44話
魔法少女研修。
魔法少女として活動するにあたって、規則や報酬などのシステムを中心に教えてくれる講習だ。
その研修を終えた俺は琴音とマギ管の“中庭”に来ていた。
中央の大きな噴水を囲むように整然と植えられている様々な植物が目を惹く美しい庭園だ。
風に揺れる花々や木々から溢れる木漏れ日が異世界に来たような心境にさせる。
たまに、何の意図もなさげな竹が何故か植えられているのが空気を壊しているが。
そんな庭の中を歩いていくとやがて大きなガゼボが見えてきた。
中には大きな円卓があり、鴉羽理央が座っていた。
「二人とも来たわね」
「それで、わざわざこんなところ呼び出すなんて、なんか大事な話?」
「ええ」
タイタン戦以来会ってなかったのにいきなり大事な話があるのか……
そう思いながら、勧められるままに椅子に腰を下ろした。
「それじゃ、早速話していくのだけど……」
「あれ、白鷺さんは?」
三人しか居ないのに本題が切り出されたことに驚いて思わず声が出た。
「白鷺さんは瀬戸内に出張中よ、彼女は基本マギ管には居ないから、現場対応と指揮はほとんど私なの」
「なるほど」
大体いつも、遠くにいる白鷺さん。
本当に忙しいんだな。
ふと、俺は腰に差している大祓恒紘へと視線を落とす。
――忙しい中、この刀を俺に届けに来てくれた。
そのことに胸が熱くなる。
「それじゃ、改めて本題に入るわね……」
そう告げると鴉羽さんはテーブルの上で静かに腕を組んだ。
「難民魔法少女の問題って知ってる?」
「魔法少女を徴兵する国や魔物に対処できない国から日本に魔力適性のある難民が流入してきているってやつですよね?」
「そう、徴兵の恐れもなくて魔法戦力が充実している安全な日本に船や民間機を使って密航してくる問題ね」
「それがどうしたのよ?」
在留資格も入国審査も受けていない不法に入ってきた登録もされていない海外の魔法少女が事件を起こす。
最近よく耳にするニュースだ。
「その中でも手を焼いてるのが居て、警察からマギ管にお鉢が回って来たって訳」
凄い厄介そうな案件だな……
魔物じゃなくて人間の相手をしなくちゃいけないかもしれない。
そのことが何よりも胸に鉛をのせたように重くのしかかる。
「それで、どう手を焼いてるわけ?」
「“殺し”をやっている可能性があるわ」
鴉羽さんの言葉に俺と琴音は同時に息を飲んだ。
「裏社会の人間を殺して、財布や金庫を荒らす。そんな事件が最近多発してるのよ」
「ちょっとウチらには荷が重い気がするんだけど……」
「“捕まえてこい”とまで言うつもりはないわ」
人に向けて魔法を撃つ。
難民魔法少女問題の大きな問題の一つだ。
保護すべきか強制送還か、欧州でも度々議論の対象となるこの問題。
ある政治家の放った「自分の町に他国の戦車を放つようなものだ」という言葉は記憶に新しい。
「それで私たちに何をして欲しいわけ?」
「まずは事実関係の調査から始めるんだけど……」
「私たち調査向けじゃないわよ……」
二人とも頭を使うよりは体を使う方が得意だ。
殺人現場で証拠や手掛かりを見つけるのは難しいだろう。
なぜ俺たちに白羽の矢が立ったのか?
そう首を傾げる。
「あなたたち、最近自衛隊で武術を習っているそうじゃない」
「そうですけど……」
「対人戦闘のスキルがある魔法少女ってあんまりいないの、だから危険を伴う調査に“保険”としてついてきて欲しいのよ」
なるほど、俺たちは裏社会が絡む調査で不測の事態が発生した時の後ろ盾といったところか。
「身柄確保に向けた動きはまた考えるとして、調査隊の護衛は必要なの」
「わかりました」
「護衛ならまだやりようはあるわね!」
「それで、あなたたちと一緒に調査をするメンバーなんだけど……」
鴉羽さんがそう言った瞬間。
まるでタイミングを見計らったかのようにガゼボの入り口に人影が現れる。
「私たちだよ〜、ソフィアちゃんとのコラボ楽しみ〜」
背中まで届く緩やかなウェーブの茶髪に星を模した髪飾り。
入ってきたのはスターライトクイーンだった。
「彼女にはリスナーの情報網を使って配信を利用した調査をやってもらうつもりよ」
「よろしくね〜」
「ガーデンのNo.5が出るのに、護衛が要るんですか?」
「私たち近接戦は弱いの〜」
なるほど、白鷺さんも護衛向きじゃなさそうだし、鴉羽さんは参謀。
楽は……調査をかき乱しまくる絵面が想像できる。
そうなると垣守先輩くらいしか適任者が居ないのか……
垣守先輩めっちゃ苦労してそうだな。
心の中で先輩に手を合わせているとふと琴音が口を開いた。
「それでさっきから“私たち”って言ってるけど、一人しかいなくない?」
「いるよ〜恥ずかしがり屋のうさぎさんが」
スターライトクイーンが自分の背後をチラリと見る。
すると、彼女の背中からひょこっと目元の隈が目立つお下げ髪の少女が顔を出した。
「あ、あ、ああ、あのかか、か」
カタカタと壊れた人形のように震えながら言葉にならない音を発する少女。
その顔に俺も琴音も見覚えがあった。
「あ〜!あの時の幽霊!」
琴音が少女を指差して叫ぶ。
確かに先日、リーパーに襲われていた少女だ。
「ゆ、幽霊、じゃなくて、霞野ゆかりで、です。じゃなくて!ど、ドールマイスターで、です」
あの時、助けた少女がS級の魔法少女だったなんて。
衝撃のあまり俺と琴音は顔を見合わせたのだった。




