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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第二章

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43話

 ガーデンのコードNo.6ドールマイスターこと、霞野ゆかり。

 ヴォイド・タイタン戦では自らは姿を見せず人形だけを鴉羽理央の背後に連れ添わせていた。

 

 世間では引っ込み思案、影が薄いなどの印象を持たれがちな彼女。


 戦闘能力がある人形たちとは対照的に、本人は白鷺環以上に近接戦ができない。

 そのかわりとして、人形の数による物量戦や電波を“糸として見る”特異な力による情報収集能力に長けている。


 外に出ることは滅多にない、そんな彼女だが今日は週に何回かの家を出る日だった。


 小さな街灯が照らす夜の暗い路地をゆかりはゴミ袋を両手にぶら下げて歩いていく。


「どうせ、引きこもっているだけなんだから朝に捨てた方がいいとあれほど言ってるのに……」


 彼女の左腕に巻かれたサポートAIが呆れたようにぼやいた。


「だって、朝に行くと近所の人と会うかもしれないし……」

「そんな理由で夜に捨てに行くとは……」


 やがて、ゴミ捨て場に到着し、そそくさとカップ麺空だらけの袋とお菓子の空袋ばかりが詰まった袋をドサっと捨て置いた。

 

 ――その時。


 ゴミ捨て場を温度のない白で照らしている照明が作る影が揺らめいた。


「マスター、魔物です。――恐らくリーパーかと」

「うそ……」


 ちょっとゴミ捨てに行くだけ、そんな油断もあり人形は連れてきていない。

 今から呼び寄せて間に合うだろうか……


 そう思いながら、ゆかりは恐怖で顔を引きつらせ周囲を見回す。

 ステルスしているリーパーを見つけるにはサーモグラフィーで周囲に比べて温度の低いところを探すしかない。


 最近見つかった対策らしいがサーモグラフィーなんて持っている訳がない。


 ――とにかく、家まで逃げよう……


 そう決めて、脇目も振らず駆け出した瞬間。


 運動不足が祟ったのか、足がもつれて、そのまま地面に倒れ込んでしまう。

 アスファルトに手をつき、打ちつけた膝から鈍い痛みが駆け抜けた。

 リーパーが――その隙を見逃すはずもなかった。


 地面に這い蹲る格好で歯をカチカチと震わせるゆかり。

 その背後から、黒いフードと大きな鎌を持った異形が闇を纏いながらにじり出る。


「まずい!早く逃げて!」


サポートAIの声に反射的に後ろを振り返ったゆかりは顔を真っ青にして叫ぶ。


「い、いやぁ!来ないで!!!」


 そんな声が魔物に届くはずもない。

 闇夜の中、街灯に怪しく照らし出された大鎌が鈍く光った――その時。


 リーパーの背後から首元をめがけて銀色が一筋走った。

 そして、目の前の獲物に夢中だったリーパーは反応する間もなく首を斬り飛ばされた。


「助かった……?」


 首を失ったリーパーが溶けていく背後。

 ゆかりは暗闇から現れた自分を助けてくれた人を見て言葉を失った。


 照明に照らされた銀色の髪がキラキラと舞い赤く光る左眼には魔法陣が浮かび上がる。

 紺色の軍装風のコートドレスに胸元には赤いリボンが風の揺らされて踊っている。


 彼女は美しい所作で刀を収めるとゆかりの方へと歩み寄ってくる。


「大丈夫ですか?」

「あっひゃいっ」


 まるで人形のように整った顔を持つ彼女。

 確か、月城ソフィアだったか。


 ゆかりは彼女の名前を思い出し夜の妖精のような彼女の瞳に見惚れた。


 ――綺麗。 


 そんな感想を思い浮かべていると、彼女の赤い瞳は深い青へと変わり優しく弧を描く。


「怪我とかないですか?」


 こちらを気遣うように微笑みを浮かべる彼女に胸が締め付けられる。

 顔に熱が集まっていくのを感じながらゆかりは慌てて言葉を返した。


「は、はいっ大丈夫でしゅ……」


        * * *


 毎週の恒例行事になりつつある朝霞駐屯地での秋山さんの指導。


 その帰り道、電車に揺られていた俺は思わず声を漏らした。


「リーパーだ」

「え?」


 窓越しに見えた小さな路地。

 そこに怪しげな光を放つ大鎌が一瞬見えた。


 気のせいかもしれない。

 だが、もし本当にリーパーが居たのなら見逃す訳にはいかない。


 そう思った俺は次の駅で電車を飛び出した。


「ちょっと待ちなさいって!」


 住宅地の真ん中にある小さな駅の階段に差し掛かったところで背後から琴音の声が飛ぶ。

 俺は急ぐように動かしていた足をとめて後ろを振り返る。


「リーパーが居たのね?」

「たぶん、一瞬それっぽいのが見えただけだから気のせいかもしれないけど……」

「アンタの眼、どんだけ良いのよ……」

 

 琴音はそう漏らすと小さく息を吐いて、表情キリリ引き締め、戦闘モードへと切り替えた。


「わかったわ、行きましょ」

「うん」


 互いに頷き合うと、階段を駆け上がり、早足で改札口へと向かったのだった。


 周りに住宅地が広がる駅前に出た俺は“カチリ”と魔眼を起動。

 背中の魔法少女管理機構の文字が入ったケースから大祓恒紘を取り出して腰のベルトに差した。

 そして周囲に視線を走らせながらさっき大鎌を見た方向へ駆け出した。


「いた……!」


 細い路地の向こう側、照明に照らされたゴミ捨て場に温度の冷たい場所がある。

 同時にゴミを捨てている女の子の人影も見えた。


 ――間に合え。


 そう思いながら速度を上げる。

 リーパーに気がついたのか少女は咄嗟に逃げ出そうとして転倒した。

 

 無防備な姿を晒す彼女に致命の一撃を与えようとリーパーが実体化した。


 俺は一気に間合いに飛び込む。

 そして刀を抜き放ち、その勢いに乗せたまま横一閃。

 何度も秋山さんの動きを見て、模倣し続けた技は綺麗にリーパーの首を捉える。


 紙でも斬ったかのような手応えが腕を駆け抜け、刃が抜けるのと同時にリーパーの首が宙を舞った。


 ――間に合ってよかった。


 彼女を怖がらせないように刀を納め、柔らかい表情を浮かべるように意識する。


「大丈夫ですか?」

「あっひゃい」


 噛んだことが恥ずかしいのかポカンとした顔でこちらを見る黒髪のおさげ髪の少女。

 街灯に照らされる彼女の顔には隈が浮かんでいる。


「怪我とかないですか?」


 噛んだことは気にしていない。

 魔眼を解除し、そう相手に伝われればいいと微笑みを浮かべる。

 

「は、はいっ大丈夫でしゅ」


 また噛んだ彼女は頬を真っ赤に染め、それを隠すように両手で顔を覆う。

 そこへ遅れて琴音もやってきた。


「……私の仕事はもうない感じ?」

「そうだな」

「アンタ……」


 俯いて震える琴音。

 一人で先走るなと怒られちゃうかな?

 そう思った瞬間、明るい声が響いた。


「一人で楽々とリーパーを倒すなんてやるじゃない!」

「まぁ、背中をこっちに向けてたしな……」


 油断していたところを不意打ちしただけ。

 もし正面からやりあっていたのならもう少し厳しい戦いになったはずだ。


 それでも以前の俺なら、背後からの一撃でさえ致命を狙うのは至難の技だった。


 秋山さんの指導が確実に身についている。

 

 それを確認するには良いタイミングだった。


「あれ?あのお下げの女の子は?」


 琴音の言葉に俺も周囲へ視線を走らせる。


 ――いつの間にか、居ない……


「あれ?どこに行ったんだ?」


 まるで神隠しにあったかのように音もなく消えた彼女。

 何か他のステルス系の魔物に巻き込まれてしまったのだろうか?


 そう首を傾げていると、突如右腕を“ガシッ”と掴まれる。


 驚いて視線をやると琴音がぶら下がるように俺の右腕を抱きしめている。


「ゆ、幽霊よ!幽霊!幽霊だったのよ!!!」

「いやいやいや、落ち着けって!」

「無理無理、私怖いの無理ー!」

「リーパーは平気だっただろう⁉︎」

「あれはただの魔物じゃん!」


 リーパーも十分、ホラーの要件を満たしていると思うのだが……

 それよりも、さっきから琴音がぎゅっと俺の腕を抱え込む。

 そのせいで、柔らかいものが俺の右腕に押し付けられていて――


 俺の方も色々ピンチだ。


「と、とにかくもう少し探してみよう」


 それから半泣きの琴音を右腕にぶら下げたまましばらく辺りを探したのだが……


 ――どこにも彼女の姿はなかった。

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