18話
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九重先生についていき、俺はまた訓練室へとやってきた。
前回と同じように計測機器を取り付け決められた位置に立つ。
「再測定の目的は三つだ」
「三つですか?」
「魔眼の能力、持続時間、生体負荷、この3つを確認する」
先生は一つ一つ指を折りながら告げると、一度息を吐き出した。
「だが、まずは魔眼を制御することからだ」
「制御?」
「起動してまた倒れられては困る」
つまり、魔眼を発動し、意識的に閉じることを身につけてほしいみたいだ。
「発動はできると思うんですけど、閉じ方がよくわかんなくて……」
前回の能力測定でもリーパーを倒した時でも発動自体はできた。
だが閉じることに意識が向く前に倒れてしまった。
「ふむ」と呟いた先生は顎に指を添えて冷たい瞳を伏せる。
「再現条件を揃える。まずはリーパー戦と同じ状況で起動だ」
「閉じるのは……?」
「方法はおおよそ検討がついている」
鉄パイプの代わりなのか、訓練室の横に置いてあった剣を手渡される。
――いや、科学者の口から出る“おおよそ”ほど怖いものはない。
多分いける、ぐらいの感覚で魔眼を起動させようとしている気がする。
「どうした?」
先生はすでに起動を待っているのか、俺と距離とっていた。
あの苦痛をまた味わうのは勘弁願いたいが先生を信じるしかない。
俺は、琴音を守った時と同じように、手渡された剣を握る右手と左眼に意識を集中させる。
カチリ――と歯車が噛み合う音が頭の中に響き、服があの時と同じ軍服ワンピースへと変わっていく。
同時に頭の中に膨大な情報が流れ込んできた。
「それで、閉じ方はどうするんですか?」
「まずは目を閉じろ、次に、左眼に意識を向け魔力を感知しろ」
言われた通りに目を閉じて、視界を遮断する。
内側で脈動しコポコポと音を立て湧き出る源泉のようなものに意識を集中させた。
「イメージしろ、君の内を流れる魔力、その流路にある水門を閉じる感覚だ」
「はい」
心臓の鼓動と共に流れ出る力を水門で堰き止めるように抑えていく。
呼吸が少しずつ落ち着きを取り戻すのが分かる。
「目を開けていい」
「うわっ」
目を開けると、視界にドアップで先生の顔が映り、思わず仰け反る。
「成功だ」
一瞬目を瞬かせたが、確かに“見えているもの以外”の情報は脳に入ってきていない。
見下ろせば服装も病室で着ていたTシャツと短パンに戻っている。
――倒れずに済んだみたいだ。
強張っていた力が抜け、俺は、いつのまにか握りしめていた拳を開いた。
それから何度か起動と終了を繰り返し、感覚を自分に刷り込んでいく。
「制御は確認した、検証に移る、再起動してくれ」
検証のために再び魔眼を起動する。
上階の観測室もガラス越しに科学者たちが慌ただしくなるのが見える。
俺が見えているものを伝えて先生が淡々と記録する――そんなやりとりを何回か繰り返した頃。
「検証の一環だ、その剣を適当に振ってみろ」
手に持ってからずっと、青白い光を放ち、複雑な模様を浮かべている剣が気になったみたいだ。
言われるままに振り下ろすと刃先が強く閃き、素振りにしては重たい感覚が腕に伝わってきた。
――その刹那。
ザンッ、という空気が裂けるような音と共に斬撃のようなものが飛び訓練室の壁を切り裂いた。
「な、なんじゃこりゃ⁉︎」
俺が叫ぶなか、先生は驚いた様子もなく傷の入った壁を冷静に観察する。
「やはりか」
「やはり、って斬撃が飛ぶのをわかっててやらせたんですか⁉︎」
説明もなしに剣を振れと言ってきたのかと背筋が寒くなる。
せめて“何か起こる”くらいは言って欲しい……
「詳細は読めなかったが魔力が得物に干渉する可能性は考慮していた」
「で、これはどういうことなんですか?」
相変わらずの調子の先生にため息まじりでさっきの斬撃について問いかける。
すると、先生は端末で魔眼のデータを振り返りながら答えた。
「まず、魔眼使用時に見られる脳への情報の過集中――その状態でなお、君が倒れなかった理由から説明しよう」
「変身できたから、とかじゃないんですか?」
あの着るには心理的ハードルの高い軍服ワンピースに秘密があるのかと思っていた。
しかし、違うらしい。
黙って首を振る先生に目を瞬かせる。
「要因ではあるが本質ではない」
「と、いうと?」
「変身状態において身体能力の著しい向上を確認できた」
つまり――俺は魔眼の起動と同時に変身をして、身体能力を強化しているらしい。
その結果、脳の処理能力が上がって魔眼を通して入ってくる情報を捌くことができるようになったみたいだ。
先生が言うには変身時に身体能力が上がること自体は珍しいことではないらしい。
むしろ魔眼と身体能力強化の両方に魔力を割いているため、消耗が激しいみたいだ。
「ただ、普通の魔法少女は変身時に自分の武器を召喚するのが一般的だ」
「武器ですか?」
確かに琴音は剣を二本出していたし、動画で見る魔法少女も代名詞と言える武器が存在する。
俺の場合は……魔眼が武器なのか?
「君の場合は握った得物を即座に自らの固有武器とすることができる」
なるほど、青白い光と模様は俺の魔力が流れて固有武器になった証みたいなもの――そう思った瞬間。
轟音と共に訓練室の扉が吹き飛んだ。
「オレ様参上〜!!!っと」
突然の出来事に肩を跳ね上げ、音のした方へと視線を向ける。
そこにいたのは黒髪のベリーショートにギザ歯を覗かせ、棍棒を肩に担いだワイルドな印象を抱かせる少女――
ガーデンのコードNo.4、ブレイキンブレイカーが立っていた。