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第6話:語られし痛みと記憶の継承者

朝焼けが、崩れかけた塔の外壁を淡く染めていた。

戦いの余波が空間に残り、記憶の結晶は静かに揺れている。

語る者たちは、言葉を失っていた。

それは勝利ではなく、痛みの解放だった。

イリスは、手の中に握りしめた結晶を見つめていた。

それは、彼女の兄――カイルが残した最後の記憶。

かつて彼女が封じ、語ることを拒んだ声だった。

「……語っても、いいですか?」

彼女の声は震えていた。

だが、その瞳には確かな決意が宿っていた。

レイヴンは頷いた。

「語ることは、痛みを引き受けること。

でも、それは誰かを生かすことでもある。」

ミラは静かに祈りの杖を掲げ、フィオナは矢を下ろした。

空間は、語られる準備を整えていた。

イリスは結晶を《メモリア・コア》に嵌める。

青白い光が広がり、空間が震えた。

そして、記憶が流れ込んでくる。


カイルの記憶:語られぬ戦場

炎が空を覆い、地面は焦げ、煙が視界を奪っていた。

それは、王国が「浄化作戦」と呼んだ戦場。

だが実際には、語られぬ者たちを排除するための粛清だった。

剣が交差し、叫びが響く。

兵士たちは命令に従い、感情を捨てて刃を振るう。

だがその中に、ただ一人、命令に背いた男がいた。

カイル。

王国の精鋭部隊に所属しながら、彼は語られぬ者たちの声を聞いてしまった。

その声は、痛みだった。

その声は、祈りだった。

その声は、誰にも届かない叫びだった。

「彼らは、ただ語られなかっただけだ。

痛みも、誇りも、誰かに届かなかっただけだ。」

カイルは剣を抜き、王国の兵に背を向けた。

彼の前に立つのは、逃げ場を失った村人たち。

その瞳には恐怖と諦めが宿っていた。

「俺が、語る。

俺が、守る。」

彼は一人、炎の中へと踏み込んだ。

王国の兵たちが彼を“裏切り者”と呼び、刃を向ける。

だがカイルの剣は迷いなく、彼の盾は誰かの命を守るために振るわれた。

仲間を庇い、彼は深手を負う。

血が地面に落ち、炎が彼の外套を焼く。

だがその瞳は、最後まで揺るがなかった。

「イリス……もし俺が戻らなかったら……俺の声を、誰かに届けてくれ。」

その言葉が、記憶の中に残された最後の響きだった。

彼は倒れた。

だがその姿は、王国の記録には残されなかった。

彼の名は削除され、彼の行動は“存在しなかった者”として封印された。

語られぬ者を守った者が、語られぬ者となった。


空間の記憶が静かに閉じる。

イリスは膝をつき、震える手で結晶を抱きしめた。

「兄は……確かに、そこにいた。

誰かのために、命を懸けた。

なのに、誰にも語られなかった。」

ミラがそっと手を握る。

「祈りは、語られることで力になる。

あなたの祈りは、もう届いている。」

フィオナは矢筒を背負い直し、静かに目を閉じる。

「語る者が増えれば、沈黙は破れる。

それが、私たちの戦い。」

レイヴンは剣の柄に結晶を嵌め、静かに言った。

「ならば、俺たちが語る。

彼の痛みも、誇りも、命も。

語る者として、彼を生かす。」

そして、語る者たちは立ち上がる。

語られぬ者の声を背負い、王国の記憶の中枢へと向かう旅が始まる。


王都への決意

セリウスが地図を広げる。

「王都にある《記憶の根源》を解放すれば、語られぬ者たちの声が世界に届く。

だが、それは王国との全面対立を意味する。」

レイヴンは迷わなかった。

「語ることを恐れていたら、誰も救えない。

俺たちは、語る者として進む。」

イリスは仮面を手にし、それを砕いた。

「私はもう、沈黙の管理者じゃない。

語る者として、兄の声を届ける。」

ミラは祈りの杖を握り直す。

フィオナは弓を背負い、空を見上げる。

語る者たちは歩き出す。

その背には、語られぬ者たちの声が宿っていた。

そして、遠く離れた廃都の片隅で、影――カゲは静かに立ち上がる。

彼の記憶もまた、語られる時を待っていた。

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