第2話『獣人の村と、もふもふ少女(とまた魔物』」
初めて訪れる村は、のどかで穏やかな場所だった。
草原の小道を歩くことしばらく。見えてきたのは、木造の簡素な建物が並ぶ小さな集落。家の屋根には藁が敷かれ、土で固められた道路を、馬車がゆっくりと走っていた。
「……うわ、ほんとに“異世界”って感じだ」
俺の独り言に答える者はいない。当然だ。俺はここで知り合いなど一人もいないのだから。
にもかかわらず──村に入って数秒で、視線が突き刺さる。
「……あれ、人間?」
「でも変な服着てる……」
「冒険者? いや、子どもじゃ……?」
子ども扱いはやめてくれ。
村人たちの視線を受けながら、おずおずと歩を進めていると──
「きゃっ!? あなた、大丈夫!?」
不意に、ぱたぱたと駆け寄ってきた少女がいた。
耳が、ぴょこぴょこと動いている。
髪は薄茶色で、腰まで届く長さ。その頭には、ふさふさの犬のような耳。腰には同じくふさふさのしっぽ。──獣人だ。まごうことなき、異世界ファンタジーの住人。
「あ……ああ、大丈夫です。たぶん」
「たぶんって……え? ケガは? 服、ほこりまみれじゃない。っていうか、裸足!?」
そう言われて気づいた。確かに裸足だった。どうりで草原を歩くのが痛かったわけだ。
「私、ラナって言うの。ここの村で薬師をしてるの。……とりあえず、うちに来て!」
ぐいっと腕を引かれて、俺はそのまま連れていかれる。まるで初めて会った人に懐いた迷い犬みたいな気分だった。
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◆
ラナの家は、村の端にある小さな薬草小屋だった。
薬草の香りがほんのりと鼻をくすぐる中、俺は椅子に座らされ、タオルで顔を拭かれ、足を洗われ──気づけば完璧に世話されていた。
「で、あなた、名前は?」
「……あ、ハルト。サトウ・ハルト。なんか、いろいろあって……気づいたら草原にいた」
「うーん……記憶喪失?」
違うけど説明できないから、否定はしない。
とりあえず「気がついたらこの世界にいた系」で押し通すことにした。実際そうなのだから、あながち嘘でもない。
「まあ……助けてくれてありがとう。なんか、あったかくて……安心した」
「ふふっ。村の人はみんな優しいよ。あなたが悪い人じゃないなら、歓迎するよ」
ラナが笑うと、獣耳がぴくぴく動いて、それが妙にかわいらしい。やばい、癒やされる。
「ところで、ハルト。魔物に襲われたりしてない?」
「ん? ……まあ、一匹」
「えっ!? 一匹!? 大丈夫だったの!?」
「なんか、気づいたら爆発してた」
「……」
ラナはポカンとしたあと、急に真顔になって俺を見つめた。
「えっと、もしかしてあなた──“加護持ち”?」
「加護?」
「うん。神様に祝福されてる人。例えば《風の神の加護》なら、風の魔法が得意になったり、《力の神の加護》なら腕力が上がったり……。それによってスキルや能力も違うの。大抵は神殿で判別してもらうんだけど」
「へえ……あ、そういえば、ステータスに“加護:???”って書いてあった」
「な、なにそれ!? 識別不能の加護なんて、聞いたことないよ!」
「まじで?」
「うん……あの、ハルト。もしかして、すごい人なんじゃ──」
「いやいや! 俺はただの一般人です! ただ、ちょっと運がいいだけかもしれない!」
あわてて否定した。でも、ラナの目は「絶対それだけじゃない」という疑惑に満ちていた。
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◆
その日の夕方。
村の広場が、騒がしくなった。
「村の外に魔物が現れたぞー!!」
「子どもたちを避難させろ!」
どうやらまた魔物が来たらしい。村の門の向こうには、さっき俺が倒したのと同じような黒い狼が二匹、低く唸りながら歩いていた。
「……またあいつらかよ。デジャヴ?」
俺はラナと一緒に避難する……つもりだった。
「ハルト!」
ラナが俺の手を掴む。走ろうとした、その瞬間。
狼の一匹が、ぐるると唸ってこちらを見た。
ラナが、足を止めた。
足が震えている。
このままだと、ラナが──
「ちょっとだけ、下がってて」
俺は、ラナを後ろに庇うようにして前に出た。足は震えていた。何をするかなんて、俺自身もわかってなかった。
でも──
「やるしかねぇじゃん、こうなったら」
そうつぶやいて、一歩、前に踏み出す。
その瞬間だった。
光が、俺の足元から広がった。
──ズドォォォン!!
再び、爆音とともに地面が弾け飛ぶ。光の奔流が、狼たちを呑みこみ、何も残さなかった。
俺は、ただ立っていただけだったのに。
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▼ 新たな称号を獲得しました
・【守護者(仮)】
・【ラナの恩人】
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「……は?」
またこれか。
振り返ると、ラナがぽかんとした顔で、俺を見ていた。
その瞳に、なにかきらきらしたものが浮かんでいたのは──
気のせいじゃ、なかったかもしれない。
「面白かった!」
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