転生ゲーム4つめ
修羅場だよ。
こういうのだーい好き。
修羅場ぁ修羅場ぁ。
この状況をピエロはケラケラ笑って見ている。
時計を確認して、
もう半分経ってるよー、残り30分。
と嬉しそうに俺達に告げてきた。
西郷どんは
彼女に目配せして
「すまんがお茶を入れ替えてくれんか」と言いながら
腕を組み直して目立たないように右の人差し指を
トントンと2回叩いた。
"じゃ私は外に出るね"
修羅場から脱出できる安堵か声が明るい。
開けた障子から日の光が差し込み、小鳥のさえずりが微かに聞こえた。
障子を閉めて台所ってどっちだろうとキョロキョロしていたら廊下の奥から男が早くコッチに来いと言わんばかりに手招きしている。
彼女は、直感であそこにあの娘が居ると思って急いで手招きされた部屋に入った。
とても静かな洋室に彼女は子供の頃弟と遊んだ父の書斎を思い出し、懐かしく感じていた。
一番奥に居た男が静かに
「西郷は何か伝えていなかったか?」と聞いてきた。
お姫様は、"この人が小松帯刀。今ここで一番偉い人。"と彼女に伝える。
何も気付いていなかった彼女は、目を泳がせる。
"右手の人差し指をトントンしてたよ"
ランドセル武士が思い出した様に言った。
"ナイス!"お姫様が思わず叫ぶ。
彼女は、西郷どんのモノマネをしながら2回右の人差し指をトントンとして見せた。
「やはり軍艦か」
「ですがこれ以上は亀山社中で隠しても・・・」
手招き男が遮る様に言った。
「露見するだろうな・・・」
小松は深く深呼吸をした。
この状況は土下座真っ最中のおれたちには伝わっている。
あっちにも重い空気が流れてる。
作戦どころじゃない。
修羅場のこっちだって心配している余裕は無い。
ましてや畳に頭をつけたままの俺は、表情すら分からないんだから。
ふと桂が
「西郷殿、お庭を拝借いたします。」と覚悟を決めたように言った。
「そこまでせんでも」察した西郷が答える。
「私が介錯をする。腹を切れ。」
切腹。
そもそも死んでる俺は死ぬのか?
でも痛いのは確かだろ。
それ以前に作法とかあるんじゃないか
考えてる暇もないし、どうすれば・・・
「桂さんっ、それはいかんっ。」
強い声で坂本龍馬が叫ぶ。
「長州を本気で救う気があるなら、
品川君みたいな真っ直ぐなお人は生きて誰かを救う。
そうさせるのがお主の役目じゃ。」
「中岡、お前もそう思うじゃろ!」
"ランドセルっ"
"中岡慎太郎。坂本龍馬の親友で一緒に・・
そんな事より君が作戦のネックだよ。"
一瞬口をつぐんだけど何?
とにかく慌てながら「その通りです」
とその場を繕った。
ちなみにおれたちの作戦は至ってシンプル。
坂本龍馬に丸投げ。
だって幕末のスーパーヒーローだもん。
お姫様の絶対的な信頼の下、この男をその気にさせて丸め込んでいただく。
まぁこれしか思いつかなかったと言うのが真相だが。
"しかしこの修羅場ぜよ"心の中で思わず本音が漏れる。
桂は2人に反対され、黙り込んでしまった。
切腹と言う空気は洋室にも否応無く伝わっていた。
手招き男はやむなしと言う表情。
小松は、ふとお姫様の方に顔を向け、
「お前はどう思う?」と聞いてきた。
"あ、あたし?"心音が大きく速く響くのが
俺にも伝わっている。
「切腹なんて、誰かが死ぬところなんて見たくないです。」キッパリと言い切った。
「武士の意地でもか?」手招き男の
低く冷たい声が突き刺さる。
その時、目立たない様に後ろに回っていた彼女が堰を切ったように言い出した、
「あの、武士の意地とかそんな事で
男の人は簡単に命を投げ出してしまいますが、
残された私たちは、そんな事で割り切れるものじゃありませんっ!」
彼女は弟を事故で亡くしていた。
スピードを競うオフロードレース。無謀なスピードで逆転を狙って、崖に激突・・・
目の前で事故の様を見ていた彼女の脳裏には、
「意地でも姉ちゃんの前で優勝するから」
と言っていたあの顔が今でも悪夢のようにつきまとっている。
悪夢は消えない。彼女は感情をむき出しにして全身が膠着している。ちからいっぱいにぎったこぶしが震えて、泣きそうな顔で睨んでいた。
小松は思いたったように部屋を出ようとした。
手招き男は、障子の前に行き抑える。
「小松様、事が終わってから向かわれる方が宜しいかと」
「こういう時、西郷吉之助なら切腹なんてさせない。でも西郷隆盛なら切腹させた上で強引に話を進める。」
「大久保、今必要なのは、お互いのわだかまりを無くす事だ。
ここは武士の西郷隆盛ではなく、優しく誰からも愛される西郷吉之助が必要なんだ。
迷ってるあの男の決意を固めさせる事が私の仕事だ。」
そっと回り込み外に出て、小走りに向かう。
静寂を破るために力強く。
障子を開け放ち、
「西郷!お前のやりたい事は何だ?
なにをすべきかはもう分かっているんだろ。
お前は優しい男だ。今はお前の信ずる様にしなさい。」
「小松様・・・」
西郷には、言葉に託された思いが分かっている。
「桂君、長州はこれからが正念場。
意地を張っても仕方がありません。
私としても寛大な判断をお願いいたします。」
そう言って障子をあけ放ったまま戻っていった。
ランドセルもとい中岡はこの時の小松はかっこよすぎだったけど
とても清々しい空気を運んでくれたと思った。
あとは、最初のひとことがあればきっとうまくいく、
みんな思っている。問題はだれが切り出すかだ。
誰もが切り出す言葉を考えあぐねていることは俺たちにも分かる。
”こういう時こそ坂本竜馬を持ち上げるときぜよっ!”
さっきまで黙っていたお姫様がここぞとばかり叫ぶ。
”そりゃそうだとは思うけど、本物の中岡慎太郎じゃないんだから・・・”
”友達だったらなんて言うの?”
この部屋にいる俺たちは何も思い浮かばない。
ふと、
"背中を思いっきり叩いて。気張りやっ、それで大丈夫。"
とても優しく心地よい声を聞いた。
ドン!「気張りやっ」
ランドセル武士は友達の背中を押してあげる。
それだけでよかった。
「まっこと、小松様の言う通りじゃ。
あのお方はかっこよすぎるっ」そう言って無邪気に笑った。
「全く、君は一生かけて今日の汚名を濯ぎなさい。
簡単に死ぬ事はおいが許さん。
桂さん、それで良いですね。」
つられた様に屈託のない笑顔を見せた。
「お心使い感謝いたします。」
桂は頭を下げた。
「聞いての通りだ、
お前は一生の矜持をたった今皆さんに授けていただいた。
長州男児の意地を貫いてみせろ。」
「ハッ!」
大きく答えてやっと顔をあげてみる。
この部屋こんなに広かったんだ・・・
小鳥のさえずりが聞こえる明るい空間に笑顔が戻った。
「出来る事、出来ない事。
そんな事はいくらでもある。
今はお互いのわだかまりをなくして
手を取り合う時。」
そういって坂本が西郷と桂の手を取ってお互いの手をくっつける。
「きっと上手くいく。
こんなわしで良ければいくらでも保証するきに」
”はーい、ミッション終了あと3分以上残ってるし”
その瞬間に俺たちを残して誰もいなくなった。
お姫様は蟻じゃなくて元のJKのかっこうに戻っている。
「まさか、ご本人がアドバイスしてくれるなんて、オモワナカッタヨー。」
何故最後は外国人さんのカタコト日本語。
「さて、お待ちかね。一発逆転チャーンスのお時間です。」
実は前話投稿時、ノープランでした。
ランドセル武士の正体が決まっていたくらいです。
長くならない様に色々考えても
多かったかなと思います。
でもその分しっくり来た感があるので良かったかなとも思ってます。
でも次もノープランだったりして。
でも、多分ナントカナルヨー。
カタコト日本語かいつ、




