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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第一章

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35話

山下公園を目指して、移動を開始した俺たち。

 そのすぐ後ろで地面を揺らし、道中にあるものを手当たり次第にこちらに投げつけてくるタイタン。

 

「徐々に近づかれてる!」

「山下公園に着く前に追いつかれるぞ、これ」


 白鷺さんから頼まれた誘導は歩幅が圧倒的に違うせいであっという間に距離を詰められつつあった。

 このままじゃ衝撃波の射程に入ってしまうし距離が近いせいで回避にも余裕がなくなりつつある。


 ――神崎結月ならどうしただろう。


「琴音!さっきのブレイズクロスってまた使えるのか?」

「接近する気⁉︎ 私たちの仕事は討伐じゃなくて誘導でしょ!」

「わかってる、それで使えるのか?」

「使えるけど……」


 琴音のその返答を聞いて俺は、閉じていた魔眼をもう一度起動する。

 

 ――数秒先、赤く変色したタイタンが脳裏に走った。


「くる!」


 俺は、飛来した標識が切り落とした電線のゴムの残っている被覆部分を掴み、魔力を流す。

 それと同時に琴音の手を握り、青白く発光した電線が急速に縮み始める。


 その刹那――


 縮んだ電線はカタパルトのように俺たちを空へと射出した。


「きゃあああああ!」

 ゴォっと風を切る音と風圧が全身にかかり、急速にタイタンと距離が開いていく。


「琴音!着地は頼んだ!」

「うそでしょ!!!!」


 空中で顔を歪め必死に魔力を迸らせる琴音。

 そして地面が目の前に広がった瞬間に二筋の炎の線が交差する。


「ブレイズクロス!!」


 地面に叩きつけられる寸前で激しい爆風が俺たちの体を押し戻す。

 そのまま横に弾かれ俺たちは咄嗟に受け身をとった。


「随分なハードランディングになっちゃったな」


 思わずそう漏らす俺を琴音がギロリと睨む


「なーにが、ハードランディングよ!!!」

「距離は取れただろ?」


 タイタンの方を振り向くと同時に、髪を揺らす程度の衝撃波が走る。


「……それはそうだけど、もっとマシな方法なかったの?」

「ないからこうなった」

「……はぁ、もういいわ」


 タイタンはこちらへの興味を失うことはなく、確実に追ってきている。

 

「これを繰り返せば、なんとかならないか?」

「本気……?」


 琴音が青ざめた顔をしているが、安全に誘導するにはこれしかない。

 神崎結月の記憶も力をくれているし、魔眼もまだ使える。


 衝撃波の射程圏まで引き寄せて、電線を使って逃げる。

 

 ――これで行ける。


 そう思った時だった。


「何か様子がおかしいわよ」

「え?」


 タイタンが右の手のひらをこちらに向け突き出していた。


「なんだ?」


 背筋に冷たいものが走り、反射的に魔眼を起動する。


「まずい、避けろ!琴音!!」


 その刹那――


 タイタンから放たれた衝撃波が街を襲う。

 轟音とともに舞い上がった砂埃が道路を砕きながら一直線にこちらに向かってくる。


 慌てて横に飛ぶが間に合わず、吹き飛ばされる。


「かはっ……」


 地面を転がり、ビルの壁に叩きつけられ崩れ落ちてしまう。

 結月の時と似たような痛みに起き上がることができない。


「優!!」


 琴音の慌てた声に顔を上げた瞬間――

 

 巨人が投げた信号機が視界を埋めていた。


 ――まずい。


 その瞬間、眼前まで迫った信号機の前に黒い影が躍り出る。


「オレ様参上っと〜!!」


 八十年前に活躍した有名なメジャーリーガーのようなスイングで信号機を棍棒で打ち返す彼女。

 綺麗な放物線を描いた信号機が巨人に迫る。


タイタンはそれを右手で打ち払い、みなとみらいの観覧車に直撃。

 悲鳴のような鉄骨が砕ける音が響き渡った。


「チッ……」

「遅刻だぞ、楽」


 俺は黒のノースリーブにショートパンツ、黒いマントを揺らす猪頭楽に声をかける。


「ダチの危機だ、これでも急いできたんだぜ!」


 ニカっと気持ちの良い笑みを浮かべる楽につられて俺も思わず口元が緩む。


「も〜、せ〜んぱ〜い、街壊さないでよ〜」

「オレ様じゃねぇよ!!」


 楽の後ろからガーデンのコードNo.5スターライトクイーンが茶色の髪を揺らしながら顔を覗かせる。


「はじめましてかな〜?自己紹介してる暇はないしこれだけは言っておくね」

「なんでしょう?」

「どうせ、アレでしょ……」


 スターライトクイーンの視線がこちらを鋭く射抜く。

 琴音は何かを察しているようだが、俺にはさっぱりだ。


「二人とも撮影はOK?もうカメラ回ってるけど」

「はぁ……」

「え?」


 気付けば、彼女の周りには撮影用のドローンがふよふよと浮かんでいる。

 

「コメント欄はここね〜、ほら皆んな挨拶して〜」


 彼女の右腕のサポートAIからは空中ディスプレイが立ち上がる。

 そこを覗き込むと色んな文字が爆速で流れていた。


【かわいい】

【美少女キター】

【もしかしてリーパーの子か?】

【こんにちは〜彼氏いますかー?】


 こんな感じのコメントばかりで口元が引き攣る。


「おーい、仮にも戦闘中だぞ、敵に集中しろ!」


 楽の呼びかけに我に帰り慌てて意識をタイタンに戻す。

すると、タイタンはまたこちらに向けて右手を突き出していた。


「あれ〜?なんか、まずい感じ〜?」

「またくるわよ、みんな避けて!」

「さっき見えた土煙ってこれかよ!」


 颯爽と助けに来たのはいいけど、慌てふためく二人……

 何か対処はできないか。

 そう考えていると、金属同士がぶつかる音を響かせながらもう一つ人影がやってきた。


「もう!二人とも!タンク役を置いて突っ走るなっての!!」

「垣守先輩!タイタンの攻撃が来る!」


 走ってきたのは聖騎士といった言葉が似合いそうな鎧を纏った赤髪の少女。

 ガーデンのコードNo.3スカーレットナイトこと、垣守先輩だった。

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