12話
柊木琴音、彼女とは幼稚園時代からの幼馴染だ。
昔は毎日のように遊んでいたが小学4年生の時に関西へと引っ越した。
それから何年も会っていなかったが、なぜかうちの制服を着た琴音の姿は小さい頃の面影を確かに残している。
「久しぶりね、優」
「どうしてここに?」
俺が尋ねると彼女は、ドヤ顔を披露する。
そして昔と同じ仕草で、黒いリストバンドをした左手で髪を払った。
「それはね〜」
「以降の説明は私がします」
ドヤ顔で説明をしようとした琴音を、先生が遮る。
琴音が先生を睨み「私が説明したかったのに〜」と足を踏み鳴らす。
「彼女は、マギ管オペレーションセンターが指名した君の観察担当の魔法少女です」
「琴音が、魔法少女?」
疑わしげに琴音を見やる。
俺と目があった琴音は、膨らませていた頬をしぼませて、またドヤ顔になる。
「そうよ!マギ管専用AI端末を支給された、立派なA級魔法少女、“クレセントムーン”なんだから!」
琴音は病室で高らかにポーズを決めながら、そう宣言した。
そして、左手のカーボンっぽい質感の黒いリストバンドを胸の位置まで持ってくる。
マギ管専用AI端末とは、魔法少女として正式に活動を許可され、ライセンスの支給を受けた人のみが着用できるデバイスだ。
「おう、新入り!僕は、琴音のサポートAIの“ラトス”だぞ、よろしくな」
黒いリストバンドは、青い光を点滅させながら自己紹介した。
父が「この人で大丈夫なのか?」と小声で呟く。
――すごく不安だ。
この人選、本気ですか……?と先生を見る。
「オペセンによる選定だ、私は関与していない」
どういう基準で選ばれたのだろう。
「カッコいい!本物の魔法少女だ〜!」
横で急に熱を帯びた声を上げたのは魔法少女ファンの晴香だった。
晴香は琴音の元まで勢いよく近寄り、握手を求めている。
――収集がつかなくなってきた。
「クレセントムーン、彼女に庭を案内するといい」
「え⁉︎マギ管の庭ですか!」
「今の時間帯なら、ガーデンの面々は不在だ」
先生は場を乱しまくる二人を追い出すことにしたらしい。
ガーデンの呼称の由来ともなった白鷺環の庭に行ける。
そのことに晴香はさらに鼻息を荒くして、琴音は私、庭に入れるの、とか自慢げに言いながら出ていった。
“台風一過”そんな心持ちでいると、みんなそうだったのか、全員が息を漏らした。
「月城優くんの新たな身分について説明します」
先生は指でメガネの位置を直し、何事もなかったように説明を再開した。
そして、新しい身分証を差し出してきた。
「“月城ソフィア”?」
身分証の氏名の欄にはそう書いてある。
いつの間に名前が決まったんだ?と首を傾げる。
「可愛い名前でしょう?頑張って考えたのよ」
母がそう言って、父が隣でうんうん頷いている。
どうやら、俺が居ない間に魔力適応特別身分制度の適用申請は終わっていたみたいだ。
生まれてからずっと一緒にあった月城優という名前に、名残り惜しさはある。
男に戻りたい気持ちもある。
でも、どんな姿でも“ありのままの俺”を受け入れてくれる家族が居る。
今はそれで充分だ。
――でも
「ソフィアはちょっとかわいすぎない?」
「えー、本人がこれだけ可愛いんだからいいでしょう?」
「そんなこと言っちゃダメだぞ、優」
そこから、また嵐が襲来し、また場が乱れだした。
その後、九重先生にもう少し今後の説明を受けたあと、俺たち家族はマギ管を後にしたのだった。




