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緋眼のアイリス  作者: 惰浪景
第一章

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17話

四散した黒い布が消え、リーパーの魔力も霧のように薄れた。

 長い息を吐き出し、強張っていた肩の力も抜け、俺は倒れたままの琴音へ駆け寄った。


「琴音、大丈夫か?」


 埃と血にまみれている琴音をそっと抱き起こす。

 魔眼で平熱なことを確認し琴音の胸元へ視線を向ける。

 琴音は呼吸と共に胸を上下に揺らし、かすかに瞼を震わせる。


「……優?」


 掠れた声が返ってきて、背中に張り詰めていたものがふっと解ける。


「よかった、すぐに救急車を呼ぶからな」


 制服のポケットからスマホを取り出そうとして――制服を着ていないことに気付く。

 慌てて自分の体を見下ろす。

 すると胸元に深紅のリボンが見え、濃紺の軍服風のワンピースが足元に広がっていた。


「な、なんだこれ?」


 スマホはどこに行ったんだ、と慌てて自分の服をまさぐる。

 上着の金色のボタンを外し、胸ポケットや腰のポーチを見るがどこに見当たらない。


 ひとまず、他の人の助けを借りるべきか?


 そう思い当たり、視線を周囲に向けた――その時だった。


 左眼を刺すような激痛が走り、周りの景色が遠ざかる。

 脳の奥で脈打つような痛みが鼓動と同じリズムでこめかみを叩き、頭を抱えて蹲る。


「ぁ……くっ……」

「優?……大丈夫?」


 琴音の声が揺らいで聞こえる。

 脳がショートするような焼けつく痛みに視界が黒く塗り潰されていく。

 最後に見えたのはこちらに手を伸ばす琴音の姿だった。

 視界が暗転し、誰かの足音がして、意識がふっと途切れた。


           ***


 ――気がつくと、白いシーツに包まれていた。

 また倒れてしまったか。

 病室のベッドに寝転んだ状態で視線だけを動かす。

 処置は終わったのか、体に繋がる管らしいものは見当たらない。


 琴音は大丈夫か?

 

 体を起こそうとしたとき、病室の扉が静かに開く。

 九重先生が足音もなく入ってくる。


「起きたようだな、吐き気・頭痛・視覚異常はあるか?」

「あ、はい、大丈夫です」


 それを受け先生は小さく頷く。


「そうか。では次に、柊木琴音の件だ。彼女は既に回復し、現在は検査中だ。」


 胸の奥の緊張がほどけ、息を吐き「良かった」と言葉が溢れた。


「では本題だ、君の魔眼について、発動状態のまま戦闘し、リーパーを討伐したとの報告がある。事実か?」

「……はい、間違いないと思います」


 先生は短く沈黙し、右手で顎を触りながら思考を巡らせる。


「市中の映像では、君が不可視状態のリーパーを正確に捉えている。感知の原理は?」

「魔眼を使うと、周囲の温度がだいたいわかるんですが、リーパーのいる所は温度が低かったんです」

「なに?」


 それから先生に質問攻めにされ、魔眼を通して見たリーパーの特徴を共有した。

 先生はリーパーの情報を端末へと入力していく。


「これで充分だ、直ちにマギ管全体に共有する」

 

 なんか凄い大ごとになってないか?――そんなことを思っていると病室の扉を開いて琴音が飛び込んできた。


「ステルスしているリーパーを倒すなんて、アンタ、凄いじゃない!!!」


 スマホの画面を突き出される。

 『銀髪魔法少女さん、透明な魔物に鉄パイプをフルスイングで直撃させてて草生える。


#透明チート無効化』

 

 SNSの画面にはそうコメントが書かれ、濃紺の軍服ワンピースに白いフリルを覗かせた“俺”がツカツカ歩く。

 歩行者信号機の下で立ち止まり――鉄パイプをフルスイング。

 銃を発砲したような強烈な音が流れ、一瞬映った黒いフードの魔物が粉々に四散する。


 そんな映像が流れて、14万いいねが付いている。


「俺、バズってる……」

「そうなの!もう凄いのよ!」


 琴音はスマホを操作し、掲示板のような画面を俺に見せる。


 『【速報】銀髪美少女、何もない空間にフルスイング→爆発→勝利w』


 そんなスレがいくつも乱立している。

 俺、普通に学校に行って大丈夫なのか?

 身元が特定されそうで怖い。


 マギ管でなんとか情報操作はできないか?そう思い立ち、先生に視線を送る。

 先生は短く俺を一瞥し淡々と告げた。


「体調に問題は無さそうだ、能力の測定を再実施する、訓練室まで同行してもらう」

「いや、その前に身元の特定とかのリスクが……」

「ん?」


 先生は難しい顔で琴音のスマホを覗きこむと、すぐに元の姿勢に戻った。


「ネット上の反響は私の管轄ではない。今は魔眼の特性を正確に把握するのが先決だ。訓練室へ」


 あとで、香坂さんでも探そう……

 そう思いながら俺は引きずられるように、先生の後へ続いたのだった。

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