25話
白鷺環と偶然学校で出会った翌日。
俺は琴音と垣守先輩の最近よく一緒にお昼を食べるメンバーで中庭にきていた。
約束を交わしたわけではない。
でも彼女は――「明日もここにいる」
そう言っていた。
急に屋上ではなく中庭で食べようと言い出した。
そんな俺を不審がる琴音と垣守先輩を背に目当ての人影を探す。
――いた。
まるで静謐を纏うかのように佇む彼女はこちらに気づくと小さく微笑みを浮かべる。
「今日は一人じゃないんだね」
「ちゃんと友達がいるんです」
目的の一つだった“ぼっち”という印象は払拭できただろうか。
白鷺さんの表情を窺っていると横で垣守先輩が「なるほどね」と呟く。
そして琴音は大きく目を見開いた。
「え〜!!!なんでここに白s、ん!ん〜!!」
「ちょっと、そんな大きな声出さないでよ」
琴音が大きな声を出した瞬間、垣守先輩が慌ててその口を塞ぐ。
白鷺さんはクスッと笑みをこぼすとまた、スマホを取り出し指を素早く動かした。
すぐに矢島緑地開発と胸に刺繍された作業着を着た人たちが現れ、手際よくシートを広げてくれる。
「さぁ、座ると良い」
「白鷺環とご飯ってマジ?もっとオシャレなランチ持ってくれば良かった……」
「あなた、またカップ麺?」
琴音は“デカ麺”とか書かれたパッケージの大きなカップ麺を取り出す。
安価でお腹を膨らませてくれることに定評のある学生の強い味方だ。
「若い女の子がカップ麺ばかりとは、よくないね」
白鷺さんはそう諌めながら“深川めし”と印刷された駅弁の蓋を開ける。
――この人県外の仕事とか関係なく駅弁が好きなだけなのでは?
「白鷺さんも、それはちょっとイメージ崩れるんだけど」
琴音も俺と同じことを思ったのか、すでに半分ほど消失した深川めしにじとりとした視線を送る。
そんな琴音を横目に白鷺さんはミルクコーヒーで深川めしを流しこむ。
「アサリは鉄分とビタミンが豊富だし戦う者としてはベストな選択なんだ」
「琴音……」
お前も戦う者だよな……?
そんな視線をカップ麺と深川めしに往復させる。
すると垣守先輩が苦笑と一緒に息をもらす。
「なんか理屈っぽいこと言ってるけど白鷺さんはただ駅弁が好きなだけよ……」
「灯華は相変わらず手厳しいね」
「垣守先輩と白鷺さんは知り合いなんですか?」
俺がそう尋ねると、琴音がからかうような笑みを浮かべてこちらを覗き込む。
――ほっぺを潰して顔を鷲掴みにしてやりたい。
「灯華はガーデンの一員さ」
「……えぇ⁉︎」
「気づいてなかったの?」
――確かにガーデンのコードNo.3に赤髪の垣守先輩に似てる人がいたような……
「マギ管特認コードホルダー、コードNo.3 スカーレットナイトよ」
「リーパーを倒したあと気絶しているキミを救助したのも彼女さ」
毎朝、会っていて最近は一緒にお昼を食べている垣守先輩がS級……
雷に打たれたかのように思考が真っ白になり瞬きすら忘れてしまう。
マギ管でも上位のS級が二人にA級の魔法少女が一人。
――今、この中庭は世界で一番安全なのでは?
「ソフィってホント鈍感よね〜」
琴音が小馬鹿にしたような笑みを浮かべて俺を見上げる。
これ以上この話を続けるとストレスが溜まりそうなので、話を戻そう。
「えっと、それで白鷺さんはどうして駅弁が好きなんですか?」
「ん?あぁ、魔法少女として日本中を動くからよく食べるんだよ」
「出張ってヤツ?いいなぁ〜海外とかは行かないの?」
白鷺さんの表情から突如笑みが消える。
一瞬の沈黙の後。
「海外には行けない」
「なんで?」
「飛行機に乗れないんだ」
「なにそれ?高所恐怖症?離陸する時にプルプル震えてんの?ひゃはっ……ぶべらっ!!」
白鷺さんにまでニヤリとした笑みを向ける琴音の頭に垣守先輩の手刀が炸裂した。
ドスっと鈍い音が響く。
「何すんのよ!」
きゃんきゃんと喚く琴音を無視し、何事もなかったように玉子焼きを口に運ぶ垣守先輩。
俺も心の中で垣守先輩に親指を立てた、その時――
ピピピッ……ピピピッ
無機質な電子音が連続する。
今どきのスマホの初期設定の方が情緒のある音を奏でるだろう。
そう思わせるほどに、時代に置いて行かれていると感じる着信音だ。
「誰?こんな無味無臭の着信音にわざわざ設定してる人」
琴音の疑いの視線が俺たちに順番に降り注ぐ。
そして、ポケットに手を突っ込んだのは白鷺さんだった。




