40話
ライセンス申請が受理され、俺はB級の“魔法少女アイリス”としてスタートを切った。
ちなみにいきなりB級なのはリーパー討伐や横浜の活躍を考慮してのことらしい。
――白鷺さんから受け取った刀を使いこなすために何ができるか……
そんなことを考えながら眠りについた。
次の日。
――俺は学校の机にいわゆる“ボッチスタイル”と呼ばれる姿勢で突っ伏していた。
横浜にS級の魔物が出現し交通インフラが麻痺。
その結果臨時休校となっていた学校に3日ぶりに揚々と登校した。
スターライトクイーンの配信に載ってしまっていたしそれなりに反響があるかもしれない。
そう覚悟はしていた。
――していたのだが
『1年A組水谷翔太ッ!僕は今ここに!ソフィアさんを見守る会の結成を高らかに宣言します!!』
朝、教室に入った瞬間に校内に響き渡った放送に立ち尽くす。
『我らの使命はただ一つ!ソフィアさんの心休まる日常を守ること!』
『故にここにソフィアさんとの接し方三箇条を定める。
一.抜け駆け厳禁。
二.お触り厳禁。
三.会話厳禁。』
『会員メンバーはこの三箇条を厳守すること!』
――なにをやってんだ翔太。
俺のボッチ化を加速させたいとかしか思えない嫌がらせのような団体だ。
でもこんな阿呆すぎる団体に所属して青春を浪費したい人なんていないだろう。
そう思った矢先……
翔太の放送が終わると同時に教室に男子たちの歓声と西条さんや小日向さんを筆頭とした女子の拍手が教室の中に響き渡る。
「よっ!会長!」
「ソフィアちゃんへの愛を叫びたい……」
「机や身の回りを綺麗にしてあげるのは大丈夫なんだよね?」
どうしてこうなった。
俺は目眩がしそうになりながらそのまま机に突っ伏した。
なんで俺だけがこんな目に遭ってるんだ……
あの日、琴音だって配信に映っていたはずだろう……。
机に突っ伏したまま、もぞりと顔を動かし、琴音の方を見る。
「チェキは一枚4000円だから」
「ふッ!ふふっもうっ柊木さんったら相変わらずだね〜」
「で?写真は勿論撮るのよね?」
「4000円もするなら要らないかなー」
クラスの女子たちに囲まれていつも通り真ん中で笑っている……
「値下げしてもいいわよ!!」
「300円なら考えるけど…」
「やっす……」
琴音は友人たちに囲まれて相変わらずのクラスの人気者。
それに対して俺はソフィアさんを見守る会とかいう狂ったカルトの御神体。
山間部の人たちからこれと同様かそれ以上に祭り上げられてる白鷺さんよりはマシか……?
そう自分を慰めるしかない。
俺の友人リストに魔法少女以外の人が加わる日は来るのだろうか……
そう途方に暮れていると、教室の扉が勢いよく開き翔太が入ってきた。
拍手や歓喜で出迎えられた翔太はこちらを見てドヤ顔で親指をサムズアップする
月城さんの日常は守りましたよ!そんな副音声が聞こえてきそうだ。
――守るどころか俺の友達大作戦の弊害でしかない。
コイツをなんとかせねば……
そう思った俺は衝動のままに立ち上がる。
突然立ち上がった俺に周囲の視線が集まるがそんなことを気にしている場合ではない。
そのまま翔太の正面まで歩み寄る。
「水谷くん、ちょっといい?」
「はいっ!な、なんですか?」
俺が話かけた瞬間、ビシッと直立不動になり、顔を赤らめる翔太。
正直、親友のこの表情はきもい。
「放課後、お話できないかなって」
「えっ!それって……」
「おい会長!抜け駆けは禁止じゃないのか⁉︎」
「ソフィアさん、その男はダメよ……」
俺が告白でもすると勘違いしたのか、蕩けた顔でもじもじと体をくねらせる翔太。
「抜け駆けも会話もダメだが、ソフィアさんからのアプローチは問題なしだ!」
「いや、告白するとは言ってないんですけど……」
「ちょっと、ソフィ、何やってるの?」
その後、呆れた顔の琴音に場を収めてもらい翔太とは放課後会う約束をして自分の席へと戻った。
授業中、チラチラとこちらを向き時折ウインクをしてくる翔太。
眉間にタブレットを叩き込んでやりたい。
そんな時間を耐え抜いて、ようやく放課後になった。
約束の場所である中庭にあるベンチに向かうとすでに翔太が待っていた。
「あぁ、ソフィアさん、本当に来てくれるなんて……」
翔太はベンチから立ち上がると弾けるような笑顔で駆け寄ってきた。
「それで、話って?」
「そのことなんだけど……」
「いや、待って、こういうのは男の俺の方から言うもんだろ?」
あのファンクラブ、解散してくれないか?そう言おうと思ったが、遮られてしまう。
翔太は俺とまっすぐ視線を合わせると大きく息を吐いて唾を飲み込む。
「俺、ソフィアさんの魔法少女として戦う姿を見て素敵だな、って思って……それで……」
これ以上、しゃべらせると俺と翔太の友情に決定的な亀裂が入る。
そう思った俺は両手を突き出して翔太の口を塞ぎにかかる。
「俺、ソフィアさんのこと、すっ、ブボッ」
「待った、待った、待ってくれ」
こうなったら正体を明かして男相手に告白をかまそうとしていることを認識してもらうしかない。
「実はソフィアは月城優なんだよ!」
「ん?どういうこと?」
首を傾げて固まる翔太。
俺は魔力適性検査の日から何があったのかを一つ一つ説明していく。
――やがて全てを理解した翔太は浜辺に打ち上げられたクラゲのようにべちゃりと地面に這いつくばった。
「優相手にガチ恋勢に……こんな角の折れ方はハジメテ……」
「知らんがな……」
勝手にユニコーンになって勝手にファンクラブを作って勝手に折れた。
――自業自得だろ。
「まぁ優とまたこうして話せてよかった……か?」
無理矢理自分を納得させる方向でいくらしい。
まぁ、何にせよ翔太とは再び元の関係でやっていけそうだ。
「ファンクラブ、解散しとけよ……」
「それは無理!」




