4話
家に帰ると、朝あれだけ「お兄ちゃんに魔法適性があるかも!」と騒いでいた晴香は、すっかりその話に興味を失った様子だった。
兄の“リザルト”になど目もくれず、リビングのソファにうつ伏せになって雑誌を広げている。
表紙には『スタークイーン・セイラ大特集』の文字。
晴香は雑誌に夢中のまま、目線もくれずローテンションで「お兄ちゃんおかえりー」とだけ言ってくれた。
魔法適性検査であんなことがあったので正直、今の俺には妹の”いつも通りの様子“が心を温めてくれた。
晴香はその後の夕食でも兄の魔法適性のことを思い出す事はなく、いつもの平和な家族団欒の食卓がそこにあった。
俺も今日の出来事をどう伝えたら良いのかと考えているうちに布団に潜りぼんやりと天井を見上げていた。
――家族はいつも通り。
でも、自分が魔法適性検査で異常があったかも、などと言い出せば、この日常は壊れるかもしれない。
世界初の男性魔法適性持ちなんてことになれば、高校生の自分が想像する以上にこの先の困難は計り知れないものだろう。
そう考えると気持ちが落ち着かず、寝返りを打つたびにピピピッという機械音と“マギ管のお姉さん”の驚愕した顔がフラッシュバックする。
布団に入ってから何時間が経っただろう――
明日も学校だし、とにかく今日は忘れて寝よう――そう考えるうちに意識はうっすらと闇へ溶けていった。
気がつくと俺は高層ビルの立ち並ぶ見知らぬ街にいた。
建物の看板や道路標識には英語が書いてある。
これは“夢”だ。
そう認識できる夢のことを明晰夢というのだったか。
そんな事を考えていたとき、ふと街の様子が”ただごと“ではないことに気づいた。
遠くで悲鳴が上がり、それを皮切りに一気に音が洪水のように流れて情報として入ってくる。
――まるで熊のような大きさの凶暴な赤い目をしたネズミが人を食べている。
「な、なんだこれ」
- [x] 腑を食べられ、臓物をさらされたまま、大きな穴のあいた”人だったもの“があちこちに散乱している。
吐き気を催すような地獄が広がっている。
――逃げないと。
そう思った時には、俺は誰に助けを求めればいいのか、どこに向かえば良いのかも分からず、ただ必死に駆け出していた。
子供の必死の泣き声や逃げ惑う人の阿鼻叫喚を聞きながら、やがて石レンガでできたような地下鉄の駅らしきものが見えてきた、その時だった。
突然けたたましいサイレンが鳴り響き、街頭ビジョンに映るニュースキャスターの女性が必死に 「Evacuate now! This city is a nuclear target.」と叫んでいる。
「核攻撃の標的?一体何がどうなって……」
あまりの悪夢に早く目が覚めてくれと祈るような気持ちで空を眺める。
するとそこには一筋の線が流れていた。
そして俺の視界は真っ白に染まった――




