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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第二章

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49話

「私もあの人は苦手かな〜」

「わかるわ〜」


 霞野さんの“嫌い”宣言にセイラと琴音はうんうんと頷いた。

 俺も正直、軽薄な言動だけではなく、灰原さんには何か底知れない怖さみたいなものを感じて苦手だ。


「ソフィは、アイツと絶対に二人きりになっちゃ、ダメだからね!」

「わかってるって」

「本当に〜?」

「ホントだって!」

 

 危機感がない。警戒感もない。

 そんなことばかりを言われる俺でも、灰原悖理から漂う危険な匂いはわかってるつもりだ。

 部屋から出る間際、視線を彼から外すその寸前――。


 彼は確かに飢えた肉食獣のような眼をしていたのだ。

 そして、その視線の先に居るのが自分かもしれない。


 そのことを考えると、冷たいものが肌を撫でるような感覚が這い上がってくる。


「それで、なんだけど、灰原の言っていた錦糸一家の倉庫?行くべきだと思う〜?」

「確認だけはしておくべきじゃない?胡散臭くてキモくても情報屋としては信用してもいいと思うし」

「わ、私も行くべきだと思います。ば、場所の確認とカメラとか仕掛けるポイントもみ、みたいので」

「ソフィは?」

「私も確認はしたほうがいいかなって」


 灰原悖理に対する評価は散々だったが、全員がお台場の方にある倉庫に行くことで一致した。


 「それじゃ、行こうか〜」というセイラの掛け声のもと、俺たちは移動を開始した。

 走って、ではなく。もちろん公共交通機関で!


 その後、電車に揺られ駅前で一度夕食を済ませたあと。

 俺たちはお台場の倉庫群へとやってきた。


 あたりはすでに夜の帳が下り、微かな潮の香りは鼻を掠める。

 遠く高速道路を走る車の音が聞こえるだけで人気はない。

 その中を無言でスマホで地図を眺めるセイラを先頭に歩く。

 時折、オレンジ色の街灯が俺たちの影を伸ばした。


「ここかな〜?」


 セイラが足を止めた。

 

「まーた、ボロボロね……」

「で、ですね……」

「こりゃまた酷い」


 俺たちの視線のその先には――

 トタン板を貼っただけで鉄板の屋根などに所々錆が浮いている年季を感じさせる倉庫があった。


「本当にここなの?」

「そのはずだけど〜」

 

 海から吹き込む風が剥がれかけたトタン板をバタバタと揺らす。

 それを俺たちは微妙な表情で見ていた。


 ――その時。


「あなたたち、何をしてるの?」


 唐突にかけられた声。

 それに全員で振り返って、小さく息を呑む。

 オレンジ色の街灯が、声をかけてきた人物の淡い金髪をうっすらと照らす。

 

 驚いたのは彼女の纏う衣装だ、ネイビー色のヘアバンドに、同じくネイビー色のコート、そして赤と白の差し色の入ったプリーツスカート。

 マギ管で見た資料の姿そのまま。

 エレナ・モーガン。


 現実味のない突然の遭遇だった。

 

「いや〜ちょっと探し物をしててね〜」


 セイラが平静を装い、相手に警戒されないように答えた。


「探し物?」

「そうなの〜あなたは魔法少女みたいだけど、何をしてるのかな〜?」

「私は……ただの巡回よ……」

「へぇ〜そうなの〜」

「とにかく、ここは危ないから離れた方がいい」


 ただ、会話をしているだけ。

 だが、独特な緊張感が場を満たしていた。


「何が危ないのかな〜?」

「ここら辺はよく魔物が出るから……」

「マギ管の魔物出現情報じゃ、この辺で魔物が出たことなんてなかったはずだけど……」


 琴音が“マギ管”という単語を出した瞬間だった。

 エレナの眼光が鋭くなり、彼女は腰のホルスターに手をかける。


「あなたたち……日本の魔法少女?」

「それを聞くってことはあなたは日本人じゃないよね〜?」

「私を……捕まえに来たの?」

「ち、違います!保護です!」

「どうせ、保護とか言ってアメリカに帰すだけでしょ……」

「それは違うよ〜」


 吐き捨てるように嫌悪を露わにするエレナにセイラが首を振る。


「あなたにはしっかりと罪を償って貰わないといけないからね〜」

「……罪?」

「そう、生きるためとはいえ、人殺しは良くないんじゃないかな〜って」

「人殺し?」

「とぼけないで、事件現場から“アンタの銃”の薬莢が見つかってんのよ!」


 琴音がビシッと指を突きつけた。

 まだ彼女の銃のものだとは断定はできないが琴音は揺さぶりをかけることにしたようだ。


「私は殺しなんてやってない!」

「それは後でゆっくり聞くからさ〜まずはマギ管においでよ〜あったかいご飯もあるよ〜?」


 そう言いながらセイラが一歩足を踏み出した時――


「近づくな!!!!」


 カーボンと内部機構が僅かに擦れる音が冷たく響く。

 エレナはホルスターから取り出した拳銃の銃口をこちらへ向けていた。


 俺は咄嗟にセイラの前に出て、魔眼を起動する。


「……落ち着いて、銃を下ろして、ね?」


 オレンジ色の光を反射して光る銃口がこちらを指向し心臓がドクリと跳ねる。

 それでも相手を刺激しないように努めて柔らかい声を出すようにした。


「本当に人を殺していないのなら、話を聞かせて貰えませんか?」

「あなた達に話すことなんて何もない……帰って」


 そう話す彼女の目は孤独と言葉で表すことのできない大きな苦痛を孕んでいるように見えた。

 そして――起動した魔眼があることを映し出す。


 銃口がほんの少しだけ震えている。


 銃器の扱いには慣れているはずの彼女の“本来”ならあり得ないだろう震え。

 その理由に思い当たった時、俺の胸の中に、ある一つの疑問が生まれた。


「あの、どうか話を聞かせてくれませんか?私たちがきっと力になれますから」


 その疑問を確かめるため、俺は、そう言って――

 エレナの方へ一歩、足を踏み出した。


 刹那。


 パンッ!!!!!


 火薬の乾いた音が倉庫街に反響し、俺の足元の地面が鋭く抉れ、白煙を上げた。


「近づくな!って言ってるの!次は鳩尾をぶち抜く!」


 まるで悲鳴のような彼女の脅し。

 それでも俺は“もう一歩”足を動かす。

 再び鼓膜を震わせる乾いた銃声が夜空に二回響いた。

 そして打ち出された弾丸は“魔眼が描いた軌道”をなぞって俺の足を掠めていった。


 俺はその後も視界の端で散る火花を意に介さずに徐々に彼女との距離を詰めていく。


「あなたには、きっと殺せない」


 そして俺はついに刀の間合いまでやってきた。

 それでも、魔眼は一度として俺が血を流す未来を見せなかった。

 ここまできたら、もう疑問は確信だ。


 ――彼女は殺しをやっていない。


「どうか、話してくれませんか?あなたにはきっと冤罪をかけられています」

「You are insane!!」


 何やら英語で叫ぶ彼女。

 多分俺への罵倒だろうが英語は苦手なので都合よく聞かなかったことにして、彼女に向けて右手を差し出した。


「手を取ってもらえませんか?」


 彼女の瞳が揺れ、銃口が徐々に下に降りていく。

 しかし――


「誰だ!うちのシマでチャカをぶっ放すバカは!!」


 倉庫の方から野太い怒号が響き渡った。

 それに気を取られた瞬間。


「あっ……」


 エレナは素早く踵を返して背中を向けて駆けていき、金色を揺らしながら夜に溶けていった。

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