48話
「私たちが知ってるのは、エレナっていう元米軍の魔法少女が裏社会の人間を相手に強盗殺人をやってる疑惑があるってことだけかな〜?」
「それで、その疑惑について調査に来たんです」
「なるほどね」
彼はふむふむと頷くと、一度瞼を閉じた。
そして、再び目を開けると鋭く冷たい眼光が俺たちを射抜いた。
「俺の調査じゃ……限りなく黒に近いかな?」
「根拠は〜?」
セイラが問いかけると、彼はゆっくりと人差し指を立てた。
「まず、今までで潰された暴力団は三つ、どれも金庫を強引にこじ開けられていて、組員は銃で撃たれてる」
「そ、それは、わ、私たちの方でも把握してます」
「だろうね、コレだけだと誰がやったかなんて分からない、それで次だ――」
彼は指を一本追加する。
そして、自らのポケットから小さなビニール袋を取り出して掲げる。
その袋の中に視線を向けると発射済の薬莢が一つ入っていた。
「何コレ?」
琴音が首を傾げ、俺たちもその薬莢がどうしたのだと顔を見合わせた。
「コレは事件現場に落ちてたものでね、M882、9mmパラベラム弾の空薬莢さ」
「9mm?パラ……なんて?」
「あ、アメリカ軍で、つ、使われている弾薬ですね」
「そういうこと、コイツは日本じゃ、まず出回らない」
なるほど。
米軍の弾が事件現場に落ちていたのなら、エレナが関与している可能性はかなり高そうだ。
「でも、なんでそれがアメリカ製ってわかんのよ?」
「刻印だよ」
彼はそう告げると、手袋をして袋の中から薬莢を取り出し、そのお尻の部分をこちらへ向けた。
確かに、数字や記号が刻印してあるのが見て取れる。
しかし、俺にはそれが何を意味しているのかはサッパリだ。
横を見れば琴音もそうだったのか首を傾げている。
「た、確かにこ、これはアメリカ製の9mm弾です」
「ドールちゃん、よくわかるね〜」
「い、いえ、弾薬は重要なヒント、な、なので、よく勉強してます」
「すご……」
刻印を見て、確かにアメリカ製だと言い当てた霞野さんに思わず感心してしまう。
それに、彼女は顔を真っ赤にして肩をギュッと縮めた。
「現場の弾痕や壁から抜き取った弾丸からも9mm弾だということは特定できてる」
「エレナが撃ったのはほぼ確定かな〜?」
「でも、元軍人が空薬莢を現場に置いていくなんて、なんか変じゃないですか?」
焦っていた、ということもあるかもしれないが……
でも、元アメリカ軍所属の子が焦って銃を撃って、発射した弾数を数えずに薬莢を回収し忘れる。
そんなことがあるのか?
「アメリカ製って一発でわかる弾を使っているなら発射した数を覚えて拾いそうじゃないです?」
「確かに変ね……」
「うーん、俺は落ちてたのを拾っただけだから、そこまではなんとも言えないけどね」
朝倉さんが自衛隊では弾薬の管理が厳重で薬莢を回収する必要があるなんて言っていたが……
「あ、アメリカでは、そ、そこまで厳密に数える習慣はないので、拾い忘れたのかも……」
「そうなんだ」
「は、はい」
霞野さんの説明に俺たちは揃ってふむふむと頷いた。
「まぁ、エレナが関与しているのは間違いなさそうかな〜?」
「そ、その、薬莢を詳しく調べれば、使用した銃は、と、特定できるかもしれないです」
「え⁉︎そんなことまでわかっちゃうの?」
霞野さんの発言に、俺は思わず目を見開いた。
「は、は、はい、薬莢についた薬室痕や撃針痕を照合して……」
薬莢についた跡……
霞野さんが弾薬は重要なヒントと言っていた意味がようやく腑に落ちた。
「そういうことなら、この薬莢は君に譲るよ、俺はそこまでは調べられないからね」
彼はそう言うと、薬莢をビニール袋に戻し、霞野さんに手渡した。
「は、は、はい、あ、りがとうございます」
「重要な物証をありがとうね〜」
「いやいや、こっちもこれ以上裏社会を荒らされちゃ困るんでね」
そう言いながら、彼はどこか裏がありそうな笑みを浮かべたのだった。
第一印象が悪く、裏社会の住人、その印象からどこか裏があるように見えているだけかもしれないけど。
どうしても胡散臭く感じてしまう。
「あとは、できれば彼女が次にどこを襲うかとか分かったらいいんだけど〜」
「そうだな〜この辺でまだ元気そうで資金繰りが良いのは……」
左上の天井あたりに視線を彷徨わせる彼をモニターの青白い光がぼんやりと照らす。
「“錦糸一家”かな〜、確か台場の方に倉庫を持っているからそこなら銃声も目立たないし、“獲物”には丁度いいだろうね」
「そっか〜ありがとうね〜」
「また聞きたいことがあれば、君たちならいつでも大歓迎だよ、特に――銀髪ちゃんは」
ぞわり。
彼はそう告げると全身を舐め回すようなねっとりした視線を俺に送る。
この人……全然反省してないじゃん……
気色の悪い視線にキッと反射的に睨み返し、セイラに続いて部屋を出ようとした――瞬間。
「その睨みつける表情もまた可愛くて、そそるわ〜」
そんな声が部屋の奥から鼓膜を揺らした。
部屋から薄暗い廊下へと出ると、琴音が俺の顔を覗き込み、背中をそっと撫でた。
「ソフィ、大丈夫?」
「な、何が?」
「何がってアイツ、ずっとアンタのことチラチラ見てたじゃないの!」
「ちょっと、露骨だったよね〜」
「そんなに見られてた?」
確かに胡散臭かったし最初と最後の俺に対する発言は気色悪いの一言に尽きるが……
そんなに見られていたのか?
こてっと首を傾げると、両隣から大きなため息が聞こえた。
「ホント、危機感ないわね……」
「この子、一人にするとダメな感じだね〜路地裏に引き摺り込まれちゃうんじゃない〜?」
「そんなの返り討ちにしてやりますよ!」
師匠である秋山さんから暴漢への対処法は嫌と言うほど教わったのだ。
そんなのどうにでもできるぞ!
そんな自信を滲ませて胸を張ってみたのだが――
二人は額に手を押し当てて首を横に振るばかり……
なんか余計に呆れかえられちゃったな。
その時。
「あ、あの!」
突然、霞野さんが珍しく大きな声をあげた。
「私、あの人、嫌いです……!」
雑居ビルから出た瞬間に響いた声に俺たちは振り返る。
そこには、いつも俯いている霞野さんが顔を上げ、確かな嫌悪感を滲ませていた。




