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「影と呼ばれた英雄、その名を継ぐ者たち」  作者: じろう


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第13話:秩序か、声か

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記録塔の最上層――《記憶の大聖堂》。 壁一面に並ぶのは、改竄された記録の数々。勝利の歌、奇跡の物語、英雄の名。だがその背後には、削ぎ落とされた痛みと、語られなかった声が沈黙のまま封じられていた。


枢機卿は玉座のような石椅子に腰掛け、目を閉じていた。 壁の隙間から漏れ出す声が、彼の耳をかすかに打つ。


「……私は知っている。記憶は応えたがる。だが、それを許せば秩序は崩れる。ならば、私は沈黙を選ぶ。」


その独白に、傍らに立つルシエルの胸が揺れた。 彼はまだ若い記録官。だが、すでに「後継者」として枢機卿の傍に置かれている。


「枢機卿様……」

ルシエルは一歩進み出る。

「記憶は……素材ではありません。私は、声を聞いてしまったのです。削られたはずの声が、泣いているのを。」


枢機卿の瞼がゆっくりと開かれる。 その眼差しは冷たくも、どこか痛みを宿していた。


「ルシエル。お前はまだ若い。記憶を“素材”と呼ぶことに抵抗があるのだろう。だが、感情を残せば秩序は乱れる。泣き声は毒だ。毒を封じることこそ、我らの務めだ。」


「……ですが、その毒を抱えて生きる者もいるのです。私は《スヴァルの環》の波動を感じました。沈黙の中で、声が確かに息づいているのを。」


枢機卿の眉がわずかに動いた。

「……愚かだ。沈黙は守られるべきものだ。だが、語る者たちはそれを裂こうとしている。」


ルシエルは拳を握りしめた。

「裂くのではありません。応えるのです。沈黙に宿る声に。」


一瞬、二人の間に沈黙が落ちた。

大聖堂の壁から、封じられた声がかすかに漏れ出す。

それは、枢機卿自身がかつて切り捨てた声の残響だった。

枢機卿もまた、その声を聞いていた。だが、意図的に無視していた。


枢機卿は低く呟いた。

「……ならば試すがいい。秩序の三柱――《眼》《舌》《鎖》。三柱こそ秩序の刃。お前に貸し与える。率いて、語る者たちを狩れ。」


枢機卿の言葉と同時に、大聖堂の奥で鎖の軋む音が響いた。

壁に映る三つの影が揺らぎ、祈りの残響が機械音声に混じって漏れ出す。

――《眼》《舌》《鎖》。

それは人ではなく、祈りを喰らい、人の面影を失いかけた半機械の残骸だった。


ルシエルの胸に重い影が落ちる。

「……私が、三柱を……?」

声は震え、喉が詰まる。

背筋を冷たいものが走り、足元の石床が遠く感じられた。


「そうだ。お前は秩序の後継者だ。だが――もしその心が揺らぐならば、秩序はお前をも切り捨てるだろう。」


ルシエルは答えられなかった。

ただ、壁の奥から漏れる声が、彼の耳に届いていた。

――「忘れないで」


その声は、枢機卿には届かず、ただルシエルの胸を震わせていた。



夜が明ける頃、霧はまだ谷を覆っていた。

だが、その白い帳の向こうから、かすかな光が滲み始める。

《風の間》の布の隙間に、淡い朝の色が差し込んだ。


レイブンは目を開け、静かに身を起こした。

外を吹き抜ける風の音は、夜の祈りの残響をまだ抱いていた。

だが、そこに混じるように、新しい響きがあった。

それは夜の囁きとは違う――柔らかく、どこか希望を含んだ音だった。


ミラはすでに起きており、裸足のまま外に立っていた。

霧に濡れた石の上に杖を立て、目を閉じて風を受けている。

その表情は、夜に聞いた祈りを胸に抱きながら、朝の光を迎える器のようだった。


フィオナは矢筒を背負い直し、丘の方角を見つめていた。

矢羽根が風に揺れ、夜の間に宿った声を吐き出すように震えている。

彼女は矢を一本抜き、朝の光にかざした。

「……夜の祈りは、まだ矢に残ってる。 でも、これは朝の風に放つべきだね。」

声にはならないが、唇の動きがそう語っていた。


イリスは結晶を胸に抱き、霧の中を歩いていた

結晶は夜の間、沈黙のままだった。

だが、朝の光が触れた瞬間、微かに震えた。

それは兄の声ではなく、もっと遠い、名もなき誰かの声だった。

「……夜に眠っていた声が、朝に目を覚ますんだ。」

彼女はそう呟き、結晶を霧にかざした。


やがて、谷の底から風が吹き上がった。

霧を裂くように、朝の光が差し込む。

沈黙の石がかすかに震え、夜に託された祈りが、朝の風に乗って解き放たれた。


それは悲しみでもなく、喜びでもなく―― ただ「生きていた」という証の声だった。


レイブンは剣の柄に手を添え、静かに頷いた。

「夜に残された声は、朝に語られる。 」


ミラは祈りの杖を掲げ、フィオナは矢を握り、イリスは結晶を胸に抱いた。

それぞれの器に、夜の祈りと朝の声が重なっていた。


霧が晴れ、谷の輪郭が少しずつ姿を現す。

《スヴァルの環》の灯火は消えず、むしろ朝の光に溶け合いながら、淡く脈動していた。


語る者たちは、互いに目を合わせた。

夜に受け取った沈黙を、今度は語りとして歩み出すために。


沈黙の石の輪に近づいた瞬間、空気が変わった

霧が渦を巻き、風がざわめく。


白銀の甲羅に風紋を刻んだ巨体――《風の番・陽》。

黒き甲羅に苔と沈黙の石を宿した巨影――《風の番・陰》。


二体は沈黙の石の両側に立ち、語る者たちの前に立ちはだかった。


陽の声は風に混じり、鋭く響く。

「語ることは、風を裂く。沈黙は、裂かれてはならぬ。」


陰の声は地鳴りのように低く、重く響いた。

「沈黙は、語られたいという願いの形。だが、それを壊すならば、我らが守る。」


ミラが祈りの杖を掲げると、陽が風を巻き起こし、祈りの粒子を散らした。

イリスの結晶は震え、光が乱れる。

フィオナが矢をつがえると、陰が地を踏み鳴らし、足元が崩れて狙いが逸れる。

レイブンが剣を抜けば、風と地の壁が立ち上がり、沈黙の石への道を閉ざした。


語る者たちは立ち尽くした。

「語ることは……本当に、沈黙を壊すことなのか。」 ミラの胸に問いが生まれる。



その時、谷を覆う霧の奥から、規律正しい足音が響いた。

ノクス連邦の黒衣浄化兵――総勢百二十。

彼らは声を上げず、 手には記憶粒子を焼き払うための術式装置

術式装置の光を胸に抱き、沈黙の石を目指して進軍していた。

それは「静かな強襲」

国境を越え、谷を制圧するための精鋭部隊だった。


「この石は記憶病の源。破壊し、沈黙を浄化する。」

指揮官の声と合図とともに、兵たちは進行する。


谷を覆う霧の中、浄化兵の陣形が整うと同時に、二体の巨影が動いた。

二体は沈黙の石を守るために応戦した。



白銀の甲羅を輝かせた《風の番・陽》が、翼のように広がる風紋を震わせる。

その瞬間、谷全体の風向きが変わり、兵たちの詠唱が乱れた。

炎の矢は軌道を外れ、光の槍は霧に散らされ、雷撃は空へと逸れていく。

陽の声が風に混じり、鋭く響いた。

「秩序の声は、風に届かぬ。」


兵たちは盾を重ね、風を押し返そうとする。

だが、陽の風はただの突風ではなかった。

それは祈りの粒子を巻き込み、兵の術式そのものを切り裂く刃となっていた。

盾列が一瞬で崩れ、前列の兵が吹き飛ばされる。



同時に、《風の番・陰》が大地を踏み鳴らした。

重い衝撃が谷底を揺らし、兵の足元に亀裂が走る。

三列に整った陣形が崩れ、後列の術者たちが体勢を崩した。

陰の声は地鳴りのように低く響いた。

「沈黙を裂く足音は、地に拒まれる。」


崩れた地面から黒い石片が突き上がり、兵の術式装置を叩き落とす。

光を宿した装置が砕け、術式の連鎖が途切れる。



陽が風で兵を散らし、陰が地で足を奪う。

風に煽られた兵が転倒すれば、その下から地が裂けて飲み込む。

地に踏みとどまろうとすれば、風がその身体を吹き飛ばす。

二体の動きは対照的でありながら、まるで一つの意志であるかのように噛み合っていた。


兵たちは必死に再編しようとするが、風と地の連撃に阻まれ、陣形を保てない。

「秩序を乱すな! 陣を立て直せ!」

指揮官の叫びも、風にかき消され、地の震えに呑まれていった。


浄化兵は、指揮官の合図とともに三列に展開した。

前列は盾を重ね、術式障壁を張る。

中列は炎と光を紡ぎ、後列は雷撃と支援を構える。

谷を覆う霧を裂き、整然とした三層の陣形が沈黙の石を包囲した。


だが――その秩序は、少しずつ崩れ始める。


《風の番・陽》が風紋を震わせると、突風が前列を襲った。

盾列は一瞬で傾き、障壁の重なりが乱れる。

そこへレイブンが剣を地に突き立て、陰の震えを導いた。 地面が裂け、盾を支えていた兵の足元が崩れ、前列は瓦解する。


中列は必死に炎と光を放つが、ミラが杖を掲げると、風の粒子が祈りに共鳴し、術式の軌道を逸らした。 炎は霧に散り、光は仲間の盾に反射して後列を混乱させる。

「祈りは、風を受け止める器になるもの……」

ミラの静かな声が、風の番の力をさらに拡散させていた。


後列は雷撃で応戦しようとした。

だがフィオナが矢をつがえ、放たずに羽根を風に晒すと、矢羽根の唸りが陽の突風と共鳴し、兵の合図をかき消した。

雷撃は同期を失い、ばらばらに放たれて地を焦がすだけとなる。

「矢は放たずとも、声になる……」

その囁きが、兵の耳を惑わせた。


さらにイリスが結晶を掲げると、影の囁きが反響し、幻影が兵の視界を覆った。

かつて見捨てた祈り、助けを求める声、血に濡れた仲間。

後列の術者たちは詠唱を止め、結晶の光に怯えた。


こうして三列の陣形は、前列の盾が崩れ、中列の術式が乱れ、後列の支援が途絶えることで、連鎖的に瓦解していった。

秩序の象徴であった三層の布陣は、風と地と声に揺さぶられ、もはや形を保てなかった。



――霧が震えた。

その中心から、黒衣の影が歩み出る。

輪郭は揺らぎ、幾人もの顔が浮かんでは消える。

胸元に刻まれた紋章だけが揺らがず、淡く光を放っていた。


風と地は沈黙の石を守るために戦った。

だが、影は沈黙の奥から応答するために現れた。

守護と顕現――二つの力が、同じ場に並び立っていた。


――祈りの外縁。記録から抹消された者たちの証。

無数の囁きが重なり合い、やがて一つの声に収束する。

それは低い呻きと幼い囁き、女の嘆きと男の叫びが同時に響くような声だった。

「……私は、影と呼ばれた者。」


その声が響いた瞬間、兵の術式が逆流した。

炎は盾を焼き、光は味方の列を貫き、雷は地を裂いて自らを呑み込む。

完璧な隊列が、一声で崩れ落ちた。

「怯むな! 三角陣を組め!」

指揮官の叫びに応じ、兵たちは即座に再編した。

三方向から同時に術式を放ち、影を包囲する。 炎、光、雷――三重の術式が渦を巻き、影を押し潰さんと迫る。

だが影は輪郭を震わせ、無数の顔を浮かび上がらせた。

「拒まれても、消されても……声はここに在る!」

黒い風が爆発した。

三方向の術式はねじ曲げられ、兵の陣形ごと吹き飛ばされた。

盾は砕け、槍は折れ、兵たちは地に叩きつけられる。


吹き飛ばされた兵の中で、なお数人が立ち上がった。

「秩序のために!」


その瞬間、兵の視界に幻影が広がった。

かつて見捨てた祈り。

助けを求める声。

泣き叫ぶ子供。

血に濡れた仲間。


「やめろ……!」

兵の術式が乱れ、術式は乱れ、残った光が弾けて消えた。

影は静かに歩み出る。

語られなかった声は、語る者を拒まない。

ただ、届くことを待っていた。

兵たちは武器を握りしめたまま、立ち上がれなかった。

秩序への忠誠が胸を突き上げる。

だが、幻影に揺さぶられた心は術式を紡げない。

彼らは敗北ではなく、迷いに押されて退いたのだった。

陣形を維持できなくなった。術式を解き、後退するしかなかった。

霧の奥へと退きながら、その胸には迷いと恐怖が残っていた。

谷に残ったのは、影と沈黙の石、そして震え続ける声の余韻だった。


レイブンは剣を収め、低く呟いた。

「語ることは、声を放つことだけじゃない。 耳を澄ませ、沈黙を受け取ることも……語ることなんだ。」


四人は互いに目を合わせた。 沈黙の中に、確かに語られた声があった。


沈黙の石の震えは、やがて輪の中心に広がった。

風が霧を巻き上げ、地が低く唸る。

その中で、語る者たちは声を発さず、ただ耳を澄ませていた。


ミラは杖を握りしめ、目を閉じる。

祈りの言葉を紡ぐ代わりに、風の震えをそのまま胸に受け止めた。

「……祈りは、語らなくても届く。」


イリスは結晶を掲げた。

光は揺れ、兄の声ではなく、無数の名もなき声が重なって響いた。

「これは……誰かの声。忘れられたはずの声が、まだここにいる。」


フィオナは矢をつがえず、ただ羽根を風に晒した。

矢羽根が震え、夜に宿った祈りが朝の風に解き放たれる。

「矢は放たなくても、風に乗れるんだ。」


レイブンは剣を地に突き立て、沈黙の石と地を繋いだ。

剣の柄に刻まれた仲間の印が淡く光り、風と地の震えに共鳴する。

「語ることは、戦うことじゃない。受け止めることだ。」


その瞬間、霧の中にいた影が、風の番へと向き直った。

「沈黙を守る者よ。私は、語られなかった声。  拒まれても、消されても、ここに在り続けた。」


陽は風を巻き、陰は地を震わせた。

だが、その動きは長く続かなかった。

沈黙の奥から響く声に、二体は一瞬、逡巡した。

拒絶の力が揺らぎ、風と地は迷うように震えた。


陽:「……沈黙は裂かれてはならぬ。だが、もし裂け目から声が漏れるなら……それもまた風の一部。」

陰:「沈黙は守るもの。だが、守られた沈黙が声を生むなら……それもまた記憶。」


影は頷き、霧に溶けていった。

沈黙の石が最後に大きく震え、そして静かに落ち着いた。


風が止み、霧が晴れ始める。

残されたのは、確かに届いた“声の余韻”。


語る者たちは互いに目を合わせた。

誰も言葉を発さなかった。

だが、その沈黙の中に、確かに語られた声があった。


谷を吹き抜ける風は、もはや拒絶の刃ではなかった。

それは、語られなかった声を抱きしめるように、柔らかく流れていた。


レイブンは低く呟く。

「沈黙は終わりじゃない。次の語りへの橋だ。」


ミラは祈りの杖を掲げ、イリスは結晶を胸に抱き、フィオナは矢を握りしめた。

それぞれの器に、沈黙と声が重なっていた。


《スヴァルの環》の灯火は、朝の光に溶け合いながら脈動を続けていた。

語る者たちは、その光を背に、新たな旅路へと歩み出した。

だが、レイブンの胸には奇妙なざわめきが残っていた。

「……まだ終わってはいない。」

彼の言葉に、ミラもフィオナもイリスも頷いた。

風は柔らかく流れていたが、その奥底に、鉄の鎖が軋むような響きが混じっていた。

それは、次に訪れるものの影を告げていた。



同じ時、大聖堂の奥では鎖の軋む音が響いていた。

谷を吹き抜ける風と、塔に響く鎖の音――遠く離れた二つの場所で、同じ声が重なっていた。

――「忘れないで」

ルシエルは大聖堂の奥で、三柱を見つめていた。

《眼》は虚ろに光を放ち、

《舌》は意味を失った言葉を呟き、

《鎖》は軋む音で沈黙を縛っていた。

「……これが、秩序の三柱……」

胸に残る声が囁く――忘れないで。

その囁きは、枢機卿の冷たい言葉よりも強く、彼の鼓動に重く響いた。 だが、足は動かない。進めば秩序の後継者として三柱を率いることになる。 立ち止まれば、秩序に切り捨てられる。


石床の冷たさが足裏から這い上がり、喉は乾き、声は出なかった。

ただ鎖の軋む音だけが、彼の胸の迷いを代弁するかのように響き続けていた。


――答えを出せぬまま、秩序の後継者として命じられた狩りと、胸に響く声の間で、彼は沈黙に縛られていた。

その迷いは、やがて彼自身をも裂くことになるだろう。


その時――。


鎖の軋む音が、突如として大聖堂全体に響き渡った瞬間、三柱がわずかに動いた。


《眼》が虚ろな光を放ち、壁に封じられた記録を一斉に照らす。

英雄の名は崩れ、勝利の歌は悲鳴に変わり、奇跡の物語は血に濡れた断片となって散った。

改竄された記録が光に焼かれ、影のように揺らめいた。

その光はやがてルシエルの顔に注がれ、まるで彼の奥底を覗き込むかのようだった。


《舌》は意味を失った言葉を呟き続けていた。

だがその断片の中に、確かにルシエルの名に似た響きが混じった。

「……ル……シ……エル……」

それは声とも機械音ともつかぬ震えで、彼の鼓動と同調するように胸を打った。

さらに「後継者」「忘れないで」と矛盾する声が重なり、胸を裂くように響いた。


《鎖》は軋みながら床を這い、冷たい鉄の環がルシエルの足首に絡みついた。

その瞬間、彼の全身に凍りつくような感覚が走る。

足元から這い上がる冷気は、まるで「お前もまた縛られる」と告げているかのようだった。

彼自身の鼓動と同調し、まるで秩序そのものに心臓を握られているかのようだった。


ルシエルは息を呑み、後ずさろうとした。だが足は動かない。

三柱は完全に目覚めたわけではない。

それでも、彼にだけ向けられた光と声と鎖の感触は、確かに「選ばれた後継者」への応答だった。


鎖の音が再び轟き、大聖堂の壁に封じられた記録が封じられた記録が一斉に声を上げ、勝利の歌は呻きに、英雄の名は泣き声に、奇跡の物語は断末魔に変わった。

それは秩序が誇った栄光の記録が、裏返って「忘れられた声」として逆流する瞬間だった。

その残響の中で、ルシエルはただ立ち尽くしていた。


――答えを出せぬまま。

三柱の擬似覚醒は、彼の迷いを映す鏡のように、大聖堂を震わせていた。


枢機卿は玉座から目を細め、静かに見下ろしていた。

その瞳には、わずかな満足の色が宿っていた。

「それでいい。迷いもまた、秩序を試す刃だ。」

「その迷いを抱えたまま狩れ」



足首を縛る鎖は冷たく脈打ち、まるで彼自身の鼓動を秩序に繋ぎ止めるかのようだった。

壁に封じられた記録が震え、石床が低く唸り、天蓋の影までもが揺らぐ。

それは三柱の目覚めを告げる音であると同時に、ルシエル自身の迷いを断ち切ろうと迫る刃の響きでもあった。


彼は目を閉じた。

だが鎖の音は止まらなかった。

――大聖堂そのものが、彼の沈黙を試すかのように鳴り響いていた。


その響きこそ、秩序の次の刃――三柱。

そしてその刃は、ルシエルの胸に影を落とし、やがて彼自身の声をも呑み込むだろう。

あとがき・秩序の三柱


《眼》「はいどうもー!秩序の三柱でーす!……って、読者のみなさん、ここまで13話読んでくれてるんですか?長かったでしょ?目ぇ疲れてません?僕なんか光りすぎてドライアイですよ!」


《舌》「ル……シ……エル……って、何回も呼んだのに返事なし!おーい読者さん、もし“ルシエル頑張れ!”って心の中で応援してたなら、ちゃんと声に出して!沈黙は毒って枢機卿も言ってたでしょ!」


《鎖》「お前が言うな!お前の声が一番毒や!……てか読者さん、正直“鎖の音がギィィィィ”って描写、頭の中で再生してました?してなかったら僕の存在感ゼロやん!効果音担当の気持ちも考えて!」


《眼》「いやでもさ、今回の見せ場はやっぱり僕でしょ?記録をバーッと照らして、英雄の名を崩して、ルシエルの顔にスポット当てて!」

《舌》「いやいや、僕が“忘れないで”って言ったから感動したんやろ!……読者さん、泣きました?泣いてない?え、ページめくるの早すぎた?」

《鎖》「お前ら二人とも勘違いすんな!最後にドーン!って大聖堂ごと鳴らしたのはこの僕や!音響効果、全部持ってったの僕やから!……てか読者さん、イヤホンで読んでた人、脳内爆音でビビったやろ?」


《眼》「……でも結局、ルシエルくんは迷ったままやったな。」

《舌》「そうそう。“答えを出せぬまま”って、オチが僕らのせいみたいになってるやん!」

《鎖》「まあええやん。迷いもまた秩序を試す刃やって、枢機卿も言うてたしな。……読者さん、次回もルシエルが迷うの見たいでしょ?“また迷うんかい!”ってツッコミ準備しといてな!」


《眼》「というわけで、次回も我々三柱の活躍に――」

《舌》「ご期待くださ……ル……」

《鎖》「噛むな!最後くらいちゃんと締めろや!……読者さん、ここ笑うとこですよ!」

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