41話
誤字脱字報告ありがとうございます。
「あの伝説のS級魔法少女、朝倉澪さんとも友達だなんて、どんな人脈してんだよ、優」
ファンクラブ騒動で散々振り回された数日後の土曜日。
俺は翔太と琴音と一緒に電車に揺られていた。
――向かう先は陸上自衛隊朝霞駐屯地だ。
刀を使いこなすために古武道とか居合の達人で師事できないか……
朝倉さんにそう相談したところ自衛隊のOBで武術の指導をしている達人がいると紹介を受けたのだ。
しかし自衛官でもない俺が教えを乞うのは難しいだろう。
そう思っていたのだが。
白鷺さんが掛け合ってくれて特例で指導しても良いと返事をもらうことができた。
「ホントにあんた、いつあの朝倉澪とそんなに仲良くなったのよ……」
女の子一人で駐屯地まで来るのは不安もあるだろう。
琴音と翔太はそんな“配慮”をしてもらった結果同行してくれた付き添いだ。
「朝倉さんとはマギ管で出会った時にMINE交換したんだよ」
朝倉さんは意外と、かなりのメール魔だった。
おはよう、おやすみは毎日来るし、声が聞きたいと夜に電話が来ることもある。
友達になろうと言ったのは俺だしこちらから距離を少しずつ詰めていこう。
そう思っていたのだが。
最近は朝倉さんの方からグイグイときて俺の方がたじたじだ。
「あー、あの時ね、てっきり喧嘩でもしてるのかと思ってた」
「なんでだよ……」
「そういえば、あのソフィアファンクラブはどうなったの?」
「学校で優を守るのに使えそうだしそのままにしたわ」
「告白の行列ができかねないもんね〜」
女の子のガワを被った中身男のやつにそんな行列できるか?
――翔太が特殊すぎただけじゃないか。
そう首を傾げていると、両隣から同時にため息が聞こえた。
「本人もこの調子だし、ある程度統制が取れるようにした方がいいかなって思って」
「そうね……」
「ガワが女の子なだけで中身は俺のままだぞ、そんなヤツに……」
「ガワが可愛いすぎるのが問題なの!」
琴音が電車内で両手を腰に当てて目を吊り上げる。
「大体、あんた気付いてないかもしれないけど仕草とかもだいぶ女の子になってるわよ!」
「え?マジで?」
「マジマジ、椅子の座り方とか足開いてないし、しっかりと“女子”してるぞ」
何故、そんな事に……
完全に無意識だったのだが。
夢で神崎結月に憑依した時の影響なのだろうか。
そんな事を考えているうちに電車は目的の駅へ到着した。
改札を抜けしばらくすると、広大な敷地を持つ駐屯地の門が見えてくる。
門の入り口では朝倉さんが待ってくれていた。
こちらから手を振ると朝倉さんも小さく控えめに手を振り返してくれる。
「久しぶり、ソフィ」
「ここ最近毎日話してましたけどね……」
「うわっ、マジで本人だ……」
「ここが対魔特殊作戦群の居る朝霞駐屯地、デッカいわねぇ〜」
三者三様の反応を示しつつ、朝倉さんの案内で駐屯地の中へと入る。
「それで、その“武道の達人”ってどんな人なんです?」
「剣道8段の段位保持者で古流の居合や剣術も修めている方よ」
「すごっ」
そんな人から手解きを受けさせてもらえるなんて……
胸の高まりを抑えきれないまま貸し出してもらった稽古着に着替えて道場に足を踏み入れた。
「む?来たか……」
――坊主頭の稽古着の上からでも鍛え上げられた肉体がよくわかる人が仁王立ちしている。
「はじめまして、月城ソフィアですよろしくお願いします」
「格闘術特別指導官、秋山清だ」
眼光は鋭く、固く結ばれた口元は“サムライ”という言葉がピタリと当てはまる。
佇まいだけで空気が張り詰め、ただ者ではないというオーラさえ見える。
――これほどの威圧感だ、厳しい稽古になるのは間違いない。
そう覚悟した、瞬間。
秋山さんの表情がにへらーっという音が聞こえそうなほど崩れた。
だらしなく口角が上がり、目元はニヤニヤと笑っている。
「どんなゴリラ女が来るのかと思ったらこんな別嬪なお嬢さんだとはな〜、いや役得!」
突如、今までの威圧感が霧散して親戚のおじさんのような雰囲気に変わる秋山さん。
俺は口をポカンと開けて固まった。
「どんな表情をしていてもめんこいね〜こりゃ、うちの若い衆が大騒ぎするぞ」
「秋山教官……」
「お、おぉ、すまない、早速稽古を始めようか、刀の使い方を修練したいので合ってたかな?」
「はい、お願いします」
秋山さんに向かって一礼をして顔を上げる。
すると自衛官らしき人たちが窓から道場を覗き込んでいるのが見えた。
「めっちゃ可愛いじゃねぇか、秋山教官ずっりぃ〜」
「鬼の秋山があんな顔してんのはじめて見たぞ……」
「天使……」
そんなささやきが聞こえてくる。
「おい!お前ら!覗き見は感心せんぞ!次の訓練は覚悟しておけ!!」
秋山さんの雷のような怒声が道場に響き渡る。
思わず肩がビクッと跳ねてしまう。
それに気付いた秋山さんはすぐに怒りを引っ込めるとまた、にへらーっと笑顔を浮かべる。
「すまないね、驚かせてしまったかな?」
「い、いえ大丈夫です」
「それじゃ、始めようか」
そう言うと秋山さんは今度は研ぎ澄まされた、“武人”の雰囲気を再び纏ったのだった。




