速に緑が増えていること。


 それら全てが線で結びついていく。

 

「じゃあ、あの都市緑化計画も……?」

「あれもコイツのタレットを植えるためのカモフラージュだ」


 今までの、魔物がいるけど、なんとか平穏に過ごしてこられた日常。

 それが、白鷺さんに支えられていたなんて……


「だから俺はこんなガキどもに全部丸投げするのはやめて、魔物になるべきだって言ってんの。人間ではこの世界を生きるには弱すぎる」


 彼のその言葉のあと。

 薄暗い倉庫内に重たい沈黙が落ちた気がした。

 俺は男だった頃の魔物と戦う力もなく、魔法少女に守られるだけだった自分を知っている。


 だからこそ、彼の言葉は正しいように聞こえてしまった。


「俺の眷属になれば世界中が救われて物流、人流、生活が全てもと通りになるんだ」

「それでその世界でキミは支配者として君臨するのかい?」

「そうだ」


 灰原さんは白鷺さんの皮肉混じりの言葉に頷きを返す。

 そして、両手を大きく広げて、寒気がするほどの仄暗さを滲ませた笑みを浮かべた。


「俺は吸血鬼となった人類、そして全ての魔物を統べる――魔王になる」


 その宣言は彼らしい軽薄さは微塵もなく。

 世界の秩序を本気で変えようとする覚悟が滲んでいた。


 俺たちが驚愕で目を見開く中、白鷺さんだけが表情を変えることなくそれを受け止めていた。


「ボクは人であることを捨てるつもりはないよ」


 淡々と告げられた拒絶。

 白鷺さんの瞳は凪いだ湖面のように静かで、とても力強かった。


「人は弱いからこそ、互いを補い合い、手をとって共に強くあろうと“進歩”できる」


 そして、チラリと白鷺さんがこちらに視線を送る。

 俺はそれに答えるように頷くと灰原さんが白鷺さんに集中していることを確認。


 ひっそりと腰に巻きついている縄に魔力を流す。

 問題なく自分の“武器”にすることができたようで拘束をひっそりと解いていく。

 セイラたちは突然拘束が緩んだことに驚くがすぐに何もなかったように平静を取り繕ってくれた。

 

「キミの言う“進化”は恐怖と暴力による支配の前提でしか成り立たないただの“狂気”だよ」

「なんだと?」

「それにボクは“依存”されているわけじゃない。科学者も政治家も他の魔法少女だってみんな魔法のない世界を目指して邁進してる」


 白鷺さんの瞳に宿る強い信念。

 それが改めて俺の胸を打つ。


「例え、ここでボクが死んだとしてもキミがやったことは時間稼ぎ役を一人減らしたに過ぎないよ」

「ハッ、そうかよ、つまりお前は眷属にならないんだな」

「そういうことさ」

「ここにはお前を守る植物はないぞ」

「わかっているよ」

「そうか――」


 灰原さんがゆっくりと銃口を白鷺さんへ向ける。

 ほぼ同時に俺は反射的にカチリと魔眼を起動。


 脳裏に映し出された“最悪”を回避するために駆け出した。


「なら、お前は新しい時代の始まりの号砲と共に死ね」


 彼の腕から指へと筋肉の動きが伝わり引き金が引かれる――刹那。

 俺は白鷺さんの前に躍り出た。


 そして――


 パンッ!


 銃口から閃光が迸り、火薬の爆発で発生したガスに押し出されながら銃弾が射出された。

 全てがスローモーションに見える中、俺は予測した軌道の上に刃を走らせるように抜刀。


 キィィン!という鋭い音。

 腕に走る微かな振動と共に刃先で火花が飛び散る。

 両断された銃弾は勢いを失い、くるくると回転しながら地面に転がった。


「……は?」


 灰原さんの少し間抜けな声が倉庫内の乾いた空気の中に溶けた。

 

 エレナに撃たれていた時に銃弾の軌道が線のように映ったので、できるかも……とは思ったのだけど。

 まさか本当に銃弾を斬れるとは。


 正直、自分でもびっくりだ……

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