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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第二章

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55話

 窓枠から少し顔を出すようにして外を見ると闇に紛れながら鮮やかな金髪を揺らす少女が倉庫に向かってきていた。


 ――エレナだ。


 彼女が殺人をやる可能性は低いはず……

 でも、何を目的にヤクザの倉庫に現れるのか。


 まずはそれを確かめる必要がある。

 俺たちは息を殺し、エレナの動向を注意深く見守った。

 

 エレナは周囲を警戒しながら進むと、倉庫の塀に背中を張り付けてそっと中を覗き込んでいる。


「やっぱり、襲うのかしら?」

「襲うにしてはコソコソしすぎな感じもあるけどね〜」

「そ、そうですね、襲撃というよりはコソ泥みたいな……」


 その時、いつも休憩に出てくる組員の男が倉庫から外に出てきた。

 そして、加熱式タバコを取り出した瞬間――


 エレナは素早く彼に接近して腹部に向かって掌底をめり込ませた。

 お腹を抑えて蹲った男の耳元で彼女は何かを話しかける。


「何をしているんだろう?」

「さぁ……」

「まぁ、暴行はしたね〜」


 そして――。

 男はズボンの中から財布を取り出してエレナに差し出した。

 エレナはそれを乱暴にひったくると中から紙幣を何枚か抜き取った。


「今どき現金?珍しっ」

「確かに……」


 今の時代、みんなキャッシュレスだからあの男が紙幣をたくさん持っていたことは驚きだ。

 結婚式のご祝儀でも包む予定でもあったのかな?


 そう首を傾げていると、霞野さんが控えめに解説してくれた。


「う、裏世界の人は口座を持てなくて、キャッシュレスは履歴が残るので、げ、現金なんだと思います……」

「なるほど」

「つまり、カツアゲするにはちょうどいいってことね」


 そう。

 今、目の前で繰り広げられてる光景。

 それはどう見てもカツアゲだった。


 エレナは紙幣を抜き取った財布を乱雑に男に突き返す。

 そして、男がおぼつかない足取りで中へ戻るのを見届けるとまた塀の後ろへと隠れた。


 それから――。


 次に出てきた男。

 その次に出てきた男。

 みんなエレナに襲われて財布から紙幣を抜き取られていく。


「私たち、何を見せられてるの……?」

「ん〜?小遣い稼ぎの現場かな〜?」

「これだけやってるのに中の人たちが気付く気配もないですね、報告とかしてないんでしょうか?」


 普通、こういうのって組員総出で飛び出して来るものじゃないのか?


「た、たぶん、報告できないんじゃないでしょうか?」

「どういうこと?」

「か、彼らの世界で、お、女の子に襲われて、財布を取られたって言うのは相当勇気が要ると思います」

「確かに……」


 女子を相手に財布を取られたから助けてくださいは……破門確定じゃないだろうか。


「現金を持ってて、プライドだけは高いとか、格好の餌ね……」

「抜き取られた額とプライドを天秤にかけてプライドに傾くように仕向けてるのね〜」


 元軍人の経験が成せる技なのか。

 なんというか、すごい強かだ。


 そうして、エレナは倉庫の中に一歩も足を踏み入れることなく、素早く走り去って行った。

 街灯の灯りに時折照らされる彼女の横顔は、生きるための必死さが滲んでいるようだった。


「これで、彼女は白で決まりかな〜」

「か、限りなく白寄りのグレーで問題ないと思います」

「そうなると……」

「うん、この後に現れる何者かの方が問題だね〜」


 エレナに濡れ衣を着せるように動き、たくさんの人を殺めた真犯人。

 ソイツが現れるかもしれない。


 車の中に独特の緊張感が張り詰める。

 そんな中――


 道路の奥の暗闇から、仮面をつけ、黒いスーツに身を包んだ十数人の集団が現れた。

 街灯が彼らの白い仮面の無機質な光沢とスーツを不気味に浮かび上がらせる。


 整然と足並みを揃え、倉庫へ向かうその光景は何かゾッとするものがある。


「何、アイツら……」

「わからないけど只者じゃなさそうだね〜」


 俺たちが固唾を飲んで見守る中、集団は倉庫の入り口を乱暴に開くと中へ入っていった。

 そして、上空を旅客機が横切ったタイミングで何発もの乾いた銃声が立て続けに轟いた。


「これは、中の様子を確認すべきかな〜?」

「そうですね……」

「ば、バレたら大変そうじゃない、で、ですか?」

「奴らが殺したっていう証拠を抑えるチャンスなのよ……!」


 琴音のその一言に、俺たちは頷き合い、車のドアをゆっくりとスライドさせた。

 海から冷たい夜風が吹き付ける中、俺は刀を手に闇の中へと飛び出した。

 そして、セイラを先頭に慎重に倉庫の入り口へと近づいていく。


 そして、シャッターの横の出入り口にセイラが手をかけて中をそっと覗き込む。

 

「薄暗いしコンテナが乱雑に積まれていて様子がよくわからないね〜」

 

 セイラは小声でそう呟き、人が出入りできるぐらいの隙間が空くまで扉をそっと開く。

 そして中へ。


 その瞬間だった。

 

 俺が反射的に刀を構えるのとほぼ同時。

 横から突然、冷たい銃口がセイラのこめかみにぴとっと押し当てられた。

 セイラは引き攣った笑みを浮かべると静かに両手をあげる。


「ようこそ、ウサギちゃんたち」


 黒いスーツに怪しげな白い仮面を被った男が軽薄な声でそう告げた。

 

 聞いたことのある声。

 見覚えのある肩下まである茶髪。


 まさか――。


「あんた……まさか……」

「一週間ぶりかな?」


 そう言って男は仮面に手をかけるとゆっくりと横へずらした。

 露わになったその顔は――

 思った通り、灰原悖理だった。

 

 しかし――


 以前見た、灰原さんとは決定的に違う部分がある。


「灰原っち、その目、どうしたの〜?」


 セイラが横目で問う。

 彼の目は“真っ赤”に染まり、縦長の獣のような瞳孔をしていた。

 彼はその瞳孔を細め、捕食者の笑みを浮かべる。


「今まで君たちの目の前にいた“灰原”は魔物だった。それだけさ」

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