13話
マギ管本部に行き、月城ソフィアとなって二日が経った。
俺は、好奇の視線を浴びながら校門をくぐり、優の時から通っている――星河学園に登校していた。
濃紺のジャンパースカートに白いブラウス。胸元には淡い水色のリボンが揺れ、近所でも可愛いと評判の制服。
まさか自分が着ることになるとは思わなかったが。
スカートのひらひらに感じる心許なさにはしばらく慣れそうにない。
一週間前後も欠席になるのは良くないと、マギ管が裏で色々手を回してくれたらしい。
そのおかげもあって、女性になってから僅か3日で転校生として、学業に復帰することができた。
本音を言えばもうちょっと休みたかったが。
観察役の琴音と職員室に行き、優の頃に担任だった先生に挨拶を済ませる。
そこでマギ管が用意した俺たちの“設定”についても再確認が行われた。
――月城ソフィアは、日本人とロシア人のハーフで日本で暮らすのは初めて。
――柊木琴音は、日本で居住経験がある。
二人ともロシアの同じ学校の出身でロシアの魔法少女徴兵制度を恐れて日本に移住してきた。――という筋書きだ。
「月城さんは日本のことがわからないだろうし、柊木さんがフォローできるように隣にするからな」
何のために用意した経歴なんだろう?
そう思っていたが、琴音が自然に観察できるようにするための口実だったみたいだ。
そして担任のあとをついていき1-Bと書かれた教室へと向かい、廊下で待機する。
どんな反応をされるのか、という不安が胸の中に湧き出し静かに溜まっていく。
今まで通り男子と関わるのは難しいだろう。
かといって、女子のコミュニティに入るのはハードルが高すぎる。
想像しただけで胃が痛くなる。
ふと琴音の方を見ると、「スパシーバ……ウラー……」と小声でブツブツと呟いていた。
――不安に加えて頭痛の原因もできそうだ。
「入ってきていいぞー」
担任の合図に唾を一度飲み込み、扉を開けて教室に入る。
相変わらず元気そうな翔太を横目でみてほっとしつつ、クラス全員の視線を肌で感じながら琴音のあとに黒板に名前を書く。
「柊木琴音よ!ハラショー!!」
琴音が持ってきたシベリア寒気団で教室の空気が一瞬で凍る。
それに気付かない琴音はやり切った顔で次はお前だと顎をしゃくる。
全員の視線がやけに突き刺さるのを感じる。
「……月城ソフィアです、よろしくおねがいします」
そう言ってぺこり、と頭を下げたあと、用意されていた翔太の後ろの席へと腰を下ろす。
翔太とはまた仲良くやりたいものだ。
そんなことを考えている間に、ホームルームが終わり、周りに一気に人が集まる。
転校生恒例の質問攻めタイムかと身構える。
あちこちから「好きな食べ物は?」「どこから来たの?」と口火を切られそうな気配がする。
だが琴音が間に入り、手をひらひらと振った。
「ソフィはまだ日本に慣れてないから質問は私を通してちょうだい!」
やがて授業が始まり、転校生に湧き立つ教室は徐々に日常へと戻っていった。




