閑話1-1
魔法少女管理機構――通称マギ管。
2年前に設立されたばかりのこの機関は、魔物退治と安全保障の面で大きな注目を集めている。
“魔法先進国”、他の国からそう言われるだけの数多の特徴的な設備と研究チームが在籍している。
その中でこの機関を最も象徴するとされるのが――中庭だ。
自然界には存在しない、星のように光る草花など大小様々な植物が庭園を彩っている。
マギ管のS級魔法少女、コードNo.1“クロリス”こと白鷺環が整備したものだ。
その中庭の中央にある大きな円卓にショートボブの黒髪を揺らす少女がいた。
彼女――コードNo.2鴉羽理央は氷のような瞳をテーブルの一部へ向ける。
「まだ、ゴミが付いてる……」
彼女はアルコールスプレーを噴射し椅子を一脚念入りに拭く。
そこに“星河学園の制服”を着た少女が特徴的な鮮やかな赤髪を揺らしながら入ってきた。
「鴉羽さん、相変わらずですね……」
コードNo.3“魔法少女スカーレットナイト”として活動している垣守灯華だ。
「これは、今日一番大事なタスクなのよ」
鴉羽は灯華に視線を向けることなく、ゴミなど見当たらない椅子をひたすらに拭く。
灯華がそれを半目で見つめていると、遠くの方から騒がしい声がやってくる。
「せんぱ〜い、いい加減そのダッサイ棍棒、庭に持ち込むのやめてくんなーい?」
「うっせーな、これはオレ様の相棒なんだよ」
言い争いをしながら庭に入ってきたのは二人。
ベリーショートの黒髪にキザ歯をのぞかせ、棍棒を担ぐ――コードNo.4“魔法少女ブレイキンブレイカー”、猪頭楽。
茶色のゆるふわロングにばっちりメイクを決めた――コードNo.5 “魔法少女スターライトクイーン”、天羽星空。
魔法少女配信者の元祖にして登録者数300万人のチャンネルAsteLiveを運営している。
「ちょっと二人とも、喧嘩はやめてもらっていい?」
椅子にしか関心を向けてなかった鴉羽が顔をあげ、仲裁に入った。
「あなたたちの汚い飛沫が飛ぶじゃないの」
「りおちは平常運転だねー」
「チッ」
鴉羽以外のメンバーは円卓を囲むように座っていく。
六脚ある椅子のうち四脚が埋まった。
「みんな集まったかい?」
透き通るような声とともに少女が腰まで届く絹糸のような金髪を揺らす小柄な少女が現れる。
純白のワンピース型の制服に、セーラー風のケープ。胸元の青いリボンが中庭の光に照らされる。
その少女の姿をみた瞬間、鴉羽の冷たい表情は一変、宝石のように輝き頬を赤く染める。
「白鷺さん……!」
庭に集まることから、”ガーデン“と呼ばれるマギ管のS級魔法少女たちを束ねるリーダー。
白鷺環は鴉羽の勧めた席に座った。
「それじゃ、定例会を始めようか」
「いや、待ってくれ」
猪頭楽が待ったをかける。
「人形使いがまだ来てねぇんじゃないか?」
「彼女ならそこにいるじゃないか」
「あ?」
楽は、怪訝な顔をして、白鷺が視線で指し示す方を見た。
「ご、ごめんな……さ……ぃ、私……影……薄くて」
目元の隈が目立つ黒髪のお下げの少女――コードNo.6魔法少女”ドールマイスター“霞野ゆかり。
彼女は震えながら俯き、服の袖から出る銀糸が彼女の震えに合わせてかすかに揺れる。
その存在感は確かにそこに居るのに、視界から擦り抜けるようだった。
「あ、居たのか、悪りぃ……」
楽は気まずそうに額をかき、視線を逸らす。
「それじゃ改めて、定例会を始めよう、理央」
「はい――」
円卓の上では最近の国際情勢や難民の魔法少女などの問題が共有されていく。
「では次に最近確認された――”魔眼“についてです」
「灯華が助けたあの子のことだね」
「私も知ってるよ〜、ステルスしてるリーパーを倒したとかでめっちゃバズってんの〜」
星空は、にやりと笑いスマホの画面を全員に見せる。
「へぇ〜……すっげぇ、どうやってわかったんだ?」
「詳細はこれから検証することになるでしょう」
「何かボクらとは違うモノが見えているってところかな?」
画面の中、何もない空間に鉄パイプをフルスイングする少女。その異様な光景に全員が息を飲む。
「ステルスを見破る能力なのでしょうか?」
「チート能力ってやつ〜?」
「そんなにチートか?」
「私が救助に駆けつけた時には、既に意識を失っていたわ」
「能力の持続性に難があるみたいだね」
円卓は今まで話した議題の中で一番の盛り上がりを見せる。
「そんでコイツは今、A級かなにかか?」
「将来、7人目のS級になってたりして〜」
新戦力の登場に湧き立つ二人。
鴉羽はこめかみを指で抑えながら首を振る。
「それが、まだライセンスすら発行されてないそうです……」
「あぁ?」
「え……じゃあ、まだ一般人?」
マギ管に魔法適性者として登録されているだけの存在。
その事実に二人は視線を下げる。
楽はしばらく俯いた後、勢いよく顔を上げる。
「うっし!!じゃ、オレ様が説得してきてやる!」
「ちょっとせんぱい、まだ会議中だって〜!」
椅子の脚が地面を引っかく音が中庭に響き、立ち上がった楽は、庭の外へ飛び出す。
そして、それを追いかけるように星空も駆け出していく。
残された四人は苦笑ともため息ともつかない顔を交わす。
「大きな騒ぎにならないと良いんだが……」
「ですね……」
白鷺がそう呟き、灯華がため息をこぼす。
二人がいなくなったことで定例会は解散となった。




