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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第一章

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37話

 状況的に“クロリス”とは白鷺さんのことなのだろう。

 何故だかは分からないが彼女を視認した途端に攻撃が中止された。


「さっすがリーダー、現れるだけで自衛隊すらも恐怖で黙らせるなんてな!」

「ボクを攻撃することはこの国への反逆みたいものだからね」

「いや、重すぎでしょ……」


 冗談なのか本気なのかよくわからないトーンの白鷺さんに琴音がツッコミを入れる。

 

「月城さんも柊木さんもお疲れ様、キミたちのお陰で被害は最小限だ」

「別に……楽勝よ!」

「あとは任せましたよ……」

 

 そんなやりとりをしている間にも、垣守先輩の盾に業を煮やしたのか。

 タイタンは両手で手当たり次第に物を投げ込みながらこちらへ迫ってくる。

 

「さて、ここからはボクたちの出番だね」


 ビルの窓に石礫が飛び込み煙が上がる。

 タイタンは至近距離で衝撃波を直接お見舞いすることにしたのだろう。


 山下公園の横でこちらへ左腕伸ばした。


 ――刹那。


「ようこそ、ボクの庭へ」


 白鷺さんが、鷹のような鋭い眼光でその巨体を射抜いた。


「ヴェルデ・サンクチュアリ」


 その瞬間、街路樹や公園の木々が唸りをあげて一斉に伸びあがり、タイタンに緑の奔流が殺到する。

 タイタンはそれを衝撃波で撃退しようとする。


 しかし、抉られた木々は瞬く間に再生し、幹と蔦がタイタンに絡みつき四肢を縛りつける。

 

 圧倒的な物量と力に押されたタイタンは地に叩き伏せられ公園の中へと引き摺り込まれていく。


 仰向けで地面に縫い付けられるタイタンの周りには色とりどりの花が咲き誇り、その光景は巨人の終焉を飾る墓場のようだ。


「みんな、トドメは任せたよ」


 白鷺さんは静かにそう告げるが、みんな一様に微妙な表情を浮かべている。

 垣守先輩が一歩前に出た。


「タイタンは再生能力があるのでコアをどうするか考えた方が……」

「とりあえず、タコ殴りでいいんじゃないかい?」

「ははっ、いいね!」


 楽が獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべる。


「シンプルで分かりやすいじゃねぇか!」

「せんぱいはもうちょっと考えたほうがいいけどね〜」

「的は動かないんだから、全力を叩き込んで頂戴」


 鴉羽さんの号令に合わせて、楽とスターライトクイーンセイラ、そして垣守先輩が配置につく。


「鴉羽さんは行かないんですか?」

「白鷺さんが私に求めるのは火力じゃないのよ」

「そうなんですね」


 足りないところを補い合う。

 そう掲げる白鷺さんの理念だと鴉羽さんはまさに参謀役なのだろう。

 そんなことを考えていると、突然、楽の持っている棍棒が公園の木々と同じくらいの高さに巨大化した。


「まずはオレ様から行かせてもらうぜ!」


 天を衝くように聳える棍棒から、白いオーラが煙のように立ち昇る。

 両手を空に突き出し棍棒を支える楽は背筋が凍るほどの獰猛な笑みが浮かんでいた。


「くらいやがれッ!!!天砕轟槌ッ!!!!!!」


 振り下ろされた棍棒は巨人の無防備な腹を直撃。

 耳を裂くような轟音と爆風が俺たちの肌を粟立たせる。

 

 棍棒が当たったところから衝撃が走り巨人の青白い肉体が弾け飛んだ。

 

「よーし次は私の番!」


 遠くでずっと詠唱をしていたスターライトクイーンが声を上げる。


「天翔る流星よ、我が求めに応じよ!

我が求めるは、常夜を打ち払う新星の矛、

炸裂せよ――ボーライド・ノヴァ!」


 ――次の瞬間。


 夜空を切り裂き、昼間のように街を照らしながら大きな火球が飛来する。

 

「ちょっと、これ洒落にならないんじゃないの⁉︎」


 琴音が目を剥き、俺も空を仰ぎ見て言葉を失った。


 公園が丸ごと消し飛ぶんじゃないかと思わせるほどの火球。


 巻き込まれる……!


 そう思った瞬間、火球は大地を震わせるほどの轟音を立てて炸裂。

 無数の流星群が夜空を迸り、光の雨となってタイタンに降り注いだ。


 次々と着弾した隕石は再生しつつあったタイタンの肉体を次々と穿ち、爆炎と衝撃波が波のように押し寄せてくる。


 公園の外も無事では済まないのでは?


 そう思えるほどの大火力だったが、垣守先輩の掲げる盾が完全に爆風を凌いでいた。


 タイタンは四肢をバラバラにされ最早、原型を留めていいない。

 それでも、四方に飛び散ったタイタンの肉体は再び集まろうと蠢いていた。


「月城さん」

「は、はい⁉︎」


 その様子をただ唖然と眺めていると、白鷺さんが鋭く前を見据えたまま話しかけてきた。


「魔眼を使用して、コアの位置を探れないかい?」

「やってみます」


 言われるままに“カチリ”と魔眼を起動する。

 限界が近いのか微かな頭痛がする中、視線を公園の至る所に走らせる。


 見つけた――。


 公園内の至る所に飛び散った青い飛沫に一つだけ魔力が異常に濃いものがある。

 そしてその中には――


 赤い結晶が視えた。


「あれがコアだと思います!」


 俺はその場所を指差し声を上げた。


「灯華!」

「了解!」


 白鷺さんが鋭い声をあげ、垣守先輩が即座に反応。

 彼女は隕石の雨を突き抜けるようにコアを目掛けて駆け出した。


「クライァヴ・モール!!」


 垣守先輩が握る剣と盾が合体し、外枠刃が展開して一振りの大剣を作り出した。


「ジャッジメント・ブレイカー!!」


 そして――振り下ろされた斬撃が、衝撃波となりコアを真っ二つに切り裂いた。


 その瞬間。

 白鷺さんの声が静かに響く。


『これがボクたちマギ管のやり方さ、朝倉さんの背負うものを少し分けてもらうには足りないだろうか?』


 白鷺さんが無線越しそう告げるのと同時に、周囲に飛び散った青白い断片が蒸発していく。


「勝った……」


 琴音の小さな歓喜がクレーターだらけになった夜の公園に木霊した。

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