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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第二章

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56話

 自身が魔物であると衝撃のカミングアウトをした灰原さん。

 彼は他の仲間を呼び寄せると、俺たちを縄で拘束するように指示を出す。


 俺たちは乱暴な手つきで全員、両手を縛りつけられ、薄暗い倉庫の奥にある太い柱に括り付けられた。


「銃は魔物相手には無力だけど、魔法少女相手には一番の武器になる。いや、皮肉なもんだね」


 そう言って俺たちの周りをぐるぐると革靴の音を響かせながら歩く灰原さん。

 その姿は美術館で展示品を見て回っているような気楽さだ。


「アンタらが暴力団を殺して回ってる真犯人ってこと?」

「そうさ、エレナに全ての罪を押し付けて時間稼ぎをしたかったんだけどね〜」


 灰原さんは琴音の敵意剥き出しの視線を受けてもまるで気にしたそぶりもなく――

 赤い縦長の瞳孔を細め、狂気さえ感じさせる笑みを浮かべる。


 そして――


 灰原さんは俺の目の前でピタリと足を止めた。

 腰を屈め、俺の顔を覗き込むようにゆっくりと距離を詰めてくる。

 首元を彼の長い髪がチクチクと刺激してシトラスとタバコの混じった匂いが鼻を刺す。

 

「ソフィちゃんが随分と早く直感でエレナじゃないって気づいっちゃったからさぁ〜」


 耳元にかかる声に顔を顰めた時。


 ――カリッ。


「ひゃっ……ぁ……!」


 すぐ側で吐息の音が鼓膜を揺らし、耳朶に鋭い痛みが走った。

 思わず変な声が出てしまったじゃないかと彼を睨むが、彼は笑みを深めるだけだ。


「こうして、早く来ないかな〜って箱罠を作って待ってたって訳」


 そして彼は唇についた赤い血を舌で舐めとった。


「んー、おいしっ」

「ホントにキモイわ……コイツ……」

「琴音ちゃん、辛辣で傷ついちゃうなー」

「全く傷ついてるようには見えないけどね〜」


 両手を上げてお決まりの反省ポーズをしながら首を振る彼にセイラが冷たい視線を浴びせる。


「僕たち吸血鬼にとって、魅力的な女性の耳を噛むことは求愛行動なんだけどな〜」

「余計にキモイわ……」

「それで吸血鬼の灰原っちは何が目的でこんなことをやってるのかな〜?」

「なんでだと思う?」


 口封じならわざわざ俺たちを縛らずに殺せばいいはず……

 それを彼はわざわざこんな倉庫を用意して待ち伏せた。


 思考を巡らせようと視線を天井に走らせる。


「ま、魔法少女を眷属にするとか?で、でしょうか?」

「ブッブー」


 霞野さんの答えに灰原さんは両手で大きくばつ印を作る。


「それなら、こんな倉庫をわざわざ用意して、エレナの後にこんな格好で現れて銃声を鳴らすなんて、手の込んだことしないって」

「ホントにまんまとハメられたのね私たち……」


 そう――。

 ここは新興勢力のヤクザの倉庫などではない。

 最初から俺たちを捕まえるための“檻”でしかなかったのだ。


 その証拠に、この倉庫には灰原さんの仲間以外は誰も居ない。


「誰も分からないみたいかな?」


 嘲けるような笑みを浮かべる灰原さんに俺たちは全員押し黙る。

 

「勿体ぶってないで、早く悪党らしく自慢気に暴露タイムでもしなさいよ!」


 煽られることに耐性がない琴音が噛み付くように唾を飛ばし、腰に巻きついている縄を揺らす。


「悪党?俺が?」


 灰原さんは、自分を指差した後、そう言われたのが意外だったのか首を傾げた。

 女の子に銃を向けて柱に括り付けてる時点でなかなかの犯罪者だと俺も思うんだけど。

 

 噛まれた耳もジクジクと痛むし。

 

「殺人、詐欺、監禁でスリーアウトの大悪党でしょうが!」

「悪党かどうかは歴史が決めることだよ、ほら、目的は手段を正当化するって言うだろう?」

「歴史じゃなくて“法”が決めることだと思うけどね〜」


 どこか、己に酔ったように誇らしげに語る灰原さん。

 それをセイラの冷たい声が切り捨てる。


「まぁいいや、取り敢えず、ソフィちゃんの耳の手当てをしないとね」

「いえ!そのままで大丈夫です」

「血が垂れちゃうでしょー」


 また変なことをされるんじゃないか、と首を横に何度も振ったのだが……

 彼は、俺の拒絶など存在していないかのように歩みを進め始めた。


 そして――


 優しい手つきでそっと絆創膏を貼り付ける。


「お楽しみはまた今夜、こんな倉庫で君を味わうにはムードが足りない」


 小声で俺だけに聞こえるように囁かれた官能的な甘い声。

 そして、彼はすぐに離れると、意味深な視線を送ってきた。


 俺はそれに、こんな奴に甚振られるのは絶対にごめんだと睨みつけるのが精一杯だ。



「さてと、それじゃあそろそろ、本来の目的を果たしますか!」


 灰原さんは、まるでこれから買い物にでも行くような陽気な明るい声音を響かせた後――

 銃口をセイラへと向けた。


「カメラを用意しろ、それとキミの300万人の登録者数を誇るチャンネルを借りさせてもらうよ」

「嫌だ、って言ったら〜?」

「その時は、お前の頭を弾いて、スマホを奪ってから勝手に配信するだけだね」

「……わかった」

「セイラ……」


 諦めたように肩を落とすセイラにかける言葉が見つからない。

 きっと彼女にとって自分のチャンネルとファンは苦楽をずっと共にしてきた大切な場所に違いないのに……

 

 それをこんな人に穢されるなんて……

 俺がもっと警戒できていれば。


 そんな後悔ばかりが募る。


「ルミエル」

「はい、なんでしょう?」


 セイラが自分のサポートAIの名前を呼んだ。

 その声にいつもの陽気さはない。


「配信の準備をして、それで……それで……」

「マスター?」


 セイラは瞼をきつく閉じ、何かを堪えようと唇を噛む。

 怒りか、哀しみか、彼女の手はプルプルと震えていた。

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